ErogameScape -エロゲー批評空間-

暇音さんのChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-の長文感想

ユーザー
暇音
ゲーム
ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-
ブランド
インレ
得点
93
参照数
879

一言コメント

普通に戦国活劇としても、私のような深読み大好き人間にとっても楽しめる神作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前から気になっていた作品だったのですが、製品化するということで泣く泣く我慢しておりました。
しかし、十二分に待った甲斐があった素晴らしい作品だったと思います。
内容については下記に長々と書かせて頂いてるので、まずはそれ以外の点の評価を。

何といっても声優様達の熱演が素晴らしい。
大御所さんはもちろんのこと、他の皆さんも素晴らしかったのですが、
その中でも、桐谷華さん、御苑生メイさん、そして春河あかりさんを特に推したいと思います。
浅野内匠頭が切腹に赴く際の、桐谷さん演じる堀部安兵衛の叫びは、
それだけでも感動できるほどの素晴らしいものでした。
御苑生さんも、色んな面を見せる難しい役柄を十二分にこなされていたと思います。
春河さんは、二人の鬼気迫るようなものとは違い、癒し的な意味としての評価なのですが、
新たにファンの末席に加えさせて頂きたくなる素晴らしいものでした。
(春河さんがこれまで出演されていた作品とは、残念ながら今まで縁がありませんでしたので…)
こっそりファンをさせて頂いてる秋野花さんも、最近色んな作品に出演されてるようで嬉しい限りです。

あと、ぬいさんの描かれていた絵も素晴らしかったですね。
ある意味で特徴的とも言える絵柄ですが、評価しているのはそこではなく(もちろん良い絵柄なんですけど)、
その真価は、立ち絵の豊富さや演出の為に手間を惜しんでない点にこそあると思います。
血痕や汚れなど、どれだけの作業量だったんだと心配になるほどの豊富な差分がありますよね。
こうした丁寧な仕事がこの作品の高評価に繋がっていると思います。

BGMも雰囲気にあっている良曲ぞろいでした。
ボーカル曲もよく雰囲気にあっていて、特に「終わりのはじまり」はEDの演出も合わさることで
素晴らしいものになっていたと思います。
贅沢をいうならば、OP曲は隔章ごとの変更ではなく、一~三章はDearestSword~、四章はADABANAで、
ED曲はもう少し種類があったりすると嬉しかったですかね。

とにかく、今年の一位になってもおかしくない、どころか数年に一度このレベルの作品がでるなら
私はまだ生きていけると思えるほどの、素晴らしい作品だったと思います。
良いひと時を本当にありがとうございました。





さて、話を変えまして、この作品の考察をさせて頂きたいと思います。
といっても、考察とは名ばかりの妄想を多分に含んだ私的解釈となります。
文章力などもなく、うまくまとめられてるかすらも微妙なのですが、
少しでも面白いと思っていただけたのなら、感想など頂けるとありがたいです。
(※内容の中に「ダンガンロンパ2」のネタバレ要素がありますのでご注意下さい)


私はこの作品には、下記の三つの側面があると思います。

①忠臣蔵を題材にした戦国活劇モノ
②忠臣蔵などについての歴史考察モノ
③深海直刃の成長における(心理学的な)考察モノ

です。
この三つのそれぞれの面からこの作品を見ていきたいと思います。



まず、①として本作品を見てみます。
大半の人がこの要素を期待してプレイされていると思います。
第一章~第三章は①を強く意識した作りになっており、また完成度も高いため、
本作品を高評価している人の大半に好評なようです。
しかし、第四章に入るとなんだか毛色が変わってきます。
第三章とはまた違う意味で忠臣蔵の人達を避け、あまつさえ逆に否定することが多くなってきます。
挙句、新キャラとはいえ、むしろ新キャラだからこそ直刃と関わりをもち、
一種の癒しとなっていた橋本兄妹が病んでいく様を見せつけられます。
第三章までにも暗い出来事は多々ありましたが、今までのものは「悲しい」出来事ではあったものの、
後味の悪いものではありませんでした。
しかし、橋本兄妹を始め、第四章の出来事は後味のよくない「欝」なものに近いように思います。
明確にというほどではないにしろ、前触れもなく作品の雰囲気が変わってしまっており、
これではむしろ第三章までを楽しめてた人ほど戸惑いを感じるのも仕方ありません。
そして最終章である第五章。
これも第四章とまた変わり、前半はまだしも後半は今までの史実に沿った設定はなんだったの!?
と言わんばかりの、トンデモカオスな世界になります。
とりあえず今まで亡くなった方も全員登場し、黒幕とやらも倒してハッピーエンド!
とはなるものの、消化不良を感じる方も多かったのではないかと思います。



