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ノーマルさんさんのここから夏のイノセンス!の長文感想

ユーザー
ノーマルさん
ゲーム
ここから夏のイノセンス!
ブランド
Clochette
得点
88
参照数
948

一言コメント

古き良き……から連想される優しさの上澄みを掬い上げたような舞台

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず「未来人がやってきた!」みたいな設定は当初チープに思えたけれども、
この作品はちゃんとこの作品なりの方向性で活用していておもしろい。

未来は効率・実力偏重のカツカツスケジュール。評価で後の去就が決まる。
エンゲージなる人工出産が常識であり、同性であること、近親であることも関係ない。
人類の性欲は去勢済み。女性は懐妊する必要がない。両親はおらず育て親が一人のみ。
そんな中で主人公は仲のいい両親が愛し合って産まれた。そのため他の未来人と感性を共有できず孤立。

 未来に関する設定は上記でほぼ事足りる。
しかし主人公が舞台となる田舎で生き生きしたり、ヒロインと仲良くなる下敷きとして働いている。

 ただ、この作品は恐ろしいまでのぬるま湯展開で時代間のギャップみたいなのは作中で不和を誘う問題にならない。
あまりにハートフルで寒いシーンもあったり、都合がよすぎて苦境に立ち向かいまでもなく既にうまくいっている。
未来人は厳しいみたいなイメージを植え付けながら、受け入れ先に駐留する責任者はもとより未来ヒロイン、
さらにテコ入れと言わんばかりに共通シナリオ終了間際に現れる新キャラと全員が主人公の味方スタンスという有り様。
 この点、気にならなければ問題ないし、気になってもかなり楽しめる部類の良作だろうと思う。
心情描写も説得力があってレベル高いと思う。訳のわからん理論展開はしていない。
事の発端となった、顔の見えない未来向こうのお偉いさんの思惑は掘り下げられないが、テコ入れ新キャラちゃんなども通じて存在は度々意識する。

主人公 由嗣
 評価オールF、未来では「おちこぼれ」のレッテルを貼られている。
未来社会に居場所を見出せず、更に性欲がある主人公は過去の文化に対し興味を抱いている。
その折、ヒロインであるエリート姉妹がゲートから過去に向かう。
主人公は役目を終え機能を切ってある筈のゲートに近づき……100年前のとある山村へと姉妹を追って飛ばされる。
過去の日本に来て水を得た魚のように本領を発揮しだす。
 良識的で人当たりも察しもいい主人公。一生懸命誠実にあろうとして口をつくが、客観的にはセクハラな発言も。
性を否定した社会にいたため女性に対しての距離は探り探り。
だが少なくとも変に臆病にはなっていない。男性としての使命感に目覚めたり、むしろチャンスを感じている。
 彼のおかげで本作は、全エロゲ『「性欲」という語を女の子が口にした回数No.1決定戦』の王座を勝ち取ったのではなかろうか。

いろは
 水場で蛍の群れと戯れていた最中に出会う、作中の初出キャラ。主人公をお兄さんと呼ぶロリ。どうやら3つ下のようだ。
彼女の苗字でもある初姫として村ではその形成にまで遡る特別な血筋の娘。
山で迷う若者が蛍に誘われて彼女と出会った、これが村のある共通認識に触れ主人公のことは初姫いろはが待遇することに。
後述のアリカと比べて幼さを伴ったピュアリー加減。恋愛対象にするには早い気がする……。
 人格面においては純白すぎて取り立てて語ることが少ない。
遭難していた主人公を喜んで家に泊める、祖母も雰囲気に反して何かと寛容かつ好意的、
性知識もなくはないがそれに対して反応できるほど意識していない、なんでも嬉しそう、この子に関してはそんなところか。
主人公に性欲があることをヒロイン’s間で公にされた帰宅後に、なんらか意識してしまったのか由嗣へダイブする。

アリカ
 プロムナードなる卒業論文をまとめるため妹とともに山村に訪れた姉。巨乳。
最初の内はクラスメイトでもあった主人公を評価通りにしか見ていない。
主人公も持っている多目的携帯機器、を操作しての重力制御をやってのける(要資格技能)。
そのデバイスに頼った結果、ネットワークの遮断時期が予告なく繰り上がったことで山中主人公や妹とともに遭難する。
自身の行動によって妹とはぐれてしまい落ち込むも、「未来とは環境が違う」と男性的使命感に燃え自身を頼るよう促す主人公の言を素直に受け止める気持ちになる。
そうして過去に来てからの一連の流れによりすぐ、デレとは決定的に異なる雰囲気の信頼を主人公に寄せるようになる。
 適合する努力をし合わない認識は改める、プライドには拘泥しない、自分より他人への気遣い、となかなか出来たエリート。過去社会無知なのが玉に瑕。
未来の効率世界で生きてきた観念から、人の手を借りることではなく相手に時間を取らせ迷惑になることを嫌っていた。
元々未来にいた頃から主人公からも憧れを持たれていたが、そういった人となりを知ってよりその好意が強まる。
歯の浮くような謝辞もこの人が言うといたく自然。
 またドSキャラとはまた違った意味合いで「ありがとうございます!ありがとうございます!」な人。
性に対し無知でも無自覚でもないが無通念。「性欲」「陰茎」「勃起」「挿入」「犯す」など若干恥らいは覗かせつつも事実を事実として語るよう口にする。
妹とのエンゲージを考えている。

