なんかいろいろ惜しい!
書いてある通り、色々惜しい!
まずキャラクター。これはめっちゃよかった。キャラ同士の軽快な掛け合いは間違いなくこの作品の魅力の一つです。まあ、個別√に入ってからはちょくちょくサブライターが書いたのか間延びすることもありましたが……。
そしてストーリー。戦国末期の北九州とかいう自称歴史好きでもそうそう詳しくは知らないだろう舞台をテーマにした本作ですが、もう一度言いますがなんというか全体的に惜しい。具体的な歴史や情勢についてはよく調べて書かれているんだなということが伝わってきて、そこは良かったのですが……まず、ところどころ展開が「陳腐」の一言で片づけられちゃうようなシーンが散見されるのが残念でした。もちろん、ギミックというかイニシャルライン云々の全貌――特に琥珀と千羽耶なんかは個別√やるまで見当もついてなかったので驚きの事実だったのですが、そういうことではなく。ストーリーの下地、舞台装置は上手く構築できていたのに、それを用いたストーリー展開が想像の域を出ていないんです。感動とは、自分の中の想像を超える出来事や情報を与えられたときに生まれるものだと考えていますが、今作はそれが足りなかった。まあそもそもそれを求めてしまうということは、とりもなおさず本作がかなりレベルの高い作品であると感じているということでもあるので、そこはご愛敬ということで。
それにしたって他の方も言っているようにスクリプトや演出の不備が多すぎたのは痛かった。システムが2018年にしては化石だとか、誤字脱字がひどいとかはいいんです。僕は割と年代関係なくプレイする雑食タイプなので、ボイスがついてなかろうとバックジャンプがなかろうと特に気になりません。ただ立ち絵どころか背景まで場面と違っていたり、なぜかキャラクターの台詞が前後していてそもそも会話として破綻している(琥珀→結桂→琥珀という会話シーンのはずが、琥珀→琥珀→結桂になってたり)のは物語そのものを楽しむ上での弊害となってしまい、これはまずい。どんなに感動的なシーンでもぶち壊しです。どうやら開発自体が相当難航していたらしく、それでこの結果らしいです。南無。
・共通√
今作は近年の恋愛ADVにしては珍しく選択肢でヒロインの好感度を稼いで真っ当に√へ分岐する好感度システムを採用している都合上、どこまで共通でここから個別と断言しづらい面もあるのですが、基本的には一度目の過去改変終了後、すなわち大友と筑紫の和議までと見ていいでしょう。
全体を通してみたとき、多分一番プレイしていて面白いのは共通√です。交互に展開されていく現代の和気藹々とした日常パートと丹念な下調べの上に書かれた緊張の戦国パートを、有能主人公がサクサク攻略していくのを眺めていた時が一番ストーリーとして面白かったし、分かりやすかった。過去改変による影響がどうこうとかあんまり考える必要なく、当時の情勢を詳しく知らずとも直観的に楽しめるシナリオはキャラクターの魅力が為せる技でしょうか。とにかく83点という評価のおおよそは共通√によるものです。
・姫崎雛緒/姫崎武緒√
いやー、うん。歴代最強巫女。アクが強い。強すぎる。そういう意味では間違いなく歴代最強。雛雪も武緒も精錬な巫女様って感じだったのになぜ雛緒だけ……いやちゃんと説明されてたけどさ。
いろんな意味でぶっ飛んだヒロインで、正直言うと僕は大大大好きです。武緒とのギャップもいいというのも勿論あるんですけど、それより単にあのナチュラルハイテンションに嵌っちゃったんですね。彼女はいわゆる美人で巨乳だけど中身がイロモノな「残念系」なのですが、雛緒の場合はそれがただのキャラ付けとしての変人の域を超越し、見事確立した自我として、すなわち姫崎雛緒としてしっかりと地に足の着いたキャラに昇格されているんですよ。属性を押し付けられただけの記号で終わっていないというか。僕はそういう、変人でも奇人でもその生を精一杯真っ当している元気な女の子に弱いのかもしれません。あと単純に黒髪ロングが好きなのもあります。
