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比翼れんりさんの添いカノ ~ぎゅっと抱きしめて~の長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
添いカノ ~ぎゅっと抱きしめて~
ブランド
戯画
得点
65
参照数
832

一言コメント

そうやっていつも置いていく時計の針 半周おくれのわたしはスロースターター

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

昨年のヒットミーがなかなか良かったので、その流れを汲んでくるのではないだろうかと、ひそかに期待していた戯画の新作。今作では、いい意味でのキレと粗さはなく、添いカノのタイトルどおり、寄り添った恋愛模様に終始しており、淀みはなくシンプルなものの、ストーリーが停滞気味で、これという見せ場がないように思いました。それが今作での売りというのならば、その通りなのですが…

導入は無難な感じで、ある程度関係があるヒロインとイチから始まるヒロインとに分かれており、少しずつ尺を取りながらベースを築いた上で、温室を通しての部活動に一区切りつけるところまでが共通ルートですね。気になるのは、イベント単発がボリュームが薄く、元からのヒロインである藍果や灯子はそれでいいのかもしれませんが、夜明やつばめはもう少し、部活動を通してでもいいので日常シーンがないのかなと感じました。

夜明はセンターヒロインらしく、ふわふわな世界観の中心にいる子ですね。姉の存在がひとつのキーになるわけですが、作中での登場は数える程度であり、個別ルートは思ったよりもコンパクトに感じました。姉への依存から主人公とともに脱却していく流れは、夜明のキャラクターの良さもあって自然なものでしたが、後半の曲作りの話がかなり早く進むのが気になり、姉妹のシーンをもう少し回収できなかったものかと感じました。ただあくまでもタイトルどおり「添いカノ」がストレートに表現されたヒロインであるので、メインといえばメインなのでしょうね。

いちばん好きなヒロインはダントツ藍果ですね。キャラデザと中の人がベストマッチで個人的ストライク。欲を言えば胸は控えめでよかったけど… そんな藍果はオタク趣味~という繋がりから個別ルートが広がっていきますが、あまりコアになりすぎず、あくまでひとつのツールとして恋模様と本当のことを打ち明けたあとの接し方が主眼になっておりよかったですね。ただ、他ルートでも言えることですが、やっぱりボリュームがないのが明らかで、キャラクターに良いものがあるだけにイベントをいくつか入れていってほしかったところ。

つばめは元生徒会長。元と付くのは案外珍しい気もしますが、それが逆に自由なキャラクターに繋がっているのかもしれません。包み込むようなお姉さん気質で、夜明が気になって仕方がない、というのが彼女そのもので、それがそのままストーリーの後半の主題になっていきますね。キャラクターとしてはそこまで嫌いではないものの、夜明が海外へ行く流れが唐突で、つばめと夜明の関係性描写がかなり少なく、何もないままエンディングになってしまった印象が強いです。先輩ヒロインのひとつの見せ場でもある、主人公の今後の進路も無難で、葛藤もなく、非常にメリハリのない個別ルートに思いました。

千雪は同級生で距離感のいいキャラクターですね。絵というひとつのテーマがあり、作中ではいちばん枠がしっかりしているヒロインであり個別ルートであったように思います。絵を描くのは本人だけれど、主人公としては何ができるのだろうか、という視点はなかなかよいもので、話の展開のさせ方は嫌いではないです。ただそこからの広がりがなく、もっとお互いの、さりげなくでよいので何かひとつふたつやり取りを付けてほしかったですね。ふにゅうたんが出てくる後半の山場(?)は、わりと好きで、こういうきちんと生徒を理解しているもキツイ役所になってしまう生徒会長は案外よいものですね。

あまり過度な期待はもっていなかったにしろ、ちょっと薄味な印象です。添加物不使用な甘々ほんわかモノっていうのはよくわかるのですが、個々のキャラクターを活かしながら、もっとキャラクター間の繋がりを描いてほしいなと強く思いました。