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比翼れんりさんの夏色ラムネの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
夏色ラムネ
ブランド
Carol Works
得点
50
参照数
786

一言コメント

時が過ぎても変わらないモノは 飲み干したラムネの甘い香りと似ている

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初めてのCarol Worksです。とはいっても、あまり過去作との一貫性はなさそうなので、今作は明らかに原画さんに惹かれてプレイした感じです。

夏色ラムネ。タイトルから想像するに、爽やかな青春もの。作品と同名タイトルOPがノスタルジー感じる、solfa×しもつきんの素晴らしい曲であったのもあり、期待はそれなりに持ってスタートをクリックしました。

ストーリーの導入に関しては、シンプルに、主人公が子供の頃に居た田舎に帰り、そこでヒロインたちと再会するところを起点にします。この時点から歯車はうまく噛み合っていない印象があり、過去の記憶の引き出しが欠如しているのか、読み手からしたら登場人物の紹介になるのに、ぞろぞろキャラクターが出てくるわりには、馴染みが悪く思います。そんなもので、出だしは目をつむるにして、共通ルート、ひいては作品のベースになるのは、思い出の駄菓子屋を存続すること。これ自体は作品のコンセプトに沿いそうですし、あとはこれを個別ルートでどう転結してくか、になります。

せせなやう先生でcv橘まおさんというヒロイン弥生は、キャラクターとしてはいちばん良かったですね。表情も豊か(笑)で親しみやすさも随一でした。ただ、キャラクターは良くてもストーリーがついてこないのが、他の個別ルートでもそうですが今作の特徴で、恋人になるまでの描写が皆無に近い上に、ルートの山がどこか、わからないまま終了します。弥生ルートの核は子供のころの「約束」となりますが、夏祭りでのワンシーンでエンドロールとなり、結局のところ見所は見えませんでした。

美咲はロリ枠……なんだと思うのですが、それほどコンプレックスにも描かれず、CGでもそれなりにあったので、彼女らしさはどこにあるのか?という感じではあります。個人的には笑顔が印象的なヒロインで、シンプルながら、等身大の女の子という位置付けで好きですね。個別ルートは、そもそもの駄菓子屋存続問題に繋がるもので、流れはとても良いですね。ただし、展開が何もなく、現状維持のようなエンディングです。未来への抱負も孕んだシナリオではありましたが、あくまでも「現在」は踏み台にしか考えていないのかもしれません。

カナは少しオカルト染みたヒロインですが、その理由として二面性がルートではメインに据えられます。こういう地方をベースにするとありがちな、特別な力が働き、子供のころのカナと今のカナが変わった存在になる、というのが大筋ですね。他の個別ルートと比べても、色が少し異なり、全般的にこういった方向性でまとめて、さらにかなり掘り下げていけばおもしろそうなのですが、こればかりは明らかに浮いているように見えます。

ユーキの男っぽいキャラクターは、歩サラさんの真骨頂という感じを受けました。ひとりだけ田舎を出、町で暮らしているヒロインですが、頻繁に他のキャラクターとも絡み、あまりそこに差異は感じません。ストーリーとしては、その部分に向き合うことが主になりますが、非常に淡白なもので、山場が来る前に気付いたらエンディングが流れたというのが、正直なところです。

当初の駄菓子屋の件は、明らかに通過点でしかなく、その先にある個別ルートのオチはどのルートをとってもバラバラで、この作品で何をしたかったのかわかりかねます。絵師の効果を付けて、キャラクターは無難だとして、ボリュームがなく統一性のないシナリオは、フルプライス作品としての体を成しているとは思えません。ただ、全否定するものではなく前述のとおり、共通部分の駄菓子屋存続というテーマを生かしつつ、ヒロインたちの過去というアドバンテージを最大限使う個別ルートを用意すれば、大崩れはしなかったと感じます。加えて、そもそもとして、カナルートのように非日常に片足を突っ込む必要も無かったように思います。エッチシーンも濃いようで、ゴム描写抜きにしても、中身がなく、最後までこの作品の"売り"はわかりませんでした。