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比翼れんりさんの水葬銀貨のイストリアの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
水葬銀貨のイストリア
ブランド
ウグイスカグラ
得点
70
参照数
385

一言コメント

青く深い海の底から 君を連れ出して光を求めた

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ウグイスカグラの2作目、かみまほに続く布陣で描かれる作品です。前作でのドロッとした側面を残しつつも、わりと等身大の日常に寄ったストーリー展開で、すっと頭に入ってくる内容だったように思います。

世界観のベースとして、過去の「鳥籠事件」を中心に、そこから始まる複雑に出来上がった相関図と繋がりが、肝となります。また、人魚姫というキーワードがひとつ軸になりますが、人魚姫にはよくある「生」をテーマに、取り巻く描写が色を付けています。限られた登場人物によるストレートな表現に見えて、実はその思惑は多岐に派生していくのかなと感じました。

共通ルートはわりと長めで、そのあとに、小夜と玖々里、夕桜とゆるぎに別れる、大きく2つの流れがあるかと思います。涙を流せない世界において、涙を流すことのできる二人の少女、玖々里と夕桜のどちらを選び、どちらを差し出すのか、という究極的な分岐点です。この先にある4ヒロインのエンディングは、誰かの犠牲の上に成り立っているわけで、必ずしも「ハッピーエンド」とは言いがたいものに感じましたが、それぞれの個別エンディングに見ると、1ヒロインとしては、救われたひとつの側面なのだろうと思います。

話の本筋としては、どちらも救うことを選ぶ選択肢が解放される、4人の個別ルート攻略後でしょう。個人的にはそこから分岐するバッドエンドがなかなか攻めていて好きでした。トゥルーエンドは、約束されたハッピーエンドには見えないながらも、非日常の作品にあって、その本質にある幸せとは「日常」なのだろうと感じました。

全体を通して、作品自体が"幸せ"を欲しているように映りました。人魚姫というキーワードは、最強の手札に見えて、終盤以降は、存外パワー不足に見えてしまったのが悔しいですね。あちらもこちらも人魚姫というのが、物語の骨あったとはいえ、パンチ力が弱くなっていく様でした。

非常に精神的にゴリゴリ削られるストーリーですが、前作よりかは読みやすく思いました。つまらなかったとは思いませんが、個人的には、作品の流れに乗りきらない部分があることに否定はできず、万人受けはしないながらも、深読みできればおもしろいのだろうと思います。前作でも同じことを思った記憶がありますが、氏のシナリオの刺が、いまいち読みきれないのが悔しいですね。こればかりは自身の理解力の無さを惜しむだけなのですが、根底にあるテーマは身近なもの。次作の作風はさらに明るいもののようで、また様子を見ながらプレイできればと思います。