個別√については言いたいことは諸諸あります。過去改変によって性格の変わった雛緒をどうしても元に戻そうとするのは(その方がいいと本人から直々に頼まれるまでは)エゴなんじゃないかとか、そもそもその展開自体があまり盛り上がらないとか。ですが上でも言いましたが僕はアホの子の雛緒が好きなので、彼女が戻ってきた時は不覚にも安心感を覚えてしまったことは確かです。くっ……こんなダメダメな性格の先輩の存在で安心するなんて屈辱……! 的な。精神的なマゾなんですかね。知らんけど。
エッチシーンについては、ちゃんと平常時の雛緒/改変後の雛緒/武緒で三パターン用意してくれたので満足です。ただ、あのなぜか誰もツッコまないふざけた私服でのパイズリがなかったのは解せません。あんなペニス入れるためだけの穴が用意されてたのに……。
ググれば一発ですが、彼女の実家である御筥宮というのは、実在する筥崎宮のことですね。そっち系好きな人なら絶対知ってる筑前国一宮。聖地巡礼したい気持ちはありますが、関東住みからすると九州はちょっと遠い……。
あと、まず間違いなくどっかしらのシナリオが削られた弊害なんでしょうけど、途中で出てきた多岐津姫ではなさそうな神霊の正体はなんだったんですか。それだけ教えてください今は亡きpetitlinge様……
・悠樹晶穂/筑紫加弥√
妹。素っ気ない感じでもなく、べた惚れなのを隠そうとする感じでもない、気持ちいい距離感の兄妹でした。
この作品はキャラクター同士の掛け合いが目玉だと最初に言いましたが、特に悠樹兄妹の会話はもう一生聞いてたいくらいです。互いへの信頼が溢れた言葉の送り合いは至福です。ああこの二人はこれまでもこうして支え合って暮らしてきたんだなという雰囲気が一発で伝わってきました。
そんな彼女は個別に入ると意外にも「記憶喪失系」ヒロインでした。どんどん主人公との思い出忘れていって悲しいやつ。それだけならただの泣きゲ―崩れなのですが、本作はその理由を戦国の姫と絡めてきたのが素晴らしかった。恋焦がれた想い人への大きすぎる気持ちが、来世の魂にまで影響を及ぼす。作中でも「ほとんど呪いみたいなもの」と言われていましたが、正に執念とも言えるその想いの強さが、ちょっぴりヤンデレチックでとても刺さりました。時を超えた想い、というのはタイムスリップモノの王道でもあり、今作「ロスト・エコーズ」もタイトルからしてそれを意識して執筆したことは明らかなのですが、加弥は男女の恋愛という観点から最もストレートにそれを描写してくれたように思います。ぶっちゃけると晶穂より加弥の方が外見も性格も好みだったので、その補正もありますね。本作唯一のシーン付バッドエンド担当でもありますし。あの結末は里久はひたすら可哀想ではあるのですが、その分だけ加弥の献身が光るであろうその後が見たくもあり。悩ましいところです。
お気に入りのスチルは、スケスケドスケベネグリジェで椅子に座って被写体になるやつ。ふとももえっちすぎです。
・神代琥珀/神代千羽耶√
彼女は……属性としてはただの同級生、なんでしょうけど。朝起しに行ったり妹から恋の成就を願われるような関係性は、むしろ幼馴染に近いですよね。序盤、何度か結佳と琥珀のどっちが幼馴染なのか混乱したのは多分そのせい。
考古学マニアという世にも珍しい属性持ちの琥珀ですが、その設定が騎乗位の際の足腰の強さの理由付けに使われた時は舌を巻きました。なんだそれ変化球すぎるぞ……。あとあのスチルエロすぎ。
本筋に関わる仕掛けとしては、彼女らの……入れ替わり? というか転送は、一番の驚きポイントでしょう。ちょっと複雑でよく呑み込めてないかもしれませんが、過去改変後の千羽耶はどこから来たことになるんでしょうか。卯未が干渉しない、すなわち過去改変が行われないイニシャルライン――一週目では、
千羽耶は普通に十歳かそこらで病で亡くなり、彼女の願いを叶えるために卯未が用意した竜珠を現代の琥珀が二年生の二月頃にたまたま発掘して過去へ転送
でいいと思います。それで
琥珀が死んだはずの千羽耶として加弥姫に仕え、闇千代に殺されることで祟り落ちの不幸が始まってしまい、過去改変のために卯未――当時は和加霞――が準備を始める
