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比翼れんりさんの夢と色でできているの長文感想

ユーザー
比翼れんり
ゲーム
夢と色でできている
ブランド
feng
得点
77
参照数
775

一言コメント

ひとつ またひとつ 手繰り寄せて 繋ぐたび色づいて 届かなかった手も やり直すんだ いま僕等は また始まった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初出からどれだけ経っただろうと思うくらいに、発売までが長かった本作。その分煮つめられていたのかと言われると、疑問のところもあり、他の方も指摘されているように、テキストに”ケータイ”と出てくるあたり、ある程度の形はずいぶん前に完成していたのかなと思います。コンセプトは、子供の頃と成長した今とのギャップをどう埋めていくのかという、ある意味での回顧もの。子供バージョンの立ち絵やCGも多く、二面的に話は進みますね。ヒロイン含めて、キャラクターもそれなりに居り、常時掛け合いがなされていくのも、飽きさせないポイントかもしれません。


物語が動き出すスタートにもなるのが、姫色との再会。"レッド"のイメージのとおり、リーダーとして、そしてヒーローとして、ひとつ信念を持ったキャラクターがなかなか個性的であり、特長であります。沈んだ表情は彼女には似合わず、元気いっぱいで動いてる姿が、とても好感が持てますね。ただ、自己犠牲の精神がどうも苦手なので、防衛部をいいように扱われるようになると、フラストレーションに変換されてしまったのが残念。それを見た主人公の「自分のせいで…」というのも、変な馴れ合いに見えてしまいました。もちろん、防衛部の本質がここにあることを作品として描くべき必要があるのは理解できますので、それを前提にし進んでいったルート後半は上手く世界に浸れたと思います。

紫織はお姉さん的な立場もあって、ヒロインの中では、わりと落ち着いた個別ルート。キャラクターとしては、お嬢様で、それでいて強くて、と"立った"存在でありますが、個別ルートをシンプルなストーリーでまとめたのが、素材の良さを生かす結果になったように思います。ミドリとの別れは決定項と言ってよいと思いますが、引きずらずに、スパッと終わらせたエンディングは正解でしたね。もちろん紫織にとっては、大切な存在のひとりなのは確かなのですが、話が巻き戻される部分がそれほどなく、悲しみを引っ張らなかったのはポイントだったかなと感じました。ミドリを中心に話が動いたからか、単に紫織自身にスポットが当てられる話は少なく、そこは、いちゃらぶシーンがさらに欲しかったなと思います。

かもめはヒロインというより、1キャラクターとして好きな子。彼女が基本的に意図してボケをかましてくれるおかげで、トークの回転がとてもよくなり、見ていてスピードが落ちることがありません。家の事情や子供の頃の出来事から、主人公の幸せになるために一歩引くという精神を持ち合わせているのか、自分の恋愛には蓋をしている印象があります。それを開け、心を通わせるようになると、最初から見え透いていたデレがギアを入れかえて加速しますね。非常にパワーのあるキャラクターです。個別ルートのストーリーは意味深なところを残しつつ、過去と現在と未来を上手く繋げているのが良かったと思います。欲をいうと、親との確執部分が地の文のみだったのはあっさりしすぎに感じますが、シリアスさをエンディングまでほとんど出さなかったのは好感触です。

細かく固定されているわけではないようですが、上の3ルートでも意味深な役割や現地が目立った雲が4人目の攻略としてはいいでしょうね。ヒロインたちの中ではトップレベルの不思議キャラで、つかみ所のないミステリアスさが、実は単なる過去回顧物語ではなかったことを暗に示しました。共通部でミドリ関連の活躍もあって、ある程度何かしらの力があるのは明白でしたが、個別ルートでは、そのあたりのモヤが段々と晴れてきます。縁の下の力持ちというべきか、表には出てこない分、内に秘めている想いは人一倍で、みんなのために自分は二の次という精神が実は防衛部を支えていたのかもしれません。終盤では"彼女"のためにと、力をを使いかけ、一瞬「雲ルートは"彼女"のための踏み台にされるのか?」とも思いましたが、ここはひとつの形を作って終わったので、1個別ルートとして安堵できるエンディングに終わっていました。

最後は固定で恋ルート。匂わされていた子供の頃の"事故"が明かされます。雲が大きく絡んでいるのはわかりきっていましたが、恋の記憶が抜けていることや恋のカラーベルが無いこと等のおおかたの伏線は回収されており、納得できる部分は多いですね。雲のトンデモ能力をそこまで広げすぎず、限定的にしたところは非常に良く、異能力ゲーになる一歩手前で踏みとどまり、あくまでも日常の中にあった一滴の非日常を描いた点が成功しているなと思います。過去の精算という意味での山場がルート終盤にあります。これは恋に限らずですが、どうもこの作品の登場人物は自己犠牲が大好きなようですね。みんなで乗り越えていこうという決意から一転、橙花の事故から始まる最後の階段はあまりにも急すぎました。無理やり詰め込んだようで、ラストでどうも拍子抜けしてしまった印象です。


作品を通して、話が分岐したとしても大きくテーマが異なることは少なかったように思います。最終的には恋のためのお話なのかもしれませんが、主人公を中心に、それぞれのヒロインが救われる結果に繋がっているイメージが残りました。ちなみにメタっぽい発言もちらほらありますが、全体的にネタっぽさのある作風なので、割りきれる部分であります。

今作に限っては、止まっていた刻をようやく動かしたものであって、もしかしたら作品とリンクさせるためもあったのかなと勘ぐってしまいますが、これはfengとして新たな始まりなのか否か、次を楽しみにしたい気持ちになりました。