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ティムさんのコンチェルトノートの長文感想

ユーザー
ティム
ゲーム
コンチェルトノート
ブランド
あっぷりけ
得点
85
参照数
1012

一言コメント

これはエロゲにありがちなことなのだけれど

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品に足りないと、まぁ、個人的にだけれど、思ったものは大きく2つ。

1つはルートによって質、かけた努力、ヒロインの扱いに明らかに差が出すぎていること。
発売当時は「莉都ゲー」などと呼ばれ、
「まぁ、仕方ないよね」といったような風潮ができていた。
莉都ルートの出来は良かったということも、それに拍車をかけていたのは否めまい。

これは私論だが、やはりヴィジュアルノベルという形式を取る上で、
お話毎にルートを振り分けるというのは、とても大切な要素だと思う。
それは、ほぼこの媒体にしかできないことだから。
そして、このマルチエンディングの魅力をより引き出すには、
やはり、どのルートもある程度納得のいく出来にする必要があると思う。

残念ながら、この作品の出来を見ると、
「最初から莉都ルートだけに力を入れて、他ルートは簡単な保管として適当に作ればいい」
と製作者が考えていたように思えてしまう。

魅力的なキャラは揃っていたと思えるだけに、それではもったいないだろう。


これもエロゲ(特に最近のかな)にありがちなことだとは思うけれど、
それよりも私が気になったのはもう1つの方。

家族に対する描写が軽薄すぎる。

この感想は、実は書き直したものなのだけれど、
書き直す前から、私はこの作品を「絆のお話」だと思っていた。
事実、公式ホームページでもそう公言されていた筈だ。

ただ、この作品からは「家族の絆」の話が著しく欠落している。
私には、これがこの作品最大の欠陥だと思える。

主人公の母は物心つく前に死んでいて、そして父は目の前で首吊り自殺をした。
父が死んだことには、他でもない、幼馴染の莉都も少なからず関係している。

このことが作中で語られたのは、終盤のたった一回。
しかもごく僅かな文章でさらりと流すように書かれているだけだ。


似たようなことが、他のエロゲでも多々ある。
特に学園モノの作品だ。

例えば、主人公は学生の一人暮しなのだが、家族のことに一切触れなかったりする。
「両親は海外に赴任中で」なんていう文章があるのはまだ親切な方。

個人的に一番変だな、と思ってしまうのは、
両親が死んでいて且つそれに対する主人公の心の描写が全然ないパターンだ。

幼少期なんかに親が片方でも欠ければ、それは心の片隅に残り続ける筈だ。
両方なら尚更。
それを「そんなこともあったなぁ」と、適当な心理描写で流されると、
少なくとも私は強い違和感を感じてしまう。

実際、このサイトで平均70点を下回るような、人によっては駄作の烙印を押す作品には、
このことが見受けられるように思える。

「学園モノ」において、家族というのは、もしかしたら邪魔な要素なのかもしれない。
しかし、「人間モノ」を描く上で、家族とはどうしても外せない要素なんじゃないだろうか。

子供の頃。
家に帰ってくる。
「ただいま」と言いながらドアを開ける。
父親が机の上でてるてる坊主になっていた。

そんなことを一文でさらりと流してしまう。
流石にシナリオに対する意識が低いんじゃないだろうかと思ってしまう。


こんなにくどくどと書き綴ったのも、一重にもったいないと思ったからだ。
主人公と似たような境遇の星華、幼少期から交流があった小夜璃。
この二人のルートで、家族の絆の話を書くことが出来たんじゃないだろうか、と思うのだ。
これで上に挙げた要素は少なからず改善(あくまで自分にとってだが)することができる。


この作品の莉都ルート終盤のシナリオと描写は筆舌に尽くす程凄まじい。
今まで張ってきた伏線を怒涛の展開と大胆なタッチで拾っていく、とでも言えばいいのだろうか。
私の85点の要素の、大半がこの部分によるものだといっても過言じゃない。


それだけに、その大胆さが少しでも全体に発揮されていれば、とも思えてしまうのだが。


もしやろうかどうか悩んでいる人がいるなら、是非一度はやってみることを勧める。
貶すだけ貶してもこの作品には思わず愛してしまうものがある。