ErogameScape -エロゲー批評空間-

森田賢二さんの車輪の国、向日葵の少女の長文感想

ユーザー
森田賢二
ゲーム
車輪の国、向日葵の少女
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
100
参照数
3286

一言コメント

車輪の点数入力して、パス忘れて使えなかった別IDが消えてたので、やっと点数入力できる!だいぶ偏った見解ではありますが、車輪信者の方も、アンチの方も、冒頭でgive upした方も、エンディングが微妙だと思っている方も、この長文に目を通していただけたら幸いです。(微妙に改定版)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 まずは一年以上前のことですが、ccccdさん・weekerさん・Atoraさん、k-pさん・mvself6さん・naicufnocさん・12281228さん、コメントありがとうございました。並びにmyself6さん・Atoraさん・hujiさん・k-pさんは投票していただきありがとうございました。内容は前回のものを若干修正+前回のコメントに対するコメントを付け加えた程度のものとなっています。
------------------------------------------

 この作品の批評するにあたり、「車輪」に通じるものがあると感じた映画を一つ紹介したいと思う。
皆さんは1966年に公開された「欲望」という映画をご存じだろうか。これは、ミケランジェロ・アントリオーニ監督という方の作品で、「不条理」をテーマとしているのではないかと思われる。
 主人公はカメラマンである。ある日彼は記事になるものを探しに出歩き、公園へと足を向けた時カップルらしき2人を盗撮した。主人公が帰っている道中で、カップルのうちの女のほうが主人公に気付いたのか、ネガを渡せと要求されるなど一悶着あったがそれをやり過ごし、帰って現像してみた。その写真が何か不自然に感じられたため引き延ばしてみると、女が男を殺そうとしているところが映っていた。そう、それは殺人の現場の写真だった。主人公はあわてて警察に駆け込むが、結局死体も証拠も何も見つからず、殺人はなかったことにされてしまった。
 さて、ここで殺人はあったのだろうか?もちろん写真を撮った主人公や映画を見ている私たちは「殺人はあった」と言うだろう。しかし、主人公のいた世界の人々は、警察が『殺人事件はなかった』のだとしたため、だれもその殺人事件ことは知らない。つまり「殺人はなかった」のだ。
 これだけでは分かりにくいだろうが、映画の内容を言いすぎるのはさすがにまずいので、もう簡単にではあるがまとめようと思う。
 つまり、「何かが『実際にはある』のに、『社会(周囲の人々)がない』と言えば、その何かは『ない』ものとされるのだ」という「不条理」を描いているのだ。

 一応、あと一つ例を挙げてみよう。例えば時計を買いに行ったとしよう。目の前にある時計を買おうと店員を呼んだとき、店員も周囲の客も口をそろえて「そこに時計はない」のだと言うならば、実際にそこに時計があるのだとしても、『そこに時計はない』ものとされるのだ。
 このように、時計を買おうとしても社会全体からの否定された場合、目的としている時計の購入は、どれだけ「不条理」に抗おうが達成することはできないのだ。

 てか、説明が下手で申し訳ない^^;
興味がある人はぜひ映画を見てください。

 そして、「車輪」にもこのような「不条理」がちりばめられているのではないかと思われる点がいくつか存在する。
 まず、冒頭のえりが殺されるシーン。法月は殺人を犯した後にも関わらず普通に生活している。殺人は「あった」のだろうか。「なかった」のだろうか。
さちは絵についてだが、彼女が罰せられた盗作は実際に「あった」のだろうか。「なかった」のだろうか。
 灯花やなっちゃんについでだが、彼女らに罪は「あった」のだろうか。「なかった」のだろうか。
 お姉ちゃんについてだが、彼女はそこに「いた」のだろうか。「いなかった」のだろうか。
 このように、えりの殺されるシーンには、一見法月の権力の強大さや恐ろしさを描くだけのように見えるが、それだけでなく「不条理」も描かれているのではないかと思われる。また、お姉ちゃんの罪の設定も、伏線だけではなく、「不条理」を描くのに一役かっているのではないかと思われる。

 さて、少し映画の話に戻ろう。このように「欲望」の世界にも「車輪」の世界にも多くの不条理にみちている。映画の最後に出てくる不条理は、ボールがないのにテニスをしている、または見ている人たちの不条理だ。実際にはないはずのボールを打っている選手や、目で追っている観客の人たちにとって、そこにボールは「ある」のである。しかし、主人公にはそのボールは見えていない。その時選手の人が、あたかも強く打ちすぎてしまい、ボールが主人公の足元に転がってきたかのようなそぶりをする。そこで主人公は『ボールを拾って投げようとする』のだ。
 このことが意味しているものの感じ方は人それぞれ違うと思うが、私はこのことが、「この世界は不条理でいっぱいであるが、それらに自分から関わっていかないことには始まらない。」と言っているように感じた。
 この映画を(無理やり)友人に見せると、友人は「この世界は不条理でいっぱいなのだから不条理に打ち勝つ必要はない。その世界の中で生き方を見出せばいい。」というように感じたらしい。
 「車輪」のEDでも、自分の考え方は姉EDで社会を変革しようと取り組む姿を描くことで、友人の考え方は他のヒロインのEDで主人公が社会を変革したあとを描くのではなく、日常を描くことで同じようなことを伝えたかったのではないかと思う。

