こうしてればいいと押さえつけられては 僕たちの言い分はいつも殺されてんだ
あかべぇそふとすりぃのミドルプライス(少し高めな気もするけど)の新作は誰しも感じたことのある思いを取り上げた異色の作品になっていると思います。
ストーリーは子供の頃には誰もが思ってであろう「大人への反抗」がベースになります。各ヒロインやサブキャラクターは皆何かしら大人への不満や疑心を持っており、それを契機に反抗、つまり籠城を計画します。特にメインの理由にされているのが、泉が被害に会いそうになった教師による淫行未遂。それを公にしたいがための籠城ということになります。ここまでが共通ルートでそれぞれの個別ルートに分岐。
ルート固定は無いですけど初めは泉がやっぱりいいですかね。籠城の主題であり、大人への不信や大人からの裏切りを乗り越えてラスボスたる校長に向かっていくというのがメイン。その中で、利がなければ動かない大人や自分の価値観を押し付けようとする大人、権力に縛られる大人…あげればキリがないですが、そういった中で光を求め、自由を掴みにいく話ですね。クライマックスは校長vs7人ですが、終わったと思っても次々にその先を打つというワクワクする展開はとても楽しかったです。
次は織乃。典型的なお嬢様で、それを教育熱心な両親が縛り付け、そこからの自由を求めていくというストーリー。これだけ見るとありふれていますが、織乃自信に信念というものを感じさせる点や織乃の父親そして母親に「私たちをわかってもらおう」という描写の仕方に巧さを感じました。エンディングでアフターまで持っていったのが、彼女たちの思う「大人」を意識させ好感が持てます。
他の二人とは違い、レイナが大人に反発したい理由というのは、家族のことというもの以外明かされていませんでした。それが明らかになる個別ルート。他の親と違い、レイナの母親だけ名前が出てくる訳、それを考えれば展開がこうなることも読めたはずですけどね。
不器用な親子が、現実に向き合って受け入れていく、簡単に言えばそうなんでしょうが、レイナの言動や一華の心情、そういったひとつひとつの描写を踏まえて進めていくと「みにくいアヒルの子」になぞらえた家族の在り方を如実に表した素晴らしいルートだと思います。エンディングの縁側のCGがまた涙を誘う。それだけのテーマ性がこのルートにはあります。
1番最後にノーマルエンドですが、わりと長めに尺があります。全員で向かっていくという点は言わずもがなですが、ラストに同窓会があるのが面白いですね。これを本流のエンディングと見るか、おまけと見るか。
「理解してくれとは言わない、理解を強要することもない。ならばこそ、立ち入らないでくれとは思う」
やっぱり自分の好きなこと、やりたいことというのはあるけれど、それを他人に求めるのは難しい。この作品は、みんなが抱えるとても普遍的なテーマでもあるも、今大人になっては忘れてしまっている部分をありありと描いた、そんなものになっていると思います。時代設定が少し昔なのもアクセントかもしれません。
企画で参加されている中島大河さんは「生」とその対にある「死」を作品に散りばめるのが上手いなと評価しています。今作では、個性が殺される。大人はそう押し付けます。社会に生きるとはそういうことですが、社会はまた個性を求めます。
愚者とは誰のことか。教鞭とは何を指すのか。単に悪役たる校長のことだけではないように思えます。ポップなサブタイトルやキャラクターのいい意味での幼さで霞がちですが、作品の根底にあるのはもっと大きなテーマな気がします。