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タニシさんのNever7 -the end of infinity-の長文感想

ユーザー
タニシ
ゲーム
Never7 -the end of infinity-
ブランド
KID
得点
90
参照数
1541

一言コメント

怖がらないで。この世界の成り立ちにちょっとだけ詳しくなれます

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

謎が明かされるのは森野いづみルートで
そこまでは壮大な前フリと言えます。

いずみは主人公の通う大学で心理学を教える教授
であると同時に主人公のゼミの教授でもありました。
実はこの合宿はゼミ合宿で、とある目的のために行われたものでした。

”キュレイシンドローム”
キュレイシンドロームには3つの特徴があります。
 1つ目は最初に嘘をついた人が嘘だとは思わなくなること
 2つ目は嘘が周りにも伝搬すること
 3つ目は嘘が真実になること
簡単に言えばシュレーディンガーの猫をうまく言い換えたような表現です。

一つ例を出すと
  あなたは授業中、教師に「リンゴの色は何色ですか?」、と質問されました。
  あなたは「赤」と答えますが、教師は「リンゴの色は青ではないですか?」と
  あなたに再び問いかけます。
  教師も当然リンゴは赤色であると思っていたのですが
  あなたをからかおうと思い、リンゴは青であることを
  いかにもそれっぽく説明し続けました。
  そのうち、なんと教師は本当にリンゴは青だと思い込んでしまっていたのです。
  すると、最初は半信半疑だったクラスのみんなも
  「リンゴって青なのかも」という声が続々と上がり始めます。
  そして、クラスの中でリンゴは赤だと主張するのは、ついにあなただけになりました。
  あなたもリンゴは青だと認めます。
  その瞬間確率は収束し「リンゴは青色」という事実が出来上がってしまいました。

上の例で説明すると、キュレイシンドロームの
 第一の特徴が、リンゴは青だと最初に言い出した教師。
 第二の特徴が、リンゴは青だと信じたあなたを除くクラスのみんな。
 題三の特徴が、リンゴは青だと信じたあなたを含むクラスのみんな。
大事なのはクラスの教室という閉鎖空間であると仮定すること。
これがシュレ猫の、周りから中が見えない入れ物に該当しています。
最初はリンゴは青という事実、毒ガスの出る確率はごくごく小さな確率で
猫は100%に近い確率で生きていたのかもしれませんが
確率は次第に膨張し、あなたさえ信じれば100%リンゴは青という状態になり
最終的にはリンゴは青色という事実ができ
毒ガスは噴出し箱を開けた時、猫は死んでしまっていました。

つまり、この閉鎖空間を教室じゃなくて全世界まで拡張してしまったのが
現在成り立っている全ての物事だということです。
どんなことも最初に誰かが言い出し、それが周りに伝搬し
みんながそれを信じているからこそ今の真実になっています。
しかし、中には信じない人もいます。
アインシュタインの相対性理論を正しいと信じている人が大半な中で
ニュートリノが光よりも速く移動するという実験結果が出て
相対性理論は正しくない、つまりタイムマシンは作れる
などと反論する人もいました。
だから、確率は100%でなくても構いません。
つまるところ、この世は多数決ゲームです。
どんなに理不尽な嘘でも多くの人が信じればそれが真実になってしまう。
すごく歪曲した表現をしてしまうと、キュレイシンドロームというのはそういうものです。

このゲームのすごいところは
キュレイシンドロームという現象を考えついたところもそうですが
その現象をゲームという媒体で表現したことにあります。
その代表的とも言えるのが選択肢です。
神である主人公がご飯のおかずを言い当てる場面がありました。
おかずは、主人公がカレーと言えばカレーに、シチューと言えばシチューになります。
これはセーブという人間の記憶領域にも相当する機能を用い
選択肢というゲーム媒体が得意とする要素をうまく使った画期的なアイデアでした。

しかし、キュレイシンドロームという現象は単なるシュレ猫の言い換えにはとどまりません。
主人公がカレーと言えばカレーになり、地震が来ると言えば地震が来て
エンストすると言えばエンストします
その様子を見たいづみは実験の成功を確信します。
神社が無くなったけど神社は2つあったんだよーとか
くるみの背中の傷がなくなってた→ざんねん!遥ちゃんでしたー
などありましたが、それは都合の良いように物語が改ざんされただけであって
それは実際に起こっていたのだと思います。

このゲームはアンチタイムスリップです。
このゲームではループはしているがタイムスリップはしていません。
では、なぜ崖から転落すると前回の記憶を維持したまま4月1日に戻るのでしょうか。
それは実際には肉体が4月1日に戻るわけではなく精神のみが4月1日に戻るのでした。
精神のみを戻し、崖から転落するまでを何度もシミュレート
最も良い世界へと辿り着いた時、それが現実となるのです。
物語の一周目では6日目に誰かが死ぬというような一部の情報を保持してループを始めました。
ご存知の通り、それだと結末は変わりません。
なら前回の記憶を全部持ち越してみたらどうでしょう、これが二周目になるわけです。
我々の住む世界もそうなのかもしれません。
今、体験している世界はより良い世界へと導くためのシミュレートなのかもしれませんし
誰かのシミュレートの中に自分がいるのかもしれません。
デジャヴという現象が真っ先に疑われます。
主観というものは一人に一つずつ、みんな一人に一つずつ自分だけの世界を持っています。
私から見たリンゴはこんな形ですが、あなたから見たリンゴは私の思っているリンゴとは違うかもしれません。
この考えは後のインフィニティ、はたまた、12RIVENにまで受け継がれています。



最後に少しだけ現実味のある話をすると
目標に向かってチームで一丸となって進むとき
みんなで一つの目的を持っていると心が通じ合って
目標が達成できる可能性が高まります。
これは実際にそうらしくて、有頂天狗とでも言うんでしょうか
田舎のどこにでもいるような少年がある日
「ボクシング世界チャンピオンになる」などと言い出してトレーニングして
周りもそれに協力して少年を持ち上げて、すると次第に実力も付き出して
周りも世界チャンピオンになることを疑わなくなって
そのうち日本中のみんながそれを信じるようになって
結果的に世界チャンピオンになってしまう。
子供の頃、神童と崇められてそのまま順調に成長した人は少ないと聞きますが
それは少し落ちぶれただけで本人はもとより周りがやたらとケチつけて
彼は神童だと信じる人が少なくなってしまったからであって
少し落ちぶれても、めげずに周りもサポートしてあげれば
順調に成長できると思うんですよね。
だからありきたりな話を言うと、自分で自分を信じる力っていうのは大事なんです。
なぜなら、キュレイシンドロームだって一つ目の特徴は
自分が嘘を言い出さなくちゃいけない
つまり自発的に行動を起こさなきゃいけないようになっているんです。
自分を暗示のように信じこませた、例えば、難関大学に絶対受かってやるだとか
自分で付いた嘘を信じちゃうぐらいまで目標が強固で明確で
そのあとで、二つ目の特徴、周りがそれを信じる。
そこまで必死なんだったら仕方ないサポートしてやるか、ってなるわけですよ。
で、あとはそれを世間に認めさせてやって、最後には世界を自分の意思で変えてやるんです。
最初は嘘だって構わない。
10kg痩せるだとか、毎日筋トレするだとか、何か目標を立てる。
それが続くんだったら周りだって評価し出すし
気付けば実現できてて、嘘が現実になってるでしょ。
キュレイシンドローム、はたまた
このNever7が伝えたかったのは、おそらくそういうこと。
「信じる力は運命を強固にする」ってどっかで聞いたことあるなあ。