悪意は果たして
当初70点にしようかと思っていたのだけど、最後にやった瑠波シナリオがほかの3人に比べ突出してよかったのでちょっと加点。
この作品は基本的に敵のいない物語。PULLTOPらしいといえばPULLTOPらしい。
ただゆのはなやしろくまベルスターズであった町の人たちとの交流が、本作は多少弱い。これが日常シーンを少々退屈にさせている要因かもしれない。
箱庭の中が魅力の作品であるにも関わらず、箱庭をあまり堪能できず、主要キャラクターたちとのやりとりがメインとなっているため、そこが減点だった。
遙かに仰ぎ、麗しのにおいても分校シナリオの方が好きなのだが、その要因の一端は間違いなく主要キャラクターから離れた、周囲の存在にあった。
箱庭を箱庭たらしめんとする日々。これがPULLTOPを面白くしていると思う。
だからこそ、本作はそれが弱いのが気に掛かった。瑠波シナリオが秀逸な理由の一つとして、この箱庭に主眼を置かれているという点がある。
町の人たちが描かれているが故に、広がりを感じ、それがおもしろさに繋がった。
世界観に酔いしれることができた、というべきか。
そういう意味で他3人は各ヒロインの問題に終始しており、特に希ルートはそのヒロインの問題すらも希薄に終了している。だから個人的にあのシナリオへの評価は低い。
また、もう一つの特徴とも言える、敵のいない物語。
面白い物語というものに主眼を置いた場合、果たして敵は必要だろうか。
いや、敵という言い方には語弊がある。この場合は悪意とするべきだろう。
丸谷氏のシナリオは、どの作品も基本的に悪意を必要とする。
実際この神聖にして侵すべからずにおいても、節々に悪意のカケラが散見される。
話にちらっと登場した国友の祖母などがそうだ。
元々細かい設定にこだわるライターなので、悪意はどうしても必要となるのだろう。
実際希シナリオは別として、他3人にはそれぞれに悪意があった。
そして瑠波シナリオ。
4人の中で一番悪意が描かれていた。現実の猛威。王国の崩御。会長宅の破産。敵がいないながらに、不憫な現状を描いていた。
つまりは波。
物語を平坦にしていない現象。ただ山も谷もなく、平坦に日常シーンをダラダラ送ってはいエンド。ではどうしたって退屈な所(希シナリオが一番その色が濃い)、瑠波シナリオはそういう意味で感情や状況の変遷があった。だから突出して出来が良い。
総合的に見て、可もなく不可もなくと言ったところ。
やはりある程度の悪意があってこそ、物語は面白さを与えると思う。
個人的にはね。