重厚にして長大、娯楽性のみならず象徴性も冴える作品。
今回の作品は『信念に生きる』という、特定の志向性の下に作られていた物でしたが、重厚で長大でした。
ただし、長大なのは文体にも一因があり、それがいささか冗長だと感じる事もありました。
独特な設定や世界観はライターさんの趣味でしょうが、それを単なる趣味の表出に留めず、
物語のテーマをきちんと象徴するように使えている点が、相変わらず素晴らしかったです。
特に、主人公の能力の在り方やその使い方が、主人公の信念、立場をよく象徴していたように思えました。
……数多くの魔術や霊から、よくもあんなチョイス(余分もありましたが)が出来きたものだと感心しました。
・第一章:
ここで語られていたセイバーは、信念を持ったアルクェイドみたいな感じで、
ENDもアルクエイドTrueに酷似していたように見えました。
ただし、月姫の方はやるせない終わり方でしたが、今回は別要素の為に十分カタルシスを得られました。
アーサー王物語と、テーマを結びつけた想像力は結構なものです。
王道シナリオでしたが、導入としては破格でしょう。
・第二章:
作中のタイガー道場でも公言されていましたが、完璧なる衛宮士郎編でした。
ただ、結果に目を取られて初心を失っていたアーチャーは、前章での彼とは別人のような気が……。
溺死しろ、とか言いながら、積極的に引導を渡そうとしていた姿は何とも言えませんでした。
ただ、第二章は、信念と能力・戦闘のシンクロ率が全章を通じて一番高く、バトルが盛り上がりました。
「偽物で何が悪い、信念が偽物だとしても、そこにある理念の美しさは本物だ(vsアーチャー)
それに、偽物が本物に敵わないという道理はない(vs金ピカ)」ですかね。
……蛇足ですが、最初の方で言峰が「物の真贋など、その事実の前には無価値だ」なんて言っていたり……。
シナリオの性格の為にヒロインの凛に関する描写は希薄で、わりと普通でしたが、
『欠陥』がないだけで、士郎やセイバーとは根本的には同質のような感じを受けました。
『凛の父親が最後に遺した言葉』に関してのネタが描かれていれば、顕著になったろうと思います。
……実は、体験版をやって、そのような展開と、士郎との対比を予想&期待していたのですが、
本編中の凛があの性格で、先導的な役割を果たしていたので、望むべくもありませんでした……残念。
凛TrueENDで描かれていたのは“大事なコト”、
セイバー編や、凛編の途中で打ち捨てられていたテーマがほのめかされていたような……。
凛GoodはセイバーGoodと兼ねられている感じで、日和った出来だと思いました。
大ウケ台詞……「気安く遠坂には近寄るな」
「秋葉は俺の女だ」を髣髴とさせた台詞。まあ、“大事なコト”ですね。微笑ましかったです。
・表ルート総括
アツかったです。信念をテーマにしたものでは、自分の中では二番目の出来です。
ただ、最初から疑問に思っていたのですが、『みんなを救うのが正義の味方』なんですかね?
……衛宮士郎の信念は『偽物』で果ては不毛、そして本人も開き直っているという状態であり、
偽善と呼んで“善”として見るのもおこがましい感じがしました。
あと、気のせいかもしれませんが、二人のヒロインは攻略出来ているようで、出来ていないような……。
しかもどちらかと言うと、セイバーよりも凛の方が攻略できていないような感じでした。
・裏ルート・第三章:実践編、詰め込み過ぎ。
第一章、第二章は前座だったのではないかと……。
内的にせよ外的にせよ、あそこまで積み上げられたモノを、悉く崩していく展開はゾクゾクしました。
言うなれば、月姫秋葉編で弓塚を殺し、帰宅した後に抱いた想いを何度も喰らわされた感じですかね。
士郎が信念を変え、新たな信念に乗り換えたのは仕方が無い事でしょう、元々の信念は『偽物』でしたから。
“大事なコト”から生じた信念を優先させただけの話だと思います。
『極偽』の心象世界である“無限の剣製”が使えないのも道理ですね。
まあ、どの道、信念を貫いて剣の道を進む主人公のスタンスは、変化していませんでしたが。
間桐桜はシエル+琥珀が、外部に向かって暴走したようなキャラで、同情はしましたが愛着は持てませんでした。
と言うかむしろ、このシナリオは凛の株を上げまくっていたような気がします。
構成ですが、没になったイリヤルートを兼ねている為か、統合失調を起こしていたように見えました。
はっきり言って、士郎達の問題と聖杯・言峰の問題は次元が違うでしょう。
闇桜が背後に兆単位の力を抱えているにもかかわらず、一度に千の力しか出せないというのが、
その次元の違いをありありと物語っているような……。
要するに桜では役不足。アレは是非、イリヤ編で言峰に扱ってもらいたかったですね。
・主人公について
今回の主人公は『信念が無ければ生きていられない』という様相を呈していたように思います。
……どうも、この主人公は『ただ信念を貫く人間』のようで、生きる面目が立つならば、
生きるに値するならば、信念の内容はあまり重要ではないのではないかと。
生きる姿勢に関して、遠野志貴とは対極の人物であると、私的に分類しています。
好きなタイプではありませんでしたが、面白いのでこの言葉を贈って応援します。
「善でも悪でも、最後まで貫き通せた者に偽りなどない。自分を疑うのなら、貫き通して見せろ」 (パピ○ン在籍漫画より)
……ただし、並行世界からですが。
過去作と同じく、“18禁⇒エロゲー”という認識枠組みを崩すに値する作品。
ゲームの可能性を信じさせてくれる出来で、とても満足しました。
殺し文句である『嘘』『偽り』『意味が無い』の多用が気に懸りましたが……。
閑話休題。
一番哀れと思われるキャラクター……金ピカ
セイバーの誇り掻き立て、士郎の信念を強固にし、終いにはあっけなくエサになったピエロ。
Fate内では反英雄と言ったところでしょうか。南無南無……。
一番感情移入したキャラクター……言峰綺礼
辛いものは苦手ですが、例え仇でも麻婆豆腐を食い明かそうかな~と。
……あれだけ執着していたのに、無感動で幸せを感じられてなかったのかな?
ファンディスクがあるなら、前回の聖杯戦争における衛宮切嗣の話を入れて欲しいと思いますね。
……イメージ的には、歌月十夜の七夜黄理みたく。
vs言峰、vs凛の……父親を期待。ついでに、遠くから見守ってますって風な切嗣も。
超長文・妄言多謝です。