ユノ
 姉が主人公に近付いていくのを警戒し威嚇する妹枠……ではない。イタズラっぽい表情がチャームポイント。
主人公に性欲があることをあっさり白状させるが、むしろそれによって姉よりも更に早い段階で意気投合し打ち解ける。
と言うのもユノは本人曰く「規格外」で、性欲がある、過去に関心がある、といった主人公と共通の項目を持つため。あれ? 未来人が姉しかいないな。
主人公や先導役のクラレッタさんと同様、古き良き在り方を愛している。実は後のテコ入れ未来人までそうだ。だから姉もそうなる。
 出会ってすぐの頃に山村の実物を興味深げに観察したりと、スケジュールを気にしていた姉との対比で実学的に映るのも上述した背景による性格。
未来人らしからぬ効率を脇に置いた行動で主人公を翻弄し、楽しそうに「由嗣由嗣」って寄って来るのがヤバかわいい。小悪魔系悪友ポジ?
彼女が旧スク水を喜んで買ってきた時の主人公のリアクションが「ユノだなぁ……ユノのチョイスだなぁ……確かにユノならそれ買うよなぁ」。
姉の真っ直ぐで純粋な人格に尊敬混じりの好感を抱いている。
姉とのエンゲージに乗り気ではない。

寿
 舞台となる田舎の長の娘。爆乳。裁縫が得意で生真面目。密かに小説も趣味で書いている。
しばしば主人公によって大和撫子と表現されるが少なくとも柳のようにたおやかな女性像とは違う。
性に対して忌避意識があり、また村での暮らしに閉塞感らしきものを感じている。そのため未来の在り方を羨ましく思う。
わからなくはないんだが……主人公視点でいると未来生活に憧れる価値観に対し共感するのは無理な話だし、
しかも他意はないにしても事あるごとに溜め息を挟んでくるもんだからイチイチ引っかかってヘイトが増していった。
落ち着いていて上品で、というにはだいぶ態度悪いと感じる。
色っぽいというほど蟲惑的でも……あぁ、あのしつこい溜め息は物憂げな感じを出したかったのか。
最初は真剣に心臓病とかの伏線かと。
 共通や他ヒロイン√では不愉快に思わされることも多かったが、当人の√では突入少しして趣が変わってくる。

ヒロインに対する好感がキッパリと分かれた。
人の出来たエリートのアリカと、感覚を共有できるユノの未来組。
恋愛対象にするには言動が幼いいろはと、イチイチ溜め息を吐いてくる寿の現代組。
主人公は一昔前の現代に居心地よさを感じてるのに、どうしてこうなった。
攻略可能サブヒロインに二人いるが、テコ入れ娘はハブられた。

攻略順√感想

いろは√
 そこそこに読み飛ばした。途中で該当ヒロインの音声を切った。無垢ロリに愛を求められるのツラい。
当√のみを扱うなら、蛍の里初姫の娘というのは単に主人公を意識するキッカケでしかなく、
要点は彼女は両親が死んでどうなったか?村は未来にまで残せるのか?という話の方。
いろはは天真爛漫なだけでなく物凄く周りの人のことを気遣えるいい子、というのがわかる。
しかし如何せん少女過ぎて湧かない。
あと最後の「実はちょっと判官贔屓だったりー」みたいなくだりは……要るか?
 正直、人格・シナリオ両面のいい部分を合体させて初姫寿になれば……。
大人びて陰りのある様子と、人を意識して振舞う優しさ。未来(外)への憧れと、周りに守られてしまう過去の出来事。
うーん、どうだろう。
なお切った音声は後で寿√中にONさせていただきました。

寿√
 未来の人なら性欲ないから大丈夫!→性欲はあっても由嗣さんなら……大丈夫?→由嗣さんを想うと……、という共通から続く流れ。段階的な引き下げがすごい。
未来の生活に想いを馳せて小説を書いており、主人公から未来についての聴取をする。
そして性欲がなく効率が重視される理想に思えた社会も良いことばかりではないのに気付く。
この辺りから感性に隔たりがあったのが緩和されて、寿に付き合うのが楽になった。
寿が主人公の感覚と噛み違って未来を見ていたのもアリカとユノ、そして主人公が未来でもとりわけ受け止めやすい人物だったからかなぁとか。
両者考え方が根本的に真面目なので、恋愛の展開していく雰囲気がお見合い。好青年と良家の娘さんの構図。
が、えっち解禁すると一気にはっちゃけてくる。そういうキャラだというのは度々表現されていたし、そもそも体がエロい。
 テコ入れちゃんは最後の最後になるまで結構な放置プレイを食らう。気にしてないと忘れてるレベル。
主人公の談では初登場の一回から半月の間顔も合わせていない。見張られていた、とは思われるが。
ラストシーンの寿兄が悪いことは言ってないのにキモイ。顔のせいかな。
人前で吐く溜め息ってつくづく良くないなぁと考えさせられたヒロインだった。おっぱおボインだってダメなものはダメである。
最後の明るくなった様子じゃきっと、吐こうとして吐かなきゃ溜め息も出ないだろうな。

