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比翼れんりさんの金色ラブリッチェの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
金色ラブリッチェ
ブランド
SAGA PLANETS
得点
89
参照数
953

一言コメント

あなたが見てる未来の色はどんな風に見えてるの?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

金色ラブリッチェ、当初は随分と迷走をしているタイトルと設定だと思いました。そもそもヒロインみんな金髪にしたら、差異をどう付けていくのかが最大の難問。前作で強く感じた不安がありましたので、発売前の期待値はかなりの低さであったのは事実です。まあ結論からして、かなりの好評価となったわけなのですが、その要因として大きく2つに注目して自分なりに振り返ってみます。


まず「距離」の使い方が巧かったこと。

ここでいう「距離」とは目に見えるものだけに限らず人との間にある見えないもののことを指して言います。「繋がり」や「関係性」の意味を含んでいるといってもいいのかもしれません。この人との距離の測り方というのは、創作物のなかで、登場人物の作品に対する座標であったり、動線であったりを決めるのにとても重要、かつ基本的な役割ですよね。今作では、共通ルートがわりかしあり、OPまでが長いことからも分かるとおり、ある程度のキャラクター間のベース作りに尺が取られます。キャラゲーの良いところとして、急に接近して急に仲良くなり急に好きになるのが常にあります。今作も例に漏れないとは思いますが、元々キャラクターにある関係性を活かしつつ、主人公のいわゆるボーイミーツガールを上手く組み込んでいるように感じました。女子の中に1人放り込められたり、何故か好意的なキャラクターが多かったり、多少の強引さはありますが、ピースの繋ぎとしては良いと思いました。

最初に主人公サイドから見ると、例えばクラスメイトであり、同寮生であり、大なり小なりのイベントを通じて、最低だった距離感が詰まっていくが、ストレートにわかります。狙ったようなものではなく、自然にこれを流れに入れるのが案外難しいのです。

エルはシルヴィアとの距離を測りかねている節が端々に見られていましたね。元々の姉と妹との関係性と、主従となった今。わりと"あるある"の設定だとは思いますが、主人公との疑似恋人から真の恋人になることをためらったり、自身の目標が揺らいだりと、心の揺らめきを表現するには良い設定だと感じます。髪の色に意味があるとは、近年のバリエーション豊かな髪色の中では普通思わないけど、裏をかかれた気分なのです。ただ気になる点ももちろんあるわけで、一番は何故ルートに3Pまがいのシーンが入るのか。エルがシルヴィアを大切に思っているのはもちろんですが、シルヴィアからしてもエルが大切なのはわかります。それはエンディング前のCGを見ても明らかなのですが、あれは正直不要なのかなと。もっと言うと、そのエンディング前のCGが活きる二人の対話シーンをもう少し入れてからの終幕として欲しかったですね。またそもそも論で、主人公との急接近の一事件も突っ込みは入れたくなりますが。

シルヴィアルートに関しては、各所で散りばめていた過去の欠片を、拾いながら進みます。ただ、それが最終的な位置にあるわけではなく、主人公の過去を中心に回収していき、理亜やシルヴィア自身の生い立ちやここまで至る経緯は、簡単にしか触れられず、上手く言うならば他のルートとの兼ね合いで、補完しあっているように見えます。シルヴィアのヒロインの特殊性は、出ている個別ルートには間違いありませんが、どうも単調になってしまう傾向があり、新しい含みを持たせる場面はありましたが、1ルートとしては大人しいものに感じます。とはいっても彼女のまわりを巻き込むチカラというものはハッキリと表されており、音楽という繋がりから、主人公の過去の欠片を出来事とリンクさせながら、結んだのは展開としては好きです。ただやっぱり気になる点もあり、ミナがかわいいのは事実だとして、3Pを本筋に組み込むのは、どうなのだろう(やるならIFで)。個人的にはあまりやってほしくないのだけれど、そういうのはアリなのかなあ。。

