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アヲトさんの白昼夢の青写真の長文感想

ユーザー
アヲト
ゲーム
白昼夢の青写真
ブランド
Laplacian
得点
88
参照数
115

一言コメント

シナリオ構成の巧みな完成度高いシナリオだったと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

※プレイ順はCASE3→2→1→0のためその順で感想並べてます。
書き慣れてない上、途中大したメモも取らず最後まで通してやってから全て書いたので間違いや乱文等あるかも...悪しからずご了承下さい。
なお、switch版のみのプレイです。


・CASE3 桃ノ内すもも

カメラマンになるため不登校状態になっていた少年、カンナが教育実習で来たすももと出会い、一緒に母の残したスケッチ場所でハレー彗星を撮ろうと奔走する...というストーリー

少年と歳上の女性という、いわゆるおねショタ的な恋愛を描きつつ、一夏に繰り広げられる青春物語としても童心に帰れる短編でした。すもものグイグイ引っ張っていける無邪気さも、カンナの心に寄り添ってあげる優しさも、そのどちらも歳上ヒロインの持つ属性としては大変自分好みでした。
写真を撮って、撮られてを繰り返してお互いに惹かれ合い、そして抱えていたしがらみから抜け出し何にも囚われない「自分」の人生を歩み出すまでの2人の恋路と成長が丁寧に綴られていたと思います。梓姫周りのテキスト始め思わず笑ってしまうようなコミカルな場面も多いため、楽しく軽快に読み進められました。
結局散々探し求めたスケッチの場所が実はずっと拠点にしていたガレージだったというオチは古典的ではありますが、やはりその古典さがちょっと背伸びした2人が行き着いた青春の一幕としてこれ以上ないくらいピッタリなんじゃないでしょうか。
最後にカンナとすももは別れることになりますが、爽やかで前向きな別れ方であり、甘酸っぱい歳の差恋愛の締め方としては大変読後感の良いものでした。


・CASE2 オリヴィア・ベリー

酒場を営む傍ら劇の脚本を売っていた青年、ウィルが一座の座長オリヴィアと出会い、歴史上初の女優になるという彼女の夢を叶えるために奮闘する...というストーリー

中世ヨーロッパを舞台に演劇での成り上がりを目指す物語であり、また隔てようとする時代の壁に懸命に抗う2人の悲恋の物語として大変読み応えのある短編でした。
オリヴィアの信念を貫き通す気高さに感嘆し、ウィルに対して素直になれないいじらしさに口元緩み、そして脚本だけでなく心まで彼に惚れ込んでしまう甘さに酔える、そんな様々な魅力の詰まった麗しいヒロインだったんじゃないでしょうか。
他劇団員として出てくるキキとトーマスも個性の塊であり、ストーリーの進行を担うと同時に愛着の持てるキャラでした。特にキキとトーマスが配役交代するシーンはこれまでの2人の人となり、振る舞いを見てきた後だと自然と受け入れられる現状打開方法であり、また後の演劇の成功という流れにもかなり説得力のあるものになっていたと思います。
最後は捕まった劇団員のために再度身を売ることになってしまい、作中ウィルの書き上げるロミジュリのように死ぬ訳ではないにしろ二度と会えないことも想像できる切ない終わり方となりますが、オリヴィアのために今後も物語を紡ぎ続けるという彼の決意が心に響くからこそ、ただ切なく辛いだけではない読後感でした。


・CASE1 波多野凛

学園の非常勤講師として働く有島芳が、大学時代同じゼミであった波多野秋房の娘、凛と出会ったことをきっかけに、秋房の残した日記を読み解きながら再び小説を書き始める...というストーリー

死というものに深く向き合う絶望と救済の話であり、また教師と生徒という背徳感のある禁断の愛の物語として自分の好みにブッ刺さる短編でした。
夫婦関係の冷え切った既婚の中年という中々見ない設定の主人公ですが、若い頃の挫折から立ち直ることが出来ず伸び切ったゴムのようにただ毎日を惰性で生きているというのは現実にいそうなくらいリアルで、自分はそんな歳ではないですが個人的には彼の陰鬱とした思考に共感を覚えざるを得ませんでした。
凛は最初は大人びていてミステリアスな印象を受けますが、彼に救いを求め生活を共にするにつれて小悪魔的に彼を揶揄うなど年相応な可愛らしい一面も多く見られるようになり、目の離せない魅力的なヒロインに仕上がっていたと思います。
途中、芳が秋房と同じ最期を迎えようと自殺を試みるも、彼女を傷つけたまま死ねないと死の淵から這い上がるシーンは非常に生々しく臨場感のある文章で綴られており、やはり凛の存在こそが彼の闇に差す一筋の光なのだなぁと印象付けられました。その後2人が結ばれるシーンは彼らと同じく感極まってしまいましたね...。(まぁswitch版のため18禁の直接的描写はありませんでしたが)
最後は凛の妊娠による失踪という、やや唐突感のある話の畳み方をしますが、愛する人の生活を壊したくないからこそ彼の元を去るという彼女の選択は納得できる反面、やはり彼女の今後を考えると胸の締め付けられるような思いにならざる得ない読後感でした。


・CASE0 世凪

作中の時代も舞台も違うCASE1〜3全てにおいて、何故世凪に似た赤い双眸を持つ白髪のヒロインが登場し、そして必ず主人公と別れて終わるのかという疑問に回答を出す、壮大なSFから成る海斗と世凪の純愛物語でした。
これまで見てきたCASE1〜3の話は世凪の記憶を元にした創作であり、記憶を無くしてしまう世凪にとってその悲しさも大切な感情であり伝えてあげたいからこそ「別れ」で終わらないといけない、と明かされた時は思わず唸ってしまいましたね。

