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捜索隊さんのCLANNADの長文感想

ユーザー
捜索隊
ゲーム
CLANNAD
ブランド
Key
得点
98
参照数
388

一言コメント

麻枝氏のカラーは元々泣きではないと感じていた私には、これは正統進化に思える。不器用な皆に対する愛おしさが募る。長文の方は半端なネタばれではないので、プレイ後でお願いします。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

感想と異質の範囲まで踏み込んでしまっているので、思い切りあけます。まだまとまっていませんが、とりあえず暫定版。読み返したら各シナリオの解題を含める予定。









「僕らは、今日までの悲しいこと全部。覚えてるか、忘れたか。」

これまでのこのメンバーの作品の集大成、といっていいでしょう。人の想い・祈りによって昇華された共同体幻想がメインテーマ。これ自体は家族からの直接的拡大という要素もない訳ではありませんが、実は Kanon でやりたかったのは本当はこれなのかな、と思わせる位旧作のテーマと人物相関図を*意図的に*持ち込んでいます。あゆ→渚、あゆ・真琴→風子、秋子→早苗、舞→ことみ、杏/椋→香里/栞、佐祐理→智代、そして折原浩平→朋也。主人公の名前は完全にネタ割っていますし、clann - ad = 朋也という意味も (無理気味かも知れないが) あるでしょう。もともと、Kanon という作品も「あゆを媒介とした町の話」という側面を強く見せる作品でしたが、今回は Kanon の町とヒロインの重点関係が入れ替えられています。いや、出てくる男女の重きもほとんど同格というに近い。これを端的に見せてくれるのが草野球シナリオで、やはり語る上では読んでおくべきでしょう。

こういう構成を取った以上、18 禁は作り手にとって足かせにしかなり得ません。これが18 歳以下に読ませたかったから、というのは実は中に含まれる大量の旧作と他社のエロゲの引用からみても主な理由にはなり得ないでしょう。また、ことみ以外のヒロインのシナリオがこうなっているのもかなり必然に感じられます。前半部で書くべき内容は恋でもヒロインの描写でもなく、想いにならざるをえない。このねじれが露わに出てしまっているのが杏/椋シナリオでしょう。誰が見ても分かる杏の怒りの立ち絵など、シナリオの冒頭から君望のパスティーシュであることを明解に出していますし、君望から抽出されているのが、例えば杏エンドでは直前直後の修羅場をカットしたヒロイン杏の一瞬の幸福の瞬間であることが注目点。各ヒロインの前半の物語では幸福の瞬間の後日談は実は完全に切り離されており、その前後を推察することすら許されていません。そう考えると、その様式から外れたことみシナリオが、浮いてしまっている理由が分かってきます。ことみという、舞や美凪を思わせる脆くて幼いヒロインをきっちり描き出し、彼女の救済を語るのはこれまでも MOON、ONE、Kanon、AIR と繰り返されたテーマだったのにもかかわらず、今回はことさらに異質感が際だつのも、この全体のストーリの流れにうまく入っていないから。また、登場人物たちの精神年齢をこれまでの key 作品に比べてかなり高めにする必要も出た関係で、key のお家芸口癖が出ていないことも全体の色をかなり決めています。

そして、後半、つまり渚の Afterstory では支え合うふたりの目を通して変わっていく町の姿、受け継がれる想いを描き、物語が幻想世界と重ね合わされます。これまでファンタジーの文脈で語られてきた key の世界観、今回展開されているものは全然違って原初的母性共同体とか魔女信仰とかの文脈、奇跡ではなく呪性、約束ではなく言霊、以前あゆに割り振られた地母神役は、ことさらに描写的にも無垢が強調された巫役の渚となるし、渚が深く関わるシナリオの幻想性の高さ。対比してみて実は Kanon を私が読み違えていたのかという気すらかなりしてちょっとへこんでいます。

もう一点、これまで父性を抹消してきた麻枝シナリオ、今回は四人で分担の形になっています。祐介、幸村、秋夫、直幸の四人にほとんど共通点がないことも見るべき点でしょうし、シナリオの内容から彼らが配置された理由、そして光の玉が付いたエンディングがあるわけも最後まで読んでみるとよく分かります。

ここまで書いてきましたが、まだもう数段底がありそう。しばらくは読み返しを続けることになりそうです。ここまで語ってしまった後は、冒頭の感想にもあるとおり、key という場として次作があるのかなぁ。それにしても、幼稚園の先生となった杏の幸せそうな姿に思いを馳せる。