このまま夢の中で寄り添うように あなたの傍で最期を
いわゆる1つの問題作
そんな風に感じたのが読了後の率直な思いです。
このスタッフでは過去に「できない私が、くり返す。」「働くオトナの恋愛事情」とリリースされてきましたが、作風を変えながらも、根底にあったのは「生」 であったように思います。今作は「救いのない中でいかに救いを見出だしていくか」これがある種のテーマかなと思います。魔法も不思議もない世界で、「死」まで続くレールから、何とか抜け出そうではなく、終着駅までどれだけ寄り道が出来るか、こんなシンプルなシナリオですが、変化球をまったく使わずど真ん中のストレートで攻め続けるわけで、受け手としてはかなり厳しく感じます。ある程度の割りきりがないと、どこかで折れてしまうかもしれません。
ミドルプライスという性質上、多く語られない点や二人に最期まで当てたためまわりの描写が少なく感じたのはありますが…
生命のスペア
タイトルまでもストレート。設定は最初から公開されていますが、本当にそのまま。ストーリーも予想させるそのままではありますが、これは狙って付けているのでしょうか。僕はむしろ副題の「I was born for you.」が気になります。そのままの意味で解すれば「私はあなたのために生まれたきた」つまり「璃亜が姉のために生まれてきた」ということでしょう。これは前述のとおり、そのままその意味が込められているのは疑いありませんが、読了後になって考えると「私(璃亜)はあなたたち(姉と同じ病気を抱える顔も知らぬ人たち)のために生まれてきた」と読むこともできるし、少し解釈を変えると、璃亜の存在意義は姉を生かすためのスペアであったけれど、恵璃から与えられた「私の分も生きる時間」が存在意義になることで「I was born for you.」つまり「私(璃亜)はあなた(恵璃)の(分も生きる)ために生まれてきた」とも解せそうです。
一見、救いのないBad endの1ルート。それこそ、いわゆる1つの問題作でしょうが、驚くくらいにストレートで、決して目をそらさずに「生」「死」を綴ったことは評価に値すると思います。ライターの中島大河さんは毎回(といってもできわたならですが)、テーマを持ちながら「生きていくとはなにか」を多様な面からゲームに落としこんでいるように思います。秋空もみぢさんの絵と西坂恭平さんの音楽と、今後も新しい一面を見せてくれそうで楽しみでなりません。