壮大なシナリオ、絶妙なリアリティ
ほぼ、ありえない話かもしれない。でも、もしかしたら起こってしまうかもれない。この絶妙なさじ加減のストーリーの時点で傑作の予感を感じさせる。
長編で、日常シーンが非常に長いが、しかし本作にとってはそれこそに意味がある。だからこそオールクリアまで骨が折れるのがネックなのだが。
大まかな不満点は二つ。
一つ。
人間の醜さの描写が度を超え過ぎている。『SWAN SONG』ぐらいに鬱一直線のような作品ならまだしも、この爽やかで優しい世界観を持つ本作には合わない。別に全く描写するなとは言わないが、あのクズ酔っ払いとかはやり過ぎ。というか他のヒロインの家族を差し置いて、あんなもんに立ち絵がある事にまず腹が立つ。
もう一つ。
個別ルートにムラがある。青葉ルートは顕著で、もはや別作品になってしまっている。
はっきり言ってしまうと、個別自体、要らないくらい。別に出来が悪いわけでは無いのだが、それほどノーマル→アフターの流れが美しいのだ。
総評。
正直、健速氏のシナリオはいまいち好きではない。個別ルートのも含めてエピローグの、あの終わりそうで終わらないくどくどしいテキストがどうも苦手だ。
ちなみに、『こなたよりかなたまで』は自分の中で駄作に終わった。
あれは特にラストが酷かったのだが、対して本作はそこが見事だった。
ノーマル、アフターは無論、個別ルートも、ぐだぐだ長ったらしい展開から、巧く爽やかな締めに持っていったのには驚かされた。
何よりあのアフターは、音楽の力もあっただろうが、それでも各所での賞賛も頷けるほどの素晴らしさだった。
不満もあるが、結果としてはアタリの一作だった。壮大な長編映画を見終えたような満足感と充実感があった。