穢れなき、愛翼の少女
まるでRPGの様なシナリオである。
空中に浮かぶ都市が舞台で、主人公はそのヒエラルキーの最下層で生きている。
そんな主人公が不思議な力を持つ少女と出会い、やがてはこの世界の真実を求めて、上へ上へと移動して場所を転換し、そこで驚愕の真実を知ることとなる。
この流れはまさにRPGだ。
ファンタジーな世界観も相まって、言わば読むRPGと言ったところか。
しかし一見、王道なシナリオに思えるが、その実は非常に大人向きで、シリアスかつバイオレンスなダークファンタジーとなっている。
ただ私はむしろ、寓話に近いものを感じた。
本編で天災として描かれている「崩落」だが、この設定が極めて強い意味を成している。
崩落が起きた時、その上に居た者は、否応なしに遥か下へと呑み込まれ、その存在を失う。昨日まで親しかった人が、明日もまた会えるのが当たり前と思っていた人が。天災により、突如としてその存在を失ってしまう。
これは私たちのリアルな世界と同じではないだろうか。
常に死と隣り合わせにあるような日常、その中で懸命に生きている人々。
だからこそ輝く人々の想い、彼らの命。
凄まじい吸引力を持つこの寓話に、私は感情移入しっぱなしであった。
そしてレビュアーの間で賛否両論になっている第5章だが、私はこの内容、結末で正しかったと思う。
カイムの姿や、衝撃の結末も、ベストな描写だったと思う。
バルコニーでの例のルキウスのカイムへの、言葉。あれこそがキーであり、あれが全てを物語っている。
「知る事で世界は変わる、良くも悪くも」。正にカイムは知ってしまい、そして変わった。だから葛藤した。
何でもスマートに物事に対処していたカイムが、あれほど泥臭い人間になった。そして葛藤の果てに究極の決断をする、ここがたまらなく良いのだ。
終わり方も、単純にめでたしめでたしな終わりではなく、いったいこの後、どんな苦難が待ち受けているのか、そしてそれを辛くも乗り越えた時、どんな喜びが待っているのか、それら予感させる余韻に満ちた後味は見事であった。
八月の奇跡を、とくとその目に焼き付けよ。
※ドラマCDが多く出ているが、前史的な内容となっているそちらも是非オススメ。
特に六巻はクルーヴィスに関する重要な物語が展開されるので必聴もの。
集めるのがやや面倒だが。