 私の友人のように、全ての「不条理」に抵抗するわけではなく、目をつぶれるところはつぶってやり過ごすのも一つの手なのだと考えて、『肩の力を抜いて、楽にしていこう』と思うのも、私のように『自分から動いていこう』と思うのも、また他にも様々な考え方があると思う。このように、読み手に訴えかける力が非常に強い作品で、少なくとも自分はこのEDで感動したので高得点を付けさせていただきました。
 締まりのない文章になってしまいましたが、この長文が、読んでくださった皆さんにとって何かを得るための足掛かりにでもなれば非常に嬉しいです。以上、駄文失礼しました。

<追記>
 るーすさんは古い映画が好きなのではないか。いや、いきなり何を言い出すのかと思われたかもしれないが、もしるーすさんが古い映画に精通していれば「欲望」という古い映画が題材になっていることの信憑性があがるのではないかと思い、追記として書かせていただこうと思う。
 G線上の魔王で、KAMIはこのようにおっしゃった。『ワーグナーだ。ワーグナーを鳴らせ。・・・・・・』すみません、めっちゃ疎覚えです。とりあえず怒りの表現のときにワグナーを鳴らせと言って機関銃を撃つような仕草を見せるようなシーンがあったかと思います。これは、1979年に公開されたフランシス・コッポラ監督の「地獄の黙示録」というベトナム戦争を題材にした作品で、ワグナーの『ワルキューレ騎行』を流しながらヘリから機関銃を乱射するシーンのパロディーだと思われます。このように、主人公のクラシック好きに乗じ、理解者の少なそうなネタをわざわざ入れるあたり、古い映画が好きなのではないかと推測されます。
 
 では、最後に一言。 べ、べつに、「欲望」という題材を取り上げたことに対する自己弁護しただけで、自分の好きなワグナーネタがわかった人が少ないだろうから解説したわけじゃないんだからね!!
 
 ということで、ふざけて書いた追記②もこれでおしまいです。再度、このような長文に目を通していただきありがとうございました。
------------------------------------------
前回のコメントに対するコメント(こちらも若干修正してます)

・ccccdさん
 「時計じかけのオレンジ」見ました!!このレビューでもわかるように、自分は『不条理』に重点を置いて見ていたため、社会風刺的観点からのご意見でこのような作品を紹介していただいて、非常に刺激的で勉強になりました。ありがとうございました。

・weekerさん
 確かに本で出せば、一般の方に見てもらえるという点ではいいと思います。ただ、エロゲではキャラの立ち絵があるために姉は居ないものだと視覚的に訴えることで伏線が生き、かつ聴覚情報により、何気ない扉の音などによっても「姉」の伏線が際立つという利点もあるので、一概に本がいいとは言えないのではないでしょうか。ただ、「深く考えすぎ」という御指摘には反論の余地がありません(^^ゞ

・ Atoraさん、k-pさん
 目を通していただいてありがとうございます。

・mvself6さん
 確かにそうですね(^^ゞ 描写の数は少なかったかと思います。しかし、それぞれの山場で『不条理』なシーンを見せている点では描写が印象付けられたのではないかと思っています。とは言いつつも、このように考えてるのが少数派(というか自分だけ)なので、mvself6さんのおっしゃるように話として妥当な路線をたどったという見方も有りかと思います。コメント並びに投票ありがとうございました。

・naicufnocさん
 まず一つ言っておきます。その発想はなかった! では本題に。他者の否定だけなら重要ではなく、『「不条理」に従うも逆らうも、自分の目的次第。自己目的に有益か否かを行動基準とすべき』という考えがあってもいいと思います。しかし私が言いたかったのは社会全体からの否定であり、時計の例で挙げたように目的としている時計の購入は「不条理」に従おうが抗おうが達成できません。言葉が不足していたことに関して、本当にすみませんでした。

・ 12281228さん
 長文ありがとうございます。『2章から4章で共通して描かれているものとして「人のつながり」と「人の強さ」』という考えは自分も同じです。似通った考えの方がいると嬉しいですね♪ CROSS†CHANNELや家族計画は知り合いに薦められてやりました。楽しむことはできたのですが、なぜだか車輪のほうが合うみたいです(^^ゞ
「AURA」面白かったです!!初のラノベだったのですが、とても楽しめました。