彷徨う迷子のように見失っても ほら 輝く愛は消えない
前作「アス永遠」が2014年に発売されてから約5年ぶりのFAVORITE完全新作になる本作。シナリオに「いろセカ」の漆原さんを起用し重厚な世界観の再来を目指した印象です。
ストーリーは、主人公たちが子供のころ魔法少女として戦ったことと、現在の時間軸での日常と非日常が混在しながら進んでいきます。おおかたの場合序盤は世界観の説明を入れてくるのが通例ですが、断片的に過去描写が入るあたり、意地が悪いなと思います。それが後半で一気にまくるための布石なのかもしれませんけれど。
個別ルートは攻略固定されており、最初は姫織と千和の2人。どちらも作品全体の世界観の下地を担うお話でありつつ、それでいて、ひとつの独立性もあって、個別ルートとしての強い側面もあるように思います。
姫織ルートの序盤は、十夜ルートといってもいいような切り口ですね。こうサブキャラクターにも光を当てる展開は、わりと他の部分で生きてきたりします。肝心の姫織自身のお話は、「さくら」「Reincarnation」をそのまま体言化したようなものでした。姫織に限ったことではないですが、共通部分において、家族(とくに大人)の話というのが意図的にか、省かれている印象があります。あくまでも子供が主体であるかと言うように。姫織ルートでキーになる母親の話は、後から着いてくるものですが、このあたりの語り方には「してやられたな」という気持ちがあります。ナナの不自然な言動も最終的には綺麗に収まり、盛り上がり所は少ないかもしれませんが、上手くまとまったルートに思いました。
もう一人、千和ルートの視点から全体を俯瞰すると、夜の世界の根幹を形作るお話でしょうか。このルートにおいては、いろんな意味での"ズレ"がキーワードかなと思いました。かの戦争以前からスタートする千和の回想が、突拍子もないように見えて、他で回収した要素ともリンクしながら進んでいくので、ハマったときはおもしろいですね。初見では、わりと山場となり得る部分が多くあるように見えますが、このルートでのストーリー展開の上手さは別視点でネタバレするところです。最終的に綺麗なオチがついていますが、そこに至るまでの過程が絶妙に感じます。何人も一人ではなく、見守ってくれている"誰か"がいるから、生きてゆける。この個別ルートにおいてはシンプルなメッセージ性ながらも、他ルートとのマッチングが良く、これは作品のなかで大きなピースに思いました。
上2人のルートをベースに話は進むハルルートですが、前半はもう一人の魔法少女あず咲がメイン。彼女とその弟との、さりげないようで大きな愛情のお話です。これから始まるハルルートの核と比較すると前説になってしまうのですが、どのサブキャラクターにも光を当てる展開は、やっぱり嫌いではないですね。そのハルのストーリーと対比させるのは、千和ということになるのでしょう。パラレルとか枝分かれとか、この世界の話をする上で使い古されたネタでありますが、その使い方ひとつでこの世界をがらりと変えることができるもの。ハルルートのひとつの肝は、絶妙のタイミングで始まるハル(子供時代)回想シーンでした。ここからパズルが少しずつ解けていくような気分でした。もうひとつターニングポイントがあるとすれば、バッドエンドじみたモノローグでしょうか。どのルートにも暗さはありますが、負を表現するには、これはいささかチープな印象です。ここが表舞台ではなく、黒子のようなクロのおかげ、ということならば、次の話に繋がるイメージに感じたのも間違いではないと思うのですが。とかくこのルートにおいては生殺与奪のインパクトが強く残りました。
そして残すはあとひとり。クロなわけですが。ここで2ndOPが入るあたりここからが山場ですね。各ルートで辿ってきたお話をベースに、舞台裏ともいうべきか、クロがメインに据えられた構成なのはもちろんです。ましろというキャラクターが前半の主になりますが、このタイミングで登場させたのも、采配としては効果的だったのかなと。猫らしさを残したクロのキャラクターが終盤のストーリーには馴染んでいたのは印象的でしたが、すべてが救われた話なのかなという疑念は最後まで残りました。
輪廻転生と、簡単なテーマで括ることもできますが、根底にあるのは「生まれてきてくれてありがとう」に尽きるのでしょう。この作品、とんでもなくボリュームがあり、通常のフルプライスゲー換算でも2本以上の長さがあるのでは。長ければ、その分中身のある物語になっているか、と問われるとそうでもないような。気になる点を作るのは非常に上手いのですが、後から後から小出しにされた情報を読み手が繋いでいく必要があり、求めていた答えが綺麗に用意されているとは限らないのかなと思いました。結論を言うならば、世界観にしろ、キャラクターにしろ、構成にしろ、よく作り込まれた作品であることは間違いないですが、楽しく最後までプレイできた作品とは言えません。悪く言えばダレました。究極の伏線回収考察修行ゲーです。この作品を掘り下げるならば、最低限の知識と読み解く力が必要かと思います。その求められる最低限がかなり高い気はしますが。いろいろと考えながら進めていくと、テキストばかりに注目が行ってしまって、キャラクターそのものへの入れ込みが薄くなり、キャラゲーとしての良さを見つけることもできませんでした。なんだろう、とにかく"難しかった"です。