ErogameScape -エロゲー批評空間-

吾唯足知さんのたねつみの歌の長文感想

ユーザー
吾唯足知
ゲーム
たねつみの歌
ブランド
ANIPLEX.EXE
得点
90
参照数
75

一言コメント

親子三代+弟のほのぼの冒険譚!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

そんな風に思っていた時期が私にはありました。でも春の国でパンツ茹でてたしな。あとちょいちょい挟まれる食レポが好きです。
蛭子神だから家族に関して拗らせてるんだろうな〜と予想はしていたので何とか耐えられましたが、結構辛い展開でした。実際は87点くらいなんですが、点数をつけるときは5点刻みというルールを勝手に設けているので、90点かな。名作でした。

シナリオライター曰く本作は「家族」「葬儀」が中心とのことで(公式サイトより)、メッセージ性?というか読み手の人生観?にダイレクトに語りかけるようなお話だったと思います。あまりにストレートにぶつけてこられたので心にダメージを喰らいながら息も絶え絶えに感想を書いている次第です。
春は娘を想う父、夏は家母長制に縋って思考停止した一族、秋は妻と次世代への愛、冬は役割との対峙。春夏秋冬の神々の国を巡って描かれたものは、私たちの世界とあまり変わりません。こと「家族」においては尚更で、個人に傷を負わせてそれを徹底的に踏みにじる機構だということも。わかりやすいようにセンセーショナルに描かれています。
ある意味印象に残ったのは夏の国です。夏の鳥頭連中は狂ってる!頭おかしい!というのはまあその通りなんですが、私は主人公たちのお人好しの方が怖かった。狂気的とも言える奉仕精神が怖かった。驕りと傲慢さが透けて見えて気持ち悪くて反吐が出ました。嘘をつかず素直になって書きました。悲しませたらごめんなさい。

秋の国の終盤からは怒涛の展開で目が離せませんでした。鳥頭連中が宗旨替えして感謝し始めたかと思えばヒルコくんがスーパーサイヤ人になるし、世界は嘘だし、陽子とツムギは氷漬けにされてみすずは単身で冬の国に行くことになるし。
何やかんやあって挫けそうになりながらも、みすずとツムギは精魂果てつつ死に物狂いで原始の巓を踏破します。ツムギの「ママ、見てて……あたし、凄いよ」「頑張るから。見てて──」はみすずへの確かな愛があって印象に残るセリフでした。

終盤の展開はひとつひとつのシーンの衝撃が強すぎて正直朧げになってしまっているのですが、みすずの祖父母から陽子・陽子からみすず・みすずからツムギまで受け継がれた想いを歌にした「たねつみの歌」がエンディングテーマとして流れたときは胸を打たれました。なんかもう、放心状態です。名作ではあるのですが私は再走出来なさそうです(苦笑) でも人によってはかなりのスルメ作品になるとも思います。

最後に、とある作品のワンシーンを添えて。

「すごかったんやなぁ、家族て」
「このうえない幸せと、このうえない辛さ…すべてがそこにある」
「それはまさしく人が生きる、いうことや」


(余談その1)
陽子が奇跡と言って差し支えない回復を見せて両親はどう思ったのか、陽子はどう思ったのか、2050年に帰ったツムギは母親のみすずとどのような話をするのだろうか、結局ヒルコはどうしてみすず一家を選んだのだろうか(秘密と言われてしまいましたが)。美しい穴が空いている作品でした。妄想するのが楽しい。ツムギ、パパっ子からママっ子になるんじゃなかろうか笑

(余談その2)
「私はあなたを愛している」をヒンディー語の与格表現を使って訳すと「私にあなたへの愛がやって来て留まっている」という文章になるそうです。自分から愛そうと思って愛したのではない。超自然的に、不可抗力で、避けられようもないあなたへの愛が私にやって来た。ツムギに貫かれたみすずと自分しか愛せなかった北風クジラを見て、ふと思い出しました。
愛は自分に宿り、次の世代にも宿る。自分がいなくなっても器を変えて愛は継承されてゆく。愛という概念が無くならない限り化け物たる母親は生まれ続けるでしょう。

(余談その3)
アニプレくん!『ヒラヒラヒヒル』のSwitch版もお願いします!てか何でたねつみが先に移植されたんだろう?