次に、②として見てみます。
この世界(作品)は作中で直刃が述べているように
「直刃が詳細を知らない事象については悲劇的な結末を見せる(最終的な結果は史実通り)」という法則があります。
これは作品を盛り上げる役割を持つとともに、現在主流の忠臣蔵の考察とは別の考察、
もしくは史実で語られている以外の、別の側面もあるということを語るのに適したシステムだと思います。
主にこれは第一章~第三章において活用されており、郡兵衛の脱盟、小平太の脱盟、萱野の切腹、
などの裏にはこういった背景があったのではという可能性を提示しています。

また、作中では「悪」として描かれている吉良上野介、徳川綱吉、柳沢吉保、荻生徂徠。
荻生徂徠は討ち入り後、赤穂浪士達を生かすべきという風潮の中、強硬に切腹させるべきだと主張したと言います。
しかしながらこれは、赤穂浪士達はこの先、生きていくよりも武士として切腹させるのが彼らの為だと
考えたからという見方もあり、実際生きながらえたとしても彼らにとって幸せではなかったと見られています。
また、作中だけでなく天下に名高い悪政と言われている綱吉公の生類憐れみの令。
内容は破天荒にも思え、実際に当時の人々に恐れられていたのは事実のようですが、
「綱吉の時代にはまだ残っていた戦国時代の荒々しい風潮を一掃するために必要であった。
野犬等をまとめて管理することで、当時江戸だけで10万匹いたとされる野犬の被害が激減した」
などの側面もあり、奇政ではあったものの悪政でないとする見方も強くなっているようです。
吉良上野介、柳沢吉保も伝えられているだけでも良いエピソードが多数あります。
つまり、歴史的に見た場合、絶対的な「正義」「悪」などは存在せず、
それぞれがその時代を一生懸命に生きた結果でしかないということです。

第四章はこういった多方面からの解釈を楽しむための材料を多く提示した章であり、
その為、第三章までの①としての要素が抑えられたと取ることができます。
第三章までを高評価している人の中でも第四章の評価は分かれているのはこの為「も」あると思われます。
個人的にはOPの「赤穂浪士は正義なんかじゃない、正義は吉良にこそあるのよ」という
セリフに結構期待していたのですが、吉良は必ずしも悪ではなく弁護の余地は大いにあるものの
正義と言えるほどの材料は提示されてなかったかなというのは不満でした。

そして第五章ですが、②として見てもある意味①以上に訳がわからないことになってます。
すると第五章とはいったい何だったのでしょうか。



最後に、③として見てみます。
これは、hotpantsさん他、先達のレビュア様方の感想を参考にさせて頂きました。
先程も述べさせていただきましたが、作者様、他レビュア様の意図とは全く違う可能性があります。
そういう考えかたをする人もいるのだな、くらいにとらえて頂ければ幸いです。

直刃は、類まれな剣の才能を持つものの過去のトラウマ(莉桜)から剣を握れなくなり、
かといって剣への思いを捨てきることもできず日々を悶々と生きている少年として登場します。
そしてある元旦の日、初詣にいった直刃は突然忠臣蔵を模したと思われる世界にタイムスリップし、
そこで様々な経験をしながら成長をしていくことになりますが、
この忠臣蔵を模した世界とは何だったのかというのを、心理学的側面から考えていくのが③になります。

