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下総さんの夏めろの長文感想

ユーザー
下総
ゲーム
夏めろ
ブランド
AcaciaSoft
得点
85
参照数
313

一言コメント

求めていた夏の景色が、ここにあった。 「忘れないで。空がこんなに綺麗だったこと――」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品は良い点と悪い点が非常にはっきりしている作品でした。いろいろと尖っている作風なので、少しでも自分に合わないとその時点で不快にしか思えないような点も多々あります。

 僕は 秋→蘭→美夏→つぐみ→橘花 の順で攻略しました。基準は主人公との関係の近さです。

・共通√

 高校最後の夏。夏休みを間近に控えた7月に、いとこの家に居候するところからこの作品は始まります。
 高三年にとって夏は受験シーズンの始まりを意味する季節でもあり、小さかった頃のように無邪気に楽しんではいられない。それでもなにか想い出を残したくて、友人たちと精一杯の夏を過ごします。縁日、花火、海水浴と夏らしいイベントをこなしていく中で、女の子たちとの関係少しずつ変わっていきます。

・秋√

 正統派な純愛ストーリーという雰囲気で、全体的に好みなシナリオでした。
 文学少女にして陸上部という相反する属性を持つ秋。そんな彼女と徐々に関係を深めていく日々はとても初々しいもので、エロゲというよりはときメモタイプのギャルゲをしている気持ちになりましたね(この作品は全体を通してどこかそんな雰囲気があります)
 そんな彼女の魅力といったら、なんといっても付き合ってからの態度の軟化ぶりでしょう。出会った当初は口数も少なく、どこか引っ込み思案な気のあった秋が主人公と恋人になってからというもの、完全に浮かれた声で甘えてくるのはとてもかわいらしかったです。特にあの電話越しの会話のシーン。
 エッチシーンに関しても、「男の子になりたかった」といっていた彼女が主人公と身体を重ねていくことにより自身の女性性を自覚し、受け入れる過程の描写には目を見張るものがありました。
 一つ不満があるとすれば、共通√での関わりが少なかったせいで、他ヒロインに比べてキャラの掘り下げが不十分であることでしょうか(これは委員長にも少し言えること)

・蘭√

 真面目でおしとやかな委員長キャラ……と思いきや、本作の中で最もリアルな思考回路をしている腹黒ドSヒロインでした。
 他ヒロインに対する明確な敵意、八つ当たりしたあとにすぐ謝罪のメールを送る、雑談でのたわいないイジリをいつまでも根に持っている……などなどリアルな女性の面倒臭さが所々に描かれていて、新鮮な気持ちで彼女と向き合うことができました。
 そして特筆すべきはなんといってもエッチシーンでの豹変ぶりでしょう。命令口調で主人公を奴隷扱いするような子だと、一体だれが予想できたでしょう?
 蘭はシナリオというよりも、キャラそのものが魅力の√に仕上がっていたような気がします。

・美夏√

 こんな女友達が欲しかった。欲しかった。ノリがよく、気さくで、気軽に下ネタ混じりの冗談なども言い合えるかわいい巨乳の女友達……こんなの惚れない方が難しい。他ヒロインとの関係も考えると、現実なら付き合う確率が一番高そうな子ですね。
 美夏とは付き合う前から双方合意の上で行為に及びます。行為中大切にされ喜んでいる美夏を見ていたら、こっちまで嬉しくなってしまいました。その後の主人公の対応は考えうる限り最悪のものでしたが……。まあシナリオの関係上仕方ないというのはありますが、もう少しやりようがあったんじゃないかと。
 それも二人、花火を見ながらの告白シーンで収まるべき形におさまります。超嬉しい……と心から幸せそうな声を上げ、涙を流す美夏がとてもかわいい。一見ガサツそうに見えて、その実誰よりも繊細な乙女心の持ち主……というありがちなやつです。でも今回の場合は単なるキャラクター上の記号ではなく、しっかりと「美夏」という少女の一側面としてうまく落とし込めていたので、まったく新しい気持ちで二人の物語を楽しむことができました。
 ただパイ〇リのシーンはどうせなら正面絵から描いてほしかったです。それじゃ両胸見えません……。
 エッチシーンで暴走する主人公の言動の数々を優しく受け入れてくれるのはこの子くらいでしょう。いろいろといい子すぎる。