アリカ√
 未来人サイドのヒロイン力高すぎて現代人側が厳しい。
√分岐後では最も早くテコ入れちゃんに会えるシナリオ。アリカを通じ彼女の人柄の”程”についてより深く窺い知れる一幕。おもろい。
今回はほとんど関わらないから出しておいたのかなと思ったけど、意外にも後に数度首を突っ込んでくる。あまつさえ水着。
アリカは最も環境の変化に四苦八苦する立場の人間だろうに、みるみる感化されてしまい悩みの描写は少ない。
生来の物分りのよさと旧時代を布教しようとする自分以外全員の未来人の魔手によって、葛藤のワビサビを感じる間もなく染まっていた。
 何にしろその辺がクリアされてるので後は……彼女も大体性欲の話だ。そして知識の有無、性への肯定否定と、見事に寿とは逆の位置。
性知識がないなりに真剣に考えてしまい発想はお堅いのに言葉のチョイスが明け透け、というアリカならではの切り口で攻めてくる。
主人公(ムッツリ)に女性の性徴段階について教えを請う→「そうか!女性の機能は全て赤ちゃんを産むためにあるのね!」
「彼の性欲を処理してあげた後、股間が濡れてて…」→寿性欲先生を強襲し性講義を受ける→「これも、全ては彼の子を産みたいからなのね…」
酷い。しかもこの時点では恋人関係ではない。
ただここで「未来でのエンゲージは評価次第。いま子どもを産みたいのは私が彼を評価していて、彼も私を評価してくれているから。結局は能力評価なのが悲しい」とくる。
いつも通りの間違ってはいないが微妙に勘違いのある理屈なのだが、なんともいじらしい心情である。
 好みとは違ったけれど、その前提と人格の妙な噛み合いからなかなかない個性を発揮してくれるおもしろいヒロインだった。
なんかユノずっこいよなぁ。まず話の取っ掛かりを生むために過去へ連れてくるのはいいけど、完全にアリカ本人にエンゲージを切らせようとしてないか?
しかし人類の半分を確実に襲う生理について何も教えないというのは、一体どこ未来の道徳倫理がさせたんだよ。
 付き合い始め段階にも関わらず心は妻。エリート彼女がずっと自分を「あなた」呼びですよ旦那さん!一過性でなく中盤からずっと。
しかも陰に日向に夫を立てるあまあまスタンス。これはおいしい。
それもあってか将来の選択と土着の祭りとを絡めた終盤の流れは魅力。まだユノが残っているもののシナリオレベルは随一ではあるまいか。
川辺のえっちシーンはテコ入れちゃんに覗かれてないですかね。

ユノ√
 一番好意を隠さないヒロイン。なにせ√突入時からいきなり交際を望まれる。
そもそも同時代人でありながらマイノリティな価値観の共有者、と相性が良すぎた。これが幼馴染設定なら却って関係が発展しないレベル。
今回は、なんとなく内心に植え付けられていた「初姫の原点は未来人ではないか」説が打ち上げられ、これを動かして意外な方向にうまく話を回して盛り上げてくる。
流石にアリカのズルイ出来上がり夫婦シナリオには勝てないかなと思ったけど、あれとはまた違うベクトルで比肩する。純粋に話の流れがいい。ていうか贔屓目抜きで上回ってね?
此度は普段は飄々としたユノが槍玉に挙げられる立場となるので、これまた珍しく弱音を吐いたり焦ったりからかわれてツッコミに回ったりと色んな表情が見れる。
更にアリカが「セクロス=命を育む素晴らしい営み」というある意味直結な発想を有しているので妹にコレを急かしてくる。楽しい。
これについての主人公の反応にして (Oh...God...) である。
 魂が清廉すぎる…いっそアリカこそが未来という環境が生み出した変異種だなぁ……。当√ではキテレツぶりが跳ね上がっている気が。
恋人となるユノにしても茶目っ気たっぷりだったり興味津々だったり、そしてデレッデレ、ぐぅかわ。でも俺スク水に興味ないんですわ…。
恋愛って結局なにすればいいのかね?みたいな話をしてたりと未来馬鹿はあるが常時立派なバカップル。
「ここから夏のイノセンス!」という作品としては、最も踏み込んだ内容になっていると感じる。

SUB STORY
いろは√と寿√の間に田舎長女、アリカ√とユノ√の間にクラレッタさんを挟んだ。
田舎長女は、いい子なのはわかるけど最初からミーハーモードなのがねぇ。寿兄とあんま変わらん。そしてやかましい。
クラレッタさんはチョロレッタさんだった。本編でそれらしい素振りがないので取って付け感。脇シナリオだから仕方ないか。