桜が桜という花で在り続けるには
・シナリオ(16/20点)
古くから桜というものは儚いものの象徴として描かれてきました。そこから桜は、命、もっといえば人生そのものまでも表現しているように感じます。
この作品はその桜が儚いものではなくなり、また同時に人間も寿命をなくし、永遠を手に入れた未来の話です。
まず共通ルート。前半は部長やつばめを中心に、明るい日常が紡がれます。前作もそうだったと思いますが、命という重いテーマとの釣り合いをはかるがごとく描かれる部分です。そして後半、隕石の落下問題が起こります。これはよくある展開ですが、個別ルートを考えれば、話は広げやすいのかもしれません。個別ルートは強制で、都→美羽→つばめになります。
都ルート。都は宇宙に脱出する側です。彼女は、隕石の落下を聞いた時に、死ぬことに悩みます。そして、宇宙への脱出を聞いた時に、生きることに悩みます。これは、作品の大テーマである「生きること」を最も端的に表現したものだと感じました。ただそれ以外の、主人公の料理の件とエンディングは、最初から読めていたので面白くはなかったです。
美羽ルート。ほとんど王道で、ラストで少しのひねりって感じです。こちらは、地球に残る側ですが、終わり方は一番好きです。彼女は、はじめ死ぬことには肯定的でしたが、最後に変わります。生きる活力を見出だすわけですから、生活部に最もふさわしいと言えるのではないでしょうか。隕石落下の際に、彼女が笑顔で言った「あたしこれから生きようと思います」という言葉は、心に残ります。ただ残念なのは、後半は他のキャラとの絡みが全くなかったことです。
つばめルート。明るく振る舞う彼女ですが、それはカラ元気であり、心の中には大きな不安を抱えています。つばめルートが、一般的な人がおそらく思うであろう隕石落下への反応でしょう。ただこれはあくまでも次のさくら編への繋ぎにあたる所です。
さくら編。結局隕石は落下しなかった世界です。名前のとおり、さくらの正体が明らかになり、真実が語られるわけです。ここが核になるべき所ですが、踏み込みが甘いというか、描写が弱いというか。期待外れです。すみれルートで補完はされます。
桜編は、さらにその後日談です。これはオマケ的な意味合いが強そうです。都が帰ってきたのは嬉しいですが。
全体的にはAQUAのほうがシナリオは好きです。
・CG(18/20点)
相変わらず素晴らしい完成度。構図に多少気になるところがありましたが、背景のレベルは非常に高いです。
・キャラ(17/20点)
それぞれに、表と裏があります。それが個別ルートでうまく展開されるわけですが、今作はサブヒロインを攻略できるので、一人一人をより掘り下げて見つめられるようになりました。奏が反則級に可愛いです。
カメとニワトリとマグロがいい感じです。ただその存在意義は不明です。
・音楽(17/20点)
前作同様に、作品を彩る音楽。前半のOPであるForget to primeと後半のPrime limitationはいい曲。とくにPrime limitationはシリアスな展開に切り替わるターニングポイントとなる曲。
・システム他(18/20点)
シナリオプレーヤーはやっぱりいいと思います。今回は演出が非常に凝っていたように感じました。細かい所まで丁寧に作られていました。
また、 AQUAの宣伝が至るところに入ってきます。抜け目ないですね。さらに、パートナーブランドってここまで出来るんだと思わせてくれました。
以上、計86点です。
素材自体は普通と言えば普通ですが、そこへの飾り付けが絶妙です。すべてを終えたあとに、Prime limitationの歌詞を読むと深いですね。
「際限無い世界で限りのある命は僕達の時代でどれ程価値を見出だすのか」
評価が難しいですが、隕石を除けば、生と死を素直に見つめた作品だと思っています。少し贔屓めに点数はつけたかもしれませんが。部長のセリフに「死と向き合うことが、人生で一番輝く時だ」というようなものがありましたが、まさにその通りかと思います。
少し残念に感じた所もありましたが、安定感はあったと感じました。
早くも次回作が楽しみです。
残念ですがさくらは攻略できません。おまけシナリオに一縷の望みを。