玲奈は上の二人とは違いスタンスのヒロインです。人のパーソナルスペースへ入り込むのが上手いというか、絶妙な立ち位置を見極める力に長けているというか、こういうタイプのキャラクターが作中に1人いるとかなり安定します。それこそバランサーの役割を果たす、それが玲奈なのだと思うのです。友達兼恋人という関係性も彼女らしく、くっついたり、また少し俯瞰してみたり、距離の使い方がいいですね。黄金率ではないけれど、その時に合った絶妙なバランスを取る玲奈こそが、今作の陰の立役者なのかもしれません。個別のストーリーとしては、投良を中心にあった前学園でのモヤモヤを払拭し、未来への方向を意識付けさせるもの。一言いえば、友情なのでしょうが、それを取り巻くヒロインほか、まわりのキャラクターがいいアクセント。ちょっとトントン拍子に見えるところもありますが、こういう青春の香りがするオチは、ジャストミートなので、エンディングへのシフトとしては良かったのかな。あまりマイナスはないものの、やっぱり3Pは蛇足なのでは……

理亜がマリアというのは作中では、暗黙の了解のように流れていきますが、そもそもマリアが誕生するきっかけは10年前のシルヴィアとの出会い。そこからこの物語は始まり、金のラブリッチェマークを手にしたことでストーリーが作られていったわけですが、これが最終的に伏線として結ばれるのが理亜ルート、もといグランドエンディング。理亜に何かある様子は作中の端々から感じ取れましたが、結論としては「死」をこの作品は選択しました。無論「生」がすべてのハッピーエンドではなく、反対に「死」がバッドエンドでもないでしょうが、今作は理亜の「死」から、次に物語が展開する可能性を提示しました。
いくつかポイントに読んでいくと、例えばグランドエンディングテーマが流れたあと、1年間の猶予を持たせたこと。この見せ方は、さかき傘さんの代表作にもなった「ひこうき雲の向こう側」に通じるものがありますが、この1年間が理亜たちにとって"ひたすらに輝かせる時間"となったであろうことは、最後にEXTRAを開くと感じ取れますね。
理亜とシルヴィアの関係性もいいですね。理亜の強い思い入れも感じ取れますが、シルヴィアと主人公に結婚してもらい、子供にマリアと名付けてほしい、と。輪廻転生とも取れるわけですが、理亜エンド後のシルヴィア追加エピローグで、走馬灯のように理亜とのやり取りが頭をよぎり、ここは最後の最後まで練られていたなと思います。前記のとおり、個人的に作中3Pは否定的な立場ですが、理亜ルートのシルヴィアとの屋上シーンをよく噛み締めてみると、実は1人のヒロインだけを愛する"普通のキャラゲー"からの脱却を意味する、究極的な伏線だったのかと考えてしまいます。
さて、理亜エンドに話を戻すと、最後に銀のラブリッチェマーク5枚を集めて当初の目的を果たし、金のラブリッチェマークについては、箱に入れて湖に放りました。それを誰かが見つける描写が再度入りますが、それこそまさに終わりと始まりが一連の流れの中にあることを匂わせるギミックなのでしょう。もう少し話を大きな枠で考えてみると、シルヴィアは作中では太陽のように、皆を照らし明るくさせる役割であり、理亜については暗闇の中で光を受け輝く月のような存在であるように感じます。ゴールデンタイムにしてもそうですが、陽は沈んでいくものであり、黄昏は衰え行くものを暗に比喩しているとも言われています。それが、理亜そのものを最初から示していたわけで、最後に朝日を眺め、そこで猶予を与えられたことも、極論としては、すべての事象は繋がっていることを暗に言っているように感じます。陽はまた昇る、明けない夜はないから、ということなのかもしれません。


もうひとつの要素としては、ピースを綺麗に散りばめたこと。

これは全体を通してみるとよくわかりますが、ひとつのルートを流してみると、あれ、ぼやかされたまま終わる部分があったり、新しく伏線になりそうなことが頭を出したりします。これを他のルートで補完しあいながら、最終的にはひとつのパズルが出来上がります。このあたりは原案かつシナリオを担当された、さかき傘さんの巧さが出ているのかなと率直に思いました。たいして大きなプラスではないんだけれど、小さな回収の積み重ねは大切。何事もなかったかのようにスルーされる場面もありますが、それを込みで考えていらっしゃるならば策士でありますが果たして。


と、良し悪し含め、気になった部分を中心に展開させてみましたが、別にブランドに贔屓目があるわけでも、ライターさんや原画さんに特筆の思い入れがあるかと聞かれれば、そこまででもなし(好きではあるけどね) 単にこの作品を楽しめた、という事実だけは言える、ただそれだけなのです。そういった意味では、非常に強く輝きを放った瞬間を、ゴールデンタイムを、しかと見届けたと言えるのかもしれません。