・つぐみ√

 実妹です。ツグミに関しては……正直微妙という感想を抱かずにはいられませんでした。僕に妹属性がないというのも原因の一つなのでしょうが、このシナリオでは主人公のナヨナヨしていて優柔不断であるという欠点がモロに悪影響を与えていたなという印象を受けました。つぐみが好き、だけと妹だから……と同じような煩悶を何度も聞かされてうんざりです。エロゲなんだからそこらへんの倫理観はとっぱらって男らしく気持ちを伝えればいいものを、無駄に真剣に考えて徒に妹を悲しませる主人公には怒りさへ覚えました。
 僕が妹キャラを好きになれない理由が詰め込まれていた√、という印象。ツグミ自体はとてもかわいらしい子だっただけに、そこが残念です。

・橘花√

 さて、満を持しての幼馴染いとこ。ここに至るまで主人公をあからさまに嫌うような態度を取っていた彼女がどうデレてくれるのかと勝手にワクワクしながら√に入りました。結果的にはツンデレキャラで定着し、見違えるようなデレ描写はなかったので、そこはちょっと肩透かしを食らいました。でもそれを補って余りある素晴らしいポイントがいくつもあったので、プレイ中はあまり気になりませんでした。
 √に入って早々主人公がレ〇プまがいの行動に出たのは流石に引きましたが……橘花側も結果的には嫌っていなかったからよかったものの……いくらなんでも股間に正直すぎて驚きました。
 主人公を嫌っていた理由は美夏√でも少し触れていたのでなんとなく予想はついてたので驚きはありませんでしたが、スタンプ云々の話は幼少期の淡い恋心の表現として秀逸で感嘆させられました。
 そしてさっきはデレてくれなかったのが不満だなんだと書きましたが、√中盤まで橘花が安易に態度を軟化させなかったのは好感でした。徐々にじょじょに昔抱いていた主人公への好意を取り戻していく様子を丁寧に書いてくれたので、自然な形で二人の恋の成就を見届けることができたんだと思います。
 そんなこんなで橘花と付き合い初めた主人公は、しかし過去の先輩との結末や叔母からの助言によって、橘花との未来に不安を募らせます。出会いもあれば、別れもある。今は幸せに満ち溢れているこの恋にも、いずれ終わりがやってくるのではないか――そんなことを考えているところに、夕立の止んだ空の下で橘花の零した一言、「忘れないで。空がこんなに綺麗だったこと――」は名台詞ですね。思春期のどうしようもないエモーショナルがこれでもかと表れている金言だと思います。おそらくは主人公と同じような気持ちを抱いていただろう橘花。しかしこの二人ならきっとその先まで、いずれ訪れるかもしれない別れの恐怖すら乗り越えて幸せをつかみ取ってくれるだろうと思わせてくれる、そんな確かな意思を見せてくれたエンドでした。


 とヒロインはとても魅力的な子ばかりで田舎の夏をテーマにした今作はとても素晴らしいものだったのですが、いかんせん主人公が気持ち悪い。なよなよした性格はまだしも、テキストに中年のおじさんみたいな絵文字を使うのはやめてほしいです。アレを見るたびに切ない夏の日々から現実に引き戻されて萎えます。
 それと作中で度々使われていた「エロエロ」という表現。これもチープかつ滑稽な印象しか与えないのでやめてほしかった。こんな表現されてもまったく興奮しません。
 そして極めつけは主人公の常識のなさです。エッチシーンのことを言っているんじゃありません。日常シーンの話です。ギャグと称して公の場で荒唐無稽な言葉を発し、挙句それに周囲が引いていると「ノリ悪いなぁ……」などと心の中で相手を責める始末。完全に自分のことをお笑い芸人だと勘違いしているDQNの行動です。

 この主人公の気持ち悪ささえどうにかしてくれれば、個人的には満点でもよかったゲームなのですが、残念ながら-15点せざるを得ませんでした。
 それ以外は本当によかっただけに、ただただ残念だと言う他ありません。