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比翼れんりさんの君と目覚める幾つかの方法の長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
君と目覚める幾つかの方法
ブランド
Navel
得点
81
参照数
384

一言コメント

笑顔があふれる未来へと目を向け キミと手と手を繋ぎ歩いてゆける 力をあわせて

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「つり乙」シリーズに区切りをつけ、新たにリリースするNavelの新作です。かなりシリーズが長く続いたので、ブランドのイメージが想像しにくくなってしまいましたが、今作はダークさを前面に出し、学園や一族を題にしたものではありません。方向性という意味では、かなり思いきった舵の切り方にも見えますが、シナリオにかずきふみさんを迎えたことからも、かなり意欲的な作品になっていたように思います。

メインヒロインと呼べるのはパッケージ通り3人ですが、ストーリーは実質的に一本道ですね。初音との出会いから物語が動き始め、わかりやすい悪の構図に立ち向かっていくのが、中盤までの流れでしょうか。これは最後まで言えることなのですが、キャラクターのひとりひとりが立っており、役割やそれぞれの存在意義をきちんと見出だしています。これがストーリー上、淀みを生まない、大きなファクターになっているように思いました。見せ方を非常に意識的で、意外性のある結末を提示したのち、その過程を描くスタイルがとてもハマっていました。典型的な懲悪のストーリーなのですが、各ヒロインの彼女たちらしさの光る活躍、サブキャラクターたちのサブとは思えない重要さなど、骨格がしっかりしているからか、多少の曖昧さがあったとしても、芯のあるシナリオに感じました。

ひとつの区切りとして、裁判をもって平和な日常に戻るというのが第1部でしょうか。ここで、3人のヒロインとのエンディングに分岐します。それぞれに、ちょっとした事件や決意がありますが、特にストーリー上には大きく響かず、あくまでシーン回収の側面が強いのかなと思います。

最終章のストーリーは、その平和な日常の先にある、反撃を描いた部分で、それを乗り越えてこそ、本当の日常に落ち着きます。ここでも3人のエンディングがありますが、どれをとってもメインストーリーに違いはありませんね。この最終章については、先の「結末を見せたようで実は……」の究極的な演出ですが、オートマタの暴走など含めても、どうしても同じことの繰り返しに見えてしまい、作品としての絶頂は、中盤の切り返しのところなのかなと思いました。ところどころ、いろいろな意味で「目覚める」ことがポイントになっていたのは印象的でしたが。

構成として、山をいくつか仕込むことで、飽きさせない配慮が見てとれ、とてもおもしろく最後までプレイできました。どうしても先が見えるのは仕方ないにしろ、おおかたの伏線の張り方や回収の仕方は絶妙で、キャラクターの設定も上手く重なって、終始楽しかったです。

この作品において重要なキーはやはりオートマタでしょう。近未来的な存在をどう描くのか、というのは、創作物の課題でありますが、今作では、かなり身近に寄り添ったもので、非常に好感が持てました。それでいて、負になり得る対面を引き合いに出しており、人間とは?オートマタとは?というのを、一貫してテーマにしていたように思います。

ヒロインは3人と言いましたが、実は初音がやはりメインに居るべきなのかなとは思います。家族を殺され、主人公たちと家族になっていく、そこにオートマタや支える人たちが加わっていく、そのカタチこそが真のエンディングであってほしいと切に思います。もちろん、オートマタとの関わりを見つめ直していく、舞花やみことの心模様も作品を動かす動力源だったとは思うのですが、初音が歩き出していく様が、最もこのストーリーには馴染むなと思いました。


個別ルートらしい個別ルートではなかったのですが、ヒロインにも触れておきますと、まず初音。彼女については、どんどん自分自身の存在を固めて、成長していく様子がありありと描かれており、いつまでも見ていたくなるヒロインです。

舞花は古くからのベースがあるのもあり、とても好感度高め。どちらかというと、警察内での活躍が作品としての肝でしたが、生き生きしながら、ストーリーに絡んでいく様がとても好きでした。

みことは、単独でというよりも、あかさかくんとの絡みを含めて大好きでした。本当の顔を見せる部分はゾクっとしましたが、結局は全部計算されてそうだなと。でも最終章のみことエンディングはかなり好きな感じ。

マキノ&アイルはメイン以上に意味のあるサブキャラクターですね。最初から最後まで彼女たちが作品の中心だったように思います。