幾多の悪事は裁けても ときめく気持ちは空を切る
中の人などいない!から5年半。ALcotが久々の新本シリーズとしてリリースした今作は、ここ数年のモヤモヤを払拭できるだけの力作となっていました。
ストーリーはタイムトリップから始まる江都時代が舞台。序盤以降あまりタイムトリップの真相に近づくことはなく、この時代での事件や出来事を乗り越えながら、ヒロインたちと交流するのがメインですね。大きな事件をひとつ乗り越えるまで共通ルートで、ヒロイン総動員のこういった展開はとても好きです。
りんが怪盗というのは徐々に明らかになっていくのですが、その中で特徴的なのが秘宝。アレンジのひとつとして取り入れられており、単なる時代ものではなく、過去作とのリンクを含めて、いいアクセントになっています。りん個別ルートでは、この秘宝に関連する七不思議を解決していくスタイルで、最後に黒幕が出現するといった、王道な構成です。黒幕については、さして驚きはなかったものの、りん自身に対する秘密が明かされることもあり、爺との絡みも含めて、なるほどそうきたか、といった感じです。少し荒削りのところはありますが、りんがだんだんとなついていく様や事象への向き合い方、この時代に留まる流れを含めて、最初に入った個別ルートながら、満足いくルートに思いました。
珠樹は義妹というALcotらしいキャラクターです。珠樹だけは現代側で主人公と一緒にタイムトリップする原因にもなったわけですが、個別ルートでは唯一現代に帰るというエンディングになります。この作品の始まりと終わりが上手く繋がっているのは、やはりメインのストーリーであったこのルートのように感じます。最後のエピローグがダイジェストのようになってしまったのは少し残念ですが、きちんと話を完結させたのは、とてもスッキリしました。加えてルートの主になっていた敵との対立も中盤から終盤にかけて盛り上がっていき、数々の戦いを熱く見せてきたALcot節が全開の気持ちのいいものでした。終わってみると総じて満足のいくヒロインでありルートであったように思います。
宗春のキャラクターはかなり好きですね。終張サイドという位置付けがそのままストーリーに繋がります。大まかな流れは兄が企てた謀反を主人公や助次郎たちと共に食い止め、立ち向かうもので、ALcotが十八番の展開です。懲悪の典型的なお話であるも、身内が敵役になるからか、少し手ぬるいイメージはあり、ここがどこまで血生臭くできたのかは疑問なところです。ただ個人的には、らしいキャラゲーとして、絶妙なラインの引き具合であり、おとぼけな兄や後半の超展開を含めて、とてもALcotらしい構成でした。助次郎というサブキャラクターが生きるお話でもあり、心のうちを推察していくと、かなり意味のあるように感じます。個別ルートとしては、1番楽しかったと言えるルートでした。
なんだこのかわいすぎる将軍は! とおおかた声をそろえるであろう義宗さま。花澤さくらさんの配役がバチっとハマった唯一無二のヒロインでした。高貴なお嬢様と平々凡々な主人公との恋愛は、ありふれたテーマでありますが、義宗のように市井に関わろうとするタイプはとても親しみやすく、オンオフのきいたキャラクターも素晴らしくストライクでした。個別ルートについては、江都ならではの火事を発端に義宗や主人公が窮地にさらされ、それをみんなで一致団結解決する、といったもの。正直なところ宗春ルートよりも明らかに展開が弱く、オチもいまひとつ。まさにハッピーエンドというラストは好きでしたが、全体的に義宗というキャラクターを楽しむルートという印象でした。
今作はTRUEルートと言われる分岐はないものの、タイムトリップが発端であるので、TRUEエンドは珠樹ルートになるのでしょう。また、作品のベースストーリーから読んでいくと、りんルートが核心であり、意外にも義宗ルートや宗春ルートは枝分かれ的に出てきたお話。ただこの二人のルートは、悪を懲らしめるというバトル要素に富んでおり、好きなルートであります。であるからして、非常に総評としては難しいものの、各ルートの良さを少しずつ集めながら、全体が見えてくるというオチが正しいように思います。タイムトリップはあくまでも、話が始まるきっかけにすぎず、珠樹ルートのように現代に帰ることがハッピーエンドでは必ずしもなかったと思いました。
ALcotのイメージとしては、あるベースをひとつモチーフにしながら、独特のキャラクター描写と、実は芯のあるストーリーというのが魅力でした。中の人などいない!以降、Clover Day'sは置いておくにして、LOVEREC、よめがみとキャラクターにしてもストーリーにしても惹き付ける力が無いようにありありと見えましたので、ALcotはもうあの頃のような作品は出せないのかと思っていました。が、原画や声優を含めて作り手は少し変わってしまいましたが、求めていたALcotとはまさにこういうものです。こういったある意味「異質」な作品をこれからも期待していきたいものです。
つまるところ、今作は「あの頃のALcot」が好きな人向けの作品であって、歴史をモチーフにしてはいますが、皮を被っただけであり、そういった作風を求める人には明らかに向かないのだろうと思います。