今こそ火を灯せ レイル・ロマネスク
Loseのものべのシリーズに続く新作は、ライターさんの趣味全開でもありながら、ものべのの流れをしっかりと組んだ、鉄道ものです。あまり鉄道に焦点をあてたエロゲというのはない気がしますが、個人的には楽しめました。これが非鉄の方はどれほどついていけたのかは、気になるところですが、わりと親切な作りになっていたと思います。作りの面で言えばE-moteをはじめとする演出面、各EDを用意するなど、ストーリーもそうですが、みんなで作り上げるものというコンセプトが随所に出ていたことにとても好感が持てました。
まずは共通。
主人公が御一夜に戻ってくるという、ある種王道の導入から始まるので、正直顔見せの色が強いですね。どセンターヒロインことハチロクとの出会いも描かれるわけですが、思ってたよりも普通でしたね。もっと最悪の出会い方で主人公への評価がマイナスの状態からスタートと聞いていたので、わりと落ち着いたスタートだったように思います。8620の発見や再出発までがあっという間で、主人公の鉄道嫌いがそれほど反映されておらず、わりと普通に機関士業務も受け入れているあたりが、いささか引っ掛かりましたが、導入としては良かったのかなと思います。ルートに入るとそのあたりの描写あるところもありますが。
ハチロクルート。
作品のセンターにど真ん中に存在感を発揮する、正統派ヒロイン。ルートもそれに呼応するかのような王道で、SLで御一夜を盛り上げるためには、をベースにしたお話です。バーベキュー列車は面白いですね。SLの不調とその先の在り方を考えさせられる、このストーリーのメインテーマなのかもしれません。レイルロオドとの心の交流も後半に行くにしたがって丁寧に描かれていました。欲を言えば他のハチロクの妹たちの描写がもっとあれば、と思いましたが、メインはハチロクですし、それは次に繋がるお楽しみということで。
担当声優さんは桐谷華さん。桐谷華さんといえば、テンション高めのキャラクターを演じたときの鼻孔をくすぐるボイスが印象的ですが、落ち着いた正統派日ノ本撫子という、これは桐谷華さんの良さが発揮されないのではと思っていましたが、それは杞憂に終わりました。凛とした演技をするのも抜群に上手く、大黒柱のように作品のど真ん中で支えていたように思います。
ポーレットルート。
3人のメインヒロインルートの中では、断トツに好きなお話でした。ストーリーの展開というか、着地点が壮大でしたが、障害を乗り越えていく様やポーレットのキャラクター、そしてれいなとの想いの交差が丁寧で、後半にキーになるニイロクの動かし方ももうまくハマったように思います。ニイロクと宮司の話がこのルート以外だとグランドくらいでしか発揮されず、もう少し焦点が当たれば、さらに展開が見られたのかなと感じます。
ポーレットの声優さんはあじ秋刀魚さん。比較的どのキャラクターも無難にこなすイメージがありますが、ポーレットというヒロインにガチッとハマっていたように感じます。ポーレットの芯と心の葛藤のうち、れいなとのコンビネーション、どれをとっても、これはこの人にしか表すことの出来ないように思います。あじ秋刀魚さんがハチロクとは別の面から責めます、と仰っていたらしいですが、それがよくわかりました。
日々姫ルート。
個人的には一番好きなヒロインです。ストーリーはメイン3人の中では、市長選が軸に置かれるので、強引さがいくらか目立ちますが、稀咲との対比やチームワークというかチームプレーというものがよく出ていましたし、日々姫のキャラクターや立ち位置をうまく描いていたなと思います。エンディングの笑顔はこの作品の中で一番でした。
前作でも不遇のヒロイン?を演じたヒマリさんが日々姫を担当。日々姫も3ヒロインの中では…といった感じですが、ヒマリさんにしか出せないキャラクターに仕上がっていたように思います。
真闇ルート。
焼酎づくりから御一夜の活性化を、というシンプルなルートながらも、短い尺の中で"挑戦"が滲み出ていたように感じます。本当に丁寧にブラッシュアップしていけば朝ドラになりそうです。
かわしまりのさんといば、こういった年上のキャラクターが多いですが、その中でも真闇は優しく包み込んでくれるイメージが上手く表されていたと思います。
稀咲ルート。
サブの中では反対派も、ルート的にはそれほど描かれず、どちらかというと、御一夜を活性化するための代替案は何なのかを、鉄道を通しながら見つめていくという、ベースを上手く活かしたストーリー。サブの中では一番好きでした。
上田朱音さんの代表キャラクターってなんだろうと考えても、あまりパッと出てこないですが、結構出演作はプレイしていたりします。下手に存在感を出しすぎず、かといって演技力がないわけではない、上手い立ち位置を演じるのが多いのかなと思います。稀咲はなかなか珍しいタイプのキャラクターですが、非常に丁寧に演じられていたのが印象的です。エッチシーン後の稀咲の評価がうなぎ登りだったのは秘密。
れいなルート。
ポーレットルートの派生といった具合ですが、しっかりとれいなの心の内は描かれていました。ポーレットと一緒としか見られないように感じていましたが、れいな"らしさ"は存分に出ていたと思います。
杏子御津さんをお見掛けすることも少なくなりましたが、やはりこの破壊力は現在。ふわふわした気持ちになれる麻薬のような演技だったと感じます。
凪&ふかみルート。
二人で一人のルートは美味しいような美味しくないような。川下りに多く焦点が当たりますが、その中でも女の子たちが女性たちになっていく様は出ていたと思います。
凪ははまり役の早瀬ゃょぃさん、ふかみはものべのからは一転したキャラクターで佐倉江美さん。凪はいい意味での軽さの中の心情の動きを上手く演じられていたのが印象的です。ふかみはどうもすみのイメージが強いですが、それとは正反対というキャラクターながら、この年頃の女の子特有の良さはよく出ていたと感じます。
グランドルート。ナインスターズとは上手いなぁと思いました。グランドエンディングに行くまでにもう少しシーンがあると良かったのかなと思います。かなり駅を飛ばした特急並みの終着だった気がします。
まとめると、とても良かったです。どのルートでも言えることですが、何かイベントがこれからあるとしても、そのイベントが描かれることは少なく、結論と次の課題が次に来る、という展開の繰り返しで成り立っている作品です。イベントまでの過程がとてもフィーチャーされており、それはこの手のゲームにはあまりない作風な気がします。個人的にはこれがとてもハマっており、最後までテンポよくできましたね。あとはエッチシーンが本編上にないのも面白いですね。これはLoseとしての考えのように思いますが、もちろんおそらく本編では語られなかった一面で、しかし大切なのはストーリーというところを、これはe-motionノベルということを意識的に作られてるように思います。エッチシーンといえば、ものべので大変話題になりましたが、今作では幾分かマイルドになったものの、端々にその片鱗は覗かせます。やっぱり個性的なエッチシーンを書くことに定評があるライターさんですね。
果たして次に来るのは、more smileかhappy endか、はたまたナンバリングタイトルなのか。これだけでは描き足りないのは諦めたなので、Loseとしての、"まいてつ"としての「次」に大いに期待したいと思います。
そして何故、電車姫にビジュアルが無いのか… せっかくの上原あおい起用も台詞はほとんどなく、電車姫の登場シーンは多いものの、これは大人の事情なのでしょうか。ゆき奈さんが好きな自分としてはニイロクのヒロイン昇格も祈りたいところ。