直刃は最初こそ戸惑いつつも、史実と違い登場人物が女であること等はさほど問題にしておらず、
驚くほど早くこの世界に順応していきます。
また、登場人物は、何故か直刃が現実世界で関わった(モブキャラは作者の過去作からとっているようです)
人によく似ている人が多数登場します。
そして、材料こそあれ特に詳しく語られることのなかったこの世界の法則についてもいつの間にか理解しています。

つまり、この世界は直刃が生み出した、もしくは何らかの理由で直刃の為に用意された世界ではないかと考えます。
しかしそれは、直刃にとって都合がいい、逃避のための世界ではありませんでした。
例えるならば、ダンガンロンパ2のような精神的な更生施設の役割に近いと思われます。

直刃はループをすることで五回この世界を体験することになりますが、
各章ごとにテーマがあり、直刃はそれぞれの章を通してあることを学んでいきます。
(直刃の内面世界についての詳細は hotpants様 のレビューを拝見することをお勧めします)

【 hotpants様 レビュー内容より抜粋 】------------------------------------------------------------------------------------
>ちなみに五常とは、儒教で説く五つの徳目のことで、言うなれば人が人であるために必要な精神の構成要素であろうか。
>荻生徂徠が儒学者であったように元禄時代には「儒教」と云う信仰がある。
>「仁」、「義」、「礼」、「智」、「信」の徳を見れば、順に一から五の章に符合していることがわかるように、
>物語世界内現象的意識には無意識的にテーマ(遵守する徳性)が定められているように見受けられる。

>一つ、「仁」とは、思いやりの心を持つことであり、万人に慈愛の精神を向けるものである。>大石内蔵助(対として直刃)
>一つ、「義」とは、利欲にとらわれず、正しい行いを為す心を持つことである。>堀部安兵衛(対として小平太)
>一つ、「礼」とは、折目正しく、そして、相手を大切に思う心を持つことである。>大石主税(対として新八郎)
>一つ、「智」とは、是非の心を持つことであり、物事を論理的に捉え知識や経験を通じた正邪の区別をつける判断を持つものである>甲佐一魅
>一つ、「信」とは、信義を貫く心を持つことであり、約束を違えず、誠実であるものである。>右衛門七
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

第一章~第三章は直刃自身が未熟なのもあり、ただ流されるまま五常の欠片を取得していきます。
そして第三章を終えた段階でとりあえずの悟性を得、現実世界へと帰還しますが、
まだ満たされていない直刃は、第四章で一魅の協力を得、再び忠臣蔵世界へと戻ってきます。

第四章ではまだ目立ちにくいですが、ここから直刃が徐々に変わっていきます。
具体的に言うならば、直刃がこの忠臣蔵世界の人物達を一歩離れた位置から見るようになっていき、
(変な表現ですが)この世界に対する「現実感」も希薄になっているように思われます。
これこそが第四章、第五章の違和感の一番の原因ではないかと。
これは直刃が五常を獲得していくと共に、この世界と自分の関連性について薄々気づいた為ではないかと思われます。

第五章においてはもう、世界観すら維持できず(する必要もなく)なっており、
三章までは執拗に気にしていた歴史における齟齬や細かい調整を気にすることもなくなっています。
(大石に予言を信じさせ行動を導くなどは、確率は決して高くないはずなのに(口でこそ心配してたとはいってますが)
失敗するなんてまるで思ってないかのように行動してます。)
①の視点で見るならば、単に今まで何度も説明した部位(が多い)ので読み物として不必要だったから省略したともとれますが、
③の視点で見るならば、もはや目的(赫夜を倒す)以外のことは些事であり、またどうにでもできると、
上位者のような視点でとらえているように見えます。

そして直刃は赫夜との最終決戦に挑み、勝利し、(この時、千鳥を持つヒロインは直刃の五常の化身であり、
彼女らがその対の化身である赫夜や蛇を倒すことで、直刃が五常を真に獲得するという暗喩だったと思われます)
最後は、赤穂浪士や一部の人々と共に天領の島に移り住み、現実世界に帰ることを決意しつつも
束の間の平穏を楽しみながらこの物語は終了します。
この時、直刃はもう物語の登場人物であると共に「私達」と同じ次元にまで昇華しており、
「現実世界に帰る=この世界や人々と別れる=この物語(ゲーム)を終える」
というまさに「今の私達」と同じ状態になったとこでこの物語が終わります。



