ErogameScape -エロゲー批評空間-

比翼れんりさんの恋するココロと魔法のコトバの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
恋するココロと魔法のコトバ
ブランド
Hearts
得点
65
参照数
651

一言コメント

春めいたストーリー ここから始まっていく 恋するココロと魔法のコトバ続いてく

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Heartsの今作は、前作と同じ原画さんということもあり、雰囲気や作風は近いものがあると思います。このブランドの傾向としての、不思議な世界観と非日常のキーワードをベースに、キャラクターを中心としたストーリーを、どこまで突っ込みを入れずに進められるかが、わりと重要なのかなと思います。精霊という非日常について、前作のようなおいてけぼりを食らうような、割りきった設定ではなく、あくまで身近な事象の延長と捉えることができ、個人的には、長所を生かしつつ、それでいてシンプルなお話にしたのは効果的だったように印象として残りました。

ヒロインはおおかたのフルプライスゲームだと4人が妥当でしょうが、その4人ともほぼ初対面というのは、わりと出会いと共通ルートがモノを言うような気がします。同年や過去に実は…とかは実際あるのですが、事実上イチからのスタートとなります。個別ルート前の選択肢で、たくさんのイベントをこなしたようなフリが入っていましたが、体感ではそれほど充実した中身は無かったように感じました。気づいたらヒロインの好感度が上がっていて、付き合っているのも、精霊の仕業?と思うほどトントン拍子に見えました。


ハルがこの作品においてのキーパーソンであり、物語の軸になりますね。実は過去に主人公と出会っていたことや、その存在の理由など、仕込みは多くあるのでしょうが、なぜ盛り上がらないのでしょうね。いちゃラブは必要なものだとして、存在することが危うくなり、消えてから復活するまでが、驚くほどのダイジェスト。見せたい部分がそこではない、というのなら納得なのですが、そもそもあまりキャラクターが立っていないようにも感じました。

風祢ルートに関してはRPGのようなクエスト色が強かったですね。グランウィッチになるには…という、魔法が存在する世界なら通る道ともいうべきルートでしょうか。この世界に悪役は存在しない平和なもなので、向き合う壁もそれほど大きなものではありません。最後に驚きがあるわけでもなく、流れのままにエンディングを迎えました。掘り下げるべき部分ではないのかもしれませんが、世界の一旦に近づいたわりには、引きが早く感じ、この設定自体に、こだわりはそもそもないのかな、と思いました。

好奏は秋野花さんらしい後輩キャラですね。精霊や魔法とは言いつつも、実際の個別ルートの中心は、フルートの演奏が人前でできるのか、そして、そこから自分のフルートとどう向き合えるのか、になるかと思います。このルートに関しては、あくまで世界観を共有しただけの、日常シーンでしかなく、山場と言えるものはありません。ただ淡々と場面が進んでいくだけです。これはそもそもブランドの方向性としては正しいのでしょうが、もう少し各ルート間での繋がりがあってもいい気はしました。

ましろを形作る要素としては、祖母との思い出というのがあります。これがルート全体にまん延しているので、必然と今は亡き姿を思い求めるストーリーに繋がっていきます。個人的には嫌いではないのですが、ひとつのフラグが立っても、すぐにオチを迎えてしまい、過去まで裾野を広げたわりには、話は深くなりません。あくまで表面上をさらっただけの印象で、ラストに持ってきた山場も取って付けたようにどうしても見えてしまい、存外流れが悪く感じました。子猫タイプのなつくとかわいいロリヒロインで、キャラクターは好きなだけに、もったいなさだけが余韻に残りました。

全体的にかなり盛り上がりのないお話です。設定や雰囲気については、前作以上に好きなものでしたが、あくまでもそれだけで終わってしまった印象です。悪役のいない平和な世界は、確かにこのブランドとしての十八番だとは思います。キャラクターも十二分のかわいさがあったと思います。そのあたりの売りをどう飽きさせることなく、形にしていくのかが難しいのだろうと感じた作品でした。