のが二週目、物語開始時点たるブランチA。ここまではいいとして、これについての根本的解決が図られた結佳と琥珀√は別として、他の√では過去に飛ばされた琥珀はどういう扱いになるんでしょうか。改変後の世界は間違いなく琥珀が存在する世界を終着点として収束するはずなので、そうするとつじつまが合わなくなる、ような? 最悪の場合、雛緒・晶穂・卯未√では物語エンド後に何らかの作用でこっそり琥珀だけ過去に飛ばされるんじゃないかと考えてしまうのは僕の理解が足りていないのでしょうか。だとしたらいいんですが。
肝心の琥珀というキャラについては、なんだか一番つかみどころがないな、というのが正直な感想です。というのも、彼女は何を考えているのかが一番分からないんですよ。主人公が好き、だからアタックする。考古学大好きで土堀りしてる。――この二つはあくまで彼女という人間の表層の要素でしかなく、琥珀自身がどういう人間なのかが不明瞭です。彼女がその本質を最も露わにしているのは、むしろ晶穂√でしょうね。近親相姦の噂が流れた時、普通なら仲間内みんなで応援するところを彼女だけがシビアな視点を以て認めませんでした。それは当然二人の本当の幸せを思ってのことです。幸せの形を一つに限定するな――というようなことを言っていましたが、あれこそが琥珀の琥珀らしさが垣間見えた瞬間なのではないでしょうか。僕はそう思います。
ところで和装好きな自分としては、普段の琥珀より授乳手コキプレイ時の千羽耶コスプレスチルが一番滾りました。髪型にしてもずっとロングこそが至高だと考えていましたが、サイドテールもいいもんですね。
・立花結佳/立花闇千代
彼女自身はなんなら一番没個性というか……他のヒロインのように目立った強みがない気がします。毎日剣の鍛錬してる、妄想癖がすごい。強いて挙げるとすればこの二つでしょうか。
ルートロックされている実質的なtrue√ということもあり、過去改変の流れも他ヒロインの場合とは少々違っていました。中だるみもあったのは否めませんし、結局卯未が消えたままなのが不満点ではありますが、だからこそのロスト・エコーズ編だと思えばまあ……。
青姦シーンがシーン鑑賞にないのはなして。
・竜泉 卯実√
グランドヒロイン……と思っていいのか。それとも本編終了後のおまけヒロインなのか。内容的にどっちともとれる。
キャラクターとしては好きです。子孫のためにその身を捧げた人一倍頑張り屋な、のじゃロリ女神様。嫌いになる要素がありません。えっちシーンも文句なしです。
けどお話自体は結構投げやりというか、雑というか。結佳√で本筋やることはやり切ったからあとは好き放題しよーう、という姿勢は伝わってきました。それはいいと思います。里久が神になったり、実質的なハーレムエンドだったりするウィニングランの雰囲気は、正にお祭りワッショイ感あっていいですし。ただそのせいで感動とか心動かされる感じじゃなかったですね。まあその楽しみ方はお門違いといえばそれまでですが。全体としては悪くありませんでした。少なくとも蛇足とまでは思いませんでしたね。
満を持してルートロックされたと思ったらこの不遇さは、どこか「ゆのはな」のゆのは√を思い出しました。あの子もロリ女神だし。
・悠樹里久
主人公です。この人、地味にパーフェクト系主人公ですよね。行動力ある、頭もキレる、周囲への気遣い完璧で友人へのリスペクトも忘れない。自分はいろんな人たちと支え合って生きているんだ――という、本来なら物語の主人公が長い長いストーリーを通して学ぶべきはずのことを最初から知っている子です。唯一人並なのは運動能力くらいでしょうが、それも作中で足を引っ張るような描写は見受けられず。エロゲは主人公が最も重要だと常々言っていますが、本作はその点は120点満点でクリアしてますね。
総評してやはり惜しいのはそもそもの開発力不足と、あとサブヒロイン! 花蓮です! この際十時ならどっちでもいいですが、全裸の立ち絵まで用意したんだったら√とは言わずとも一つくらいシーンあってもいいじゃないですか! 最初は「琥珀お姉さま好き好き大好きそんなお姉さまにちょっかい出す主人公死ね死ね系」百合ヒロインかと思ったら、割と主人公との仲も良好っぽいし! 結佳√の序盤でなんかちょっといい雰囲気なってたのに! なんであのフラグ流れちゃったんだ……ブランドはもう解散してて望みがゼロなんだよな……俺は悔しいよ……!