特に期待せずに軽い萌えゲーのつもりでやったら、これは思いの外……
まず、作品に対して全体の完成度を高く求める人にはこの点数は納得いかないでしょう。けっこう勢い任せで細部が雑だし、もっと面白くできそうな要素を取りこぼしてる(唐木田とか)のも事実ですからね。全体を通してみた時は、KOTYに選ばれちゃうのも分かる酷さ。
それでも個人的には、泣きはしなかったが、とても惜しいところまではいった。
この作品は共通からTRUEまで一貫して慧がヒロイン。こんなにも点数が高くなったのは、この部分が大きく影響している気がする。
グランドであるパターンに、ヒロイン全員と恋人未満夫婦以上の絆を結ぶ実質的なハーレムエンドというものがありますが、もし本作がこの形を取っていたらきっとここまで心に響く作品になることはなかったと思う。
とにかく大きいのは、西園寺慧というヒロインの存在だ。
ストーリーだけとってみれば、確かに展開に意外性はあまりないし、「そこそこ」の評価で止まってしまうのも分かる。だが名作の基準とは「あっと驚く奇想天外で壮大なストーリー」なのか? 「これまで誰もが思いつかなかった斬新な展開」なのか? 違うだろう。そんなんじゃなく、ただキャラクターに愛着を持ち、彼らに感情移入し、彼らの生きる世界を好きになれたかどうか。そこにすべてはかかっていると僕は考えています。今作は、彼女「西園寺慧」と主人公「浅乃雪隆」という二人がとても魅力的だったという一点のみで評価しました。減点方式だったらもっと点数は下がるのでしょうが、ノリと勢いで与えてくる大きな衝撃を加点方式で評価するとこうなる。
てかこの作品を減点方式で評価したらそれはそれは悲惨なことになるよ。慧以外の個別は鬱BAD確定だわ結局姉の憂はホントにいない子だったわ、唐木田に救いはなかったわで……個別とキャラクターの設定がすべてはTRUE√『楽園の騎士編』の慧のために用意されたものなので、これ以外の個別や他のキャラにまで手を伸ばそうとすると地獄を見る。良し悪しです。
それはそれとして、
円卓闘騎の真実発覚→慧の説得で立ち直る→イチャイチャ
強制オートでヴィヴィアンおやすみ→実は慧はホントに幼馴染でした
この二つの流れはなぜか異様に感動してしまった。普段はこんな安い展開で心動かされるかバーカとひねくれた心で構えているはずなのに……やっぱりヒロインの力が大きいんでしょう。どんなにありきたりでも、どれだけ使いまわされたシナリオでも、キャラがちゃんと生きていて、彼らがしっかりと魅力的ならばそれだけで素晴らしい物語足りえるのですね。
主人公もこの手の物語にしては頭もよく、運動もそこそこできて、目的のためなら卑怯な手段も厭わない冷静な男で好感が持てました。よくいるちょっと想定外の事が起こったら途端パニックになって頼りなくなる自称知略系(笑)ではなく、しっかりと頭を働かせ機転を利かせて仲間を勝利へと導く理想の騎士でしたね。
まあ、戦闘が結構相手の情けに助けられてる感は否めませんでしたが……
↓以下、慧の魅力を語るだけのスペース
金髪碧眼の幼馴染。雪の原初の後悔。
真面目で強情で、口を開けばすぐ雪と喧嘩を始める狂犬みたいなヒロイン。でもその実誰よりも優しく不器用な仲間想いのヒロインです。……あれなんかここだけだとすごいありきたりなツンデレヒロインだ。おかしいな。
というわけで、単なる属性として良かったというだけではなく、今作は全体を通しての慧の描き方も良かったのかなと。序盤の八角との敗戦から始まって、明日奈√で彼女の苦悩を気づいてあげられなかったことや、円卓闘騎の真実を知った後の主人公への激励と、彼女の激情は常に仲間のために呼び起こされていました。慧は人のために喜び、悲しみ、怒れる人なのです。
もちろん今作はエロゲで、しかも学園モノですから。雪との恋愛模様もとても魅力的に描写されています。彼女の強気な性格のために分かりづらいですが、いわゆる「めんどくさい女」なんですよね、慧。本人絶対自覚ないけど。でもただめんどくさいだけじゃない。ちゃんと雪のことが大好きで、雪のことを想うからこそ高ぶった感情が面倒な形で発露されている、というだけで。それは雪に好き避け(とも違うのかな。文化祭のこともあったし)をされていた彼女の「わたしにダメなところがあったらちゃんと直すから」という献身的な言葉からも分かることです。一見すると彼女のようなツンデレタイプのヒロインは意地でも言わなそうな台詞をなんのプライドもなく言えてしまう素直さが、もしかすると彼女の最大の魅力なのかもしれません。
そうして晴れて恋人関係になった慧の浮かれた笑顔がなんとも愛おしい。付き合い出したらとことん雪を追い求めるかわいさと、それでも大事なところでは心配や苦労を掛けまいと喧嘩腰になってしまう不器用な優しさが沁みる。この二つの絶妙なバランスの上に成り立っているのが彼女であり、その姿勢を最後まで崩さず書き切ってくれたライターには感謝してもしきれません。
そしてえっちシーンの甘えた口調は反則だと思います。あんな安易なギャップ萌えにまんまと引っかかる自分が悔しくて仕方ないです。
あと慧、スチルがいちいちかわいい。というかそもそも慧がかわいい。なんですかあの前髪の編み込みは。あのチャームポイントがしっかりと女の子らしさを主張していて本当に卑怯だ。やめてほしい。
いやーそれにしてもラストの「実はホントに過去に会ってました」は卑怯です。予想はしてたけどそれでも、それまでのバトルの感慨とか結末への想いとか全部持ってかれました。あれズルい。「あーみんな幼馴染じゃなかったんだーでもまー慧の言うように二人が恋人なのは変わらないからいっかーでもなーやっぱり過去のつながりみたいなのは欲しかったなー」とか思ってるタイミングで、正にその願いを叶えてくれる事実をポンと投げ込まれた、これはもうどうしようもない。最後の最後で名実ともに西園寺慧という存在が雪のメインヒロインとなり、物語はthe end 高得点つけるしかないでしょう。
特別なことなんかなくても、大切な存在と過ごした騎士の日々が大きな感動へと繋がった、そんな一作でした。
(欲を言うならえっちシーン追加パッチは、雛乃守じゃなくて衣弦がよかったなぁ……)