各章のまとめ

第一章~第三章:
基本的には忠臣蔵をベースにした萌え燃えな一般的ギャルゲー。
パッと見このゲームをやろうと思った人が「正当に」楽しむ為の章。

第四章:
物語的な楽しみより、史実・歴史考察的な楽しみを中心に据えた章。
好き嫌いが分かれるが、人によっては「物語」としての厚みが出たと捉えることもできる。
③の存在がある為に、一学・吉良に味方して赤穂浪士と対峙する等の展開をとりにくく
中途半端な結果になってしまった、物語としてみるなら個人的にもったいなかった章。

第五章:
「終わり」の章。
この世界を「現実(タイムスリップした世界)」とだけ捉えてると混乱する。
①②でいうならば「物語」の終わり。③でいうならば「この世界」の終わり。
同時に、直刃にとっての始まり。



最後に、色々と妄想考察案を垂れながしつつ締めたいと思います。
(かなり突飛な考えの上に、練り込みも今まで以上に不十分です。ご注意下さい)


・二人の巫女について
 ゲーム中の現実世界には(赫夜モデル)巫女と夜里子(三章最後に出てきた赤穂大岩神社の巫女)という二人の巫女が登場します。
 そして、この二人には共通点があります。
 赤穂に縁のある神社の巫女であることと、そっくりな人物が忠臣蔵世界に登場するということです。
 この二人は何者だったのでしょうか。
 私は、直刃を正しく成長させる為の道標だったのではないかと思います。
 赫夜は直刃を苦しめる為に行ったと言っていましたが、行動だけをみるなら直刃を見守り導いているようにも見えます。
 そして小夜も、最終決戦の際直刃に千鳥を渡す等、見返すと所々で重要な役割をしています。
 (こうした役割が小夜を「影のヒロイン」と言わしめる理由ではないかと)
 仮にこの二人があの忠臣蔵を世界を作り、直刃を成長させた立役者だと考えると、
 浅野家の末裔を助け導いたもう一つの忠臣蔵だった・・・なんて妄想もできないでしょうか。ダメデスカネ。


・第三章の選択肢について
 このゲームには唯一第三章に選択肢があり、山吉新八郎を受け入れることでゲームオーバーとなります。
 これは主税ではなく、上記した五常の「礼」の対の化身である山吉新八郎を受け入れた為、
 直刃が正しい形に成長できなくなったからと捉えることもできますが、もう一つ妄想をしてみたいと思います。
 
 このゲームには、たくさんの登場人物がおりますが、声優が複数の役目をしているのはほとんどありません。
 そんな中、直刃が学生生活でよく会話していた三人の声優は忠臣蔵世界のキャラとしても登場しています。

 赤坂>近衛忠徳(本物のほう)
 陶山>山吉新八郎
 袴田雛子>浅野阿久里

 赤坂・近衛忠則は共に直刃からモテそう、イケメンと思われており、
 雛子・阿久里は姿形も似ており、またある種の憧れを持っていた点も共通しています。
 とまぁ、相変わらずの力技でこじつけてますが、重要なのは陶山・新八郎の方です。
 新八郎=陶山の化身だとした場合、あの選択肢の意味が変わってきます。
 あの選択肢は、文章こそ新八郎と共に歩むか否かという感じになっていますが、
 新八郎を選んだ場合、直刃は自分が赤穂の者だと新八郎に告げるという微妙に繋がりがおかしい行動が行われます。
 仮にこれを現実世界での出来事に置き換えた場合、タイムスリップをしてあの世界を体験した(している)ことを
 陶山に話したという暗喩にはならないでしょうか。
 (これは、オタク同士であり話の合う陶山だからこそ話す可能性があったものと思われます)
 その結果、否定された(直刃、お前大丈夫か的な)、もしくはあの世界が直刃の内面だけのものでなくなった為崩壊してしまい、
 あの世界での直刃は死んでしまった。なんて考えもできないでしょうかね。