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下総さんのヘンタイ・プリズンの長文感想

ユーザー
下総
ゲーム
ヘンタイ・プリズン
ブランド
Qruppo
得点
86
参照数
748

一言コメント

社会の鼻つまみ者の存在証明の物語――かと思えば……

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 今作をプレイするにあたって、どうしても前作のぬきたしと比べてしまうのは仕方のないこととして許してほしい。実際前作と比較すると今作の長短が浮き彫りになるはずですし。

・点数について

 まず僕はこの批評空間でぬきたし1に85点、2に89点を付けています。そして本作ヘンプリは86点。
 ぬきたし2が最高評価なのは誰もが認めてくれることでしょう。1から舞台とキャラをそのまま引き継いだことで愛着が沸いていたというのもありますし、なによりあの完成度です。
 そんなぬきたし2と比較して本作が劣っていたかと言われると、全くそんなことはありません。むしろシナリオの面白さだけでいったら冗長なところは削られ、強みはそのままに生かし、正統進化を遂げているように思います。ただ少し行き過ぎてしまったというか、物語の面白さ、エンタメに全振りした結果、僕の好みから少しずれてしまったんだと思います。ネームドモブを増やしたことでネタがワンパターン化し、またシリアスなシーンでもギャグを挟んできて(その量があまりに多すぎて)結果的に前作よりも話に締まりがなくなった気がしたんです。そう、このレベルになってくると畢竟好みの話でしかないのです。僕がぬきたし2より今作を2点ばかり低く採点したのはただそれだけが理由です。

・キャラについて

 くるっぽー作品は自然なストーリーの中で、なおかつ短時間でキャラクターを立たせるのを非常に得意としていると認識しています。生きたキャラを描くのが上手い。台詞や行動ばかりが高尚で上滑りした内実が伴っていない薄っぺらなキャラ、というのがいないんですね。本作も囚人にしろ看守にしろ、キャラクターが「そこにいた」んです。まさに柊一郎が重ねて言っていたように。現代の創作作品、殊にサブカルの文脈において、キャラクターは作品の命です。そこがしっかりしているくるっぽー作品が流行るのは必然といえるでしょう。

 ・囚人番号1310番――若しくは0085番、黒鐘伊栖未

 吃音症で、片目に『相手を不快にする呪い』を宿した(世界観設定資料集より)少女。
 正直メイン三人の中だと一番好みです。僕はノア→伊栖未→妙花の順番で攻略した(失敗だったかもしれない……)のですが、ノア√を終えてかなり気持ちが彼女に傾いていた自分を一瞬でその深い深い暗闇に引きずり込みました。まず相模恋さんそんな演技もできるんだ、というのが最初の感想でしたね。ドモりを通り越したガチの吃音症で少しイライラしつつもでもやっぱりかわいい、という絶妙なラインの演技には感嘆しました。
 そして生まれ落ちた時からの黒鐘の呪い、そして長らく夕顔看守長により更生不能房に入れられていたことによりすっかり自己肯定感が地に落ちていたのが彼女です。そんな伊栖未が柊一郎とのふれあいの中で繰り返していた「大切にされるの、嬉しいな……」「わたしを見つけてくれて、ありがとう」という言葉は胸に来ましたね。例えは悪いですが異世界モノの獣人奴隷みたいなもんです。かわいらしい。
 あの赤い目も、オッドアイという二次元ではありがちな特徴ながらちゃんと「不気味」で、でも慣れるとかわいいというのは浮丸つぼね先生すごいー、って感じです。
 個人的には個別√時の白髪結構気に入ってたんですが……あれ結局なんだったんでしょう。前作グランドヒロイン文乃も、同人時代の作品でもヒロインが白髪だったので、単に制作陣の好みなんですかね。
 ストーリーに関しても、個別中盤における更生不能房での(実質)二人きりの生活はとても良かったです。無人島漂着モノでも逃亡生活モノでもなんでも、主人公とヒロインが二人だけで過ごす時間が長いストーリーは大好きです。地獄の底、誰も近寄らぬ暗闇の中でも二人ならばそこは幸せな居場所であり、いつまでも生きていくことができる――そう思わせてくれるラストでした。

 ・囚人番号0721番――紅林ノア

 ドローン少女。天才シスコン少女。
 彼女は実質ソフりんと同時攻略みたいなもんですね。
 ストーリーだけならグランド含めて一番好きです。ちゃんと脱獄モノしてましたし。個別ラストのすべてが無事に終わったんだと思わせてくれるしみじみとした郷愁と清々しさの同居した船上のスチルがお気に入りです。かっこいいしかわいい。
 あとなんでも物のみ込んでいつでも吐き出せるって脱獄モノとして便利すぎじゃないですかね。現代の南方熊楠かな?

 ・囚人番号0019番――波多江妙花

 ヤーさんの組長。かっこいい姐さん。
 正直僕はあんまり好きになれなかったです。キャラとしてはとても魅力的に描けていたと思うし、彼女が味方の少ない監獄生活での精神的支柱になっていたのは間違いないんですが……僕の趣味嗜好と致命的なまでに噛み合わなかった。ヤクザ、スケバン、ギャル。この三種はもうなんかダメです。どれだけキャラが立ってて内面が素敵だろうとその属性だけでもう「ちょっと仲いい知り合い」以上の愛着が持てない……! エロゲに限らずどんな作品でも……例えば最近のアニメでいうと着せ恋の彼女なんかも最終回までついに好きになれなかったので、もうそういう性癖なんだと思います。仕方ないです。

 ・囚人番号0720番――湊柊一郎

 今作の主人公。ちょっと変わった二重人格。
 とても好きなタイプの主人公です。序盤(体験版範囲くらいまで)こそ何考えてるか分からない不気味さがありましたが、すべて終わってみるとこれほどストレートに「成長物語」を演じていた主人公もいないでしょう。
 合理的、効率的――自己の存在証明としての露出やゲーム制作に熱中する中で、目的のためなら手段を択ばない男(byノア)とまで言われた彼が、本当はただ「自分を理解してくれる存在が欲しかった」だけなのだと気づくための物語だったんですね。そのための35時間だった。
 そしてその思いは、最後の最後に紡がれる譲二の「自分の存在を認めてほしかった」というものとも繋がってきます。だからこそのラスト、だからこその常夏の島――青と藍が混ざり合う楽園なのでしょう。

 そう思えば、ヘンタイ・プリズンも実質ぬきたしの続編のようなものですね。ラストも淳之介達が成し遂げた真に自由な青藍島ありきの話なので。振り返ってみると、結局僕は青藍島という場所が好きだったんだなあという感想に落ち着きます。正直脱獄成功した本編だけで終わってたら85点でしたし。最後、HENTAI達の楽園で自由に人生を謳歌している柊一郎達を見れたからこその満足感というもの大いにありました。

 それ含めても、十二分に楽しませていただきました。二年に一本のペースでこのクオリティの作品を作り続けられるの凄すぎる。次作を心から楽しみにしています。