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エストさんのゆびきり婚約ロリイタの長文感想

ユーザー
エスト
ゲーム
ゆびきり婚約ロリイタ
ブランド
夜のひつじ
得点
83
参照数
820

一言コメント

幼女との禁断の関係の中に愛の在り方と生の在り方を描き出すという怪作。夜のひつじお得意の言葉遊びがいつにも増して光る。「あいしあってたら、わかれないもん」と人は言うけれど、それって本当のことですか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

○「あいしあってたら、わかれないもん」(2008年編‘やくそく‘)

エロゲーにおける一般的(?)価値観だが、本作のテーマはこの鈴佳の言葉へ「否」を突き付けているように思う。

分家のおばあちゃんは「いんがをふくむ」子供である鈴佳(話の流れからして本家の先代とかの偉い立場の人が愛人に産ませた子なのだろう)のために奔走し疲れ果て、認知症を患ってしまう。
鈴佳の為にと思って鈴佳を家に置いた啓人は、受け入れのための法的手続きや親戚筋との折衝、生活環境の変化からくる重責に押しつぶされることもありうると考える。
永遠の愛を誓い合った恋人はあっけなく事故死する。

「仕方ない」「神様が決めたことだから」(‘やくそく‘)と自分に言い聞かせなくてはやっていけない程に現実は辛く厳しく、愛する人を想うがゆえに現実に押しつぶされてしまう事もある。「あいしあってたら、わかれないもん」とは単純に言えない中で、離れ離れにならない愛とはどんな形をしているのだろうか。

本作はその問いに、「ゆるし」という一つの答えを与えているように思う。

○「本当に悪いことをした
ゆるされないことをしたと思う
だけどそのぶん愛しさも募っていく
鈴佳だけがゆるしてくれるから
綺麗なことなんて本当にひとつもないのに」(2011年編‘rape me‘)

「本当に対等な関係とか、貸し借りのない恋愛とか、そういうものはないんじゃないかと思う(中略)
人の力には限界があるから、もっと良くしてあげたい、うまくやりたいと思うけど全部はできない
わるいな、この子に貸しを作ってしまっているな、ときっと感じている」(2008年編‘父なる夜‘)

中盤以降、啓人と鈴佳の2人は「悪いこと」をすることに固執する。
啓人は年端もいかぬ幼女である鈴佳を犯し孕ませようとするし、鈴佳もそれをわかっていながら受け入れる。
これは2人なりの愛の確認行為として描かれているように思う。
自分の「悪さ」をわざと見せつけ謝ることで、「私はこんな悪いことをします、それでもゆるして愛してくれますか」という確認をする。
綺麗なことなんてひとつもない最低の自分でも受け入れてくれるなら、愛する人を想うがゆえの気遣いなどいらない。
最低の自分ですら相手は受け入れてくれるのだから。
夜のひつじの言葉遊びが光る部分だが、本作はここでの「悪いことをゆるされる」という行為を「借りを作る」と表現している。
いわば「借り」を作りあえる関係であることが、2人なりの愛なのだろう。
「ごめん。好き」という言葉はこの2人の関係を端的に表現する絶妙の言葉回しだと思う。

そして2人なりの愛の答えは「いかに生きるか」という非常に壮大な問いへと繋がっていく。

○「ひとに迷惑をかけて、もう迷惑なんてかけまいと思って、恩返しをしようと思って生きて、
その過程でまた迷惑をかけて― 借りてるばかりのなかにありながら愛に生かされている
生きなくちゃと思うのは申し訳ないからだ
申し訳ないと思い続けないと生きられない生がある」(2011年編‘ここから‘)

「きみに悪いことをしたぶん生きなければいけないと思う」(2011年編‘rape me‘)

生きなくてはならないのは、「借り」を「返す」ためだ。
相手に悪いことをしたけどゆるされて、「申し訳ない」と思い恩を返そうとするがまたも迷惑をかけ、「借り」がなくなることはない。
申し訳なくて、恩を返すために辛く厳しい現実を生き続けねばならない。

しかし現実がいかにつらかろうと生きていけるはずだ。そこにはあまりに甘美な「愛」があるのだから。

「あやまり続けていいのなら生きていられるよ。」(2011年編‘rape me‘)