序盤から中盤、本格的なSFは全くもって読み慣れていないド文系人間のため途中展開される理論の理解に多少時間がかかることもありましたが、「世凪の思考空間を元に仮想空間を構築する」という流れにSF的な面白さは確かに感じることができ、破綻等は見当たらなかったと思います。そして何より世凪のヒロイン力としての高さ。海斗や出雲、リープくんとのじゃれ合いも、海斗の夢を偏に応援してあげる健気さも本当に可愛らしく魅力的でした。過去を伝えられないことから一度仲違いしてしまうも、お互い分かり合って結ばれた時は心から彼らを祝福したくなりましたね。

とはいえ、シナリオ的にはまだ比較的淡々とした展開であったため、真に先のシナリオが気になって釘付けになってしまったのはやはり世凪の記憶障害が発症してからでしょう。あぁこの後ついにCASE1〜3の幕間で見たような感情も記憶も何もないもぬけの殻となった世凪になってしまうのかと、頭ではそのような末路を辿ることが分かっていたとはいえ、これだけ長い間幼少期の出会いから始まり、紆余曲折あって結ばれるまでの海斗と世凪の2人の物語を見せられた後だったので、この展開は心が抉られるような思いにならざる得ませんでした。
その他大勢の世界のために一人が犠牲になるかどうかという選択を迫られるいわゆる「セカイ系」的な展開なんでしょうが、よくあるファンタジーチックな不思議要素に頼らず本格的なSFでキチンと説明付けられているからこそ、その選択を突き付けられる過酷さがより一層際立っていたと思います。
結局世凪との時間を大切にするという彼の選択は退けられ遊馬の手によって世凪の前頭葉が切除され自我を奪われてしまいますが、この辺りの文章は本当に読んでて辛かった。なんで彼女がここまでの仕打ちを受けないといけないのか...。ずっとそんな気持ちで一杯でしたね。

終盤は怒涛の伏線回収ラッシュで、世凪に自我が残っていることが判明しその部分を活性化させ元の世凪を取り戻すためにCASE1〜3の実験を行ったことが分かる上、この世界を作った真の原因は人工遺伝子によって引き起こされた基礎欲求欠乏症であって、何故このような地下都市に移住したのか、何故海斗の母親は徐々に体が動かなくなってしまったのか、何故幼少期の海斗と世凪は直射日光に当たっても問題なかったのか等の疑問に全て回答を出したのは凄かったです。
凄かったのですが...個人的にはただでさえ得意じゃないジャンルのSFで想像よりも大分長いストーリー展開で疲弊していたので頭にスッとは入ってこなかったというか、それはそれとして海斗と世凪の2人の純愛物語としての結末を早く見届けたいなぁと思いながらこの辺りは読みました。繰り返しますが伏線回収自体は凄かったです。念のため。
ただ一つ突っ込むとするなら、やはり中層研究者が上層研究者の言うことを盲目的に信じて、真実に誰も気付かないというのは実際あり得るのかなぁと個人的には思ってしまいました。まぁそう説明されれば納得するしかないんですが、中層の研究者が一気に無能化してしまうし、上層中層下層に別れて地上から地下に移住するまでの途中過程がふんわりしてるのもあってここだけちょっと腑に落ちないかなぁと思いましたね。

ラストは世凪にも基礎欲求欠乏症が発症してしまい体が動かなくなり始め、自らの意思で「世界」となることを選択して海斗と別れるも、エピローグで感動の再会を果たすというハッピーエンド。ここだけ考察的なこと言いますが、これは作中に出て来た説明から考察するに、海斗が「世界」で世凪という存在の物語をその「世界」の人々にずっと語り続けた結果、共通の相互認識作用が働き世凪という存在が出現したと解釈しましたが合ってますかね...?
ただそれだと果たしてこれまで見てきた世凪と同一人物と言えるのかどうかという問題が発生しそうなんですが、これだけ幸せそうな2人のエピローグ見せられちゃうとこれはもう誰が何と言おうとハッピーエンドなんだと、そう信じたいですね。
そして主人公との別離で終わったCASE1〜3までにも世凪の手によって再会する幸せなエピローグが追加されるというご褒美。作ってくれた世凪に本当感謝しかない。


・その他ストーリー以外

CGは非常に美麗で数が多く、この場面にCGないんだ...みたいなことは一切ありませんでした。(調べましたがswitch版はCGの数が増量されているようです)
テキストボックスなんかもそのCASEごとの雰囲気に合うように変えていて凝ってるなぁと。
そして音楽もCASEごとに違ったOPとEDが入る豪華っぷり。個人的に「恋するキリギリス」が好みにブッ刺さったので聴きながらこの感想書きました。


・まとめ

CASE1〜3の短編も、CASE0の長編も、どちらも非常に完成度の高いシナリオでした。ライターの方のシナリオ構築力の高さに脱帽するしかないです。セールに釣られて買ったので今回はswitch版でしたが、結局オリジナルPC版の方も買ってしまったのでいつかまたそっちでやりたいですね。
この作品を作って下さりありがとうございました。
あともしこの感想を読んで下さった方がいるのであればここまでお付き合い頂きありがとうございました。以上です。