カントクは良かったけれど監督はいらんかった
特に文句をつける所の無い作品ですが一つだけ気になったのがサッカー部の監督の存在でした。
とにかく存在自体が不愉快。私としてはサッカーという要素自体不要だったと思うのですがその中でもこいつの存在は際立って悪目立ちしていました。
その理由としては大きくわけて二つあります。
まず一つは人間性そのものの程度が低い事。
サッカー部内で横行していたいじめ。それを見かねリンチを止めるために往来で上級生に暴行を振るった事が原因で宗介には退部処分が下されるわけですが、この件に対して監督は宗介に対しいけしゃあしゃあと言い放ちます。いじめを止めるためとはいえ殴る事は無かった。殴ったのはお前が殴りたかっただけだと。
「お前が言うな」としか言いようがありません。
他の部員が言うならまだ分かります。しかし、仮にも部員を監督し指導する立場にあった人間がいじめを放置していた自分の事を棚に上げ一体何を偉そうに語っているのかと。また、暴行を行っていた三年生部員は土下座して謝っても復帰を許さなかった等の事も言っていますが一番肝心の自分が何にも責任を取っていない以上トカゲの尻尾切りとして部員を利用したというだけでしかありません。
口先だけで監督として大した実績があるわけでも無く尊大で人間的にも最低。スポーツ漫画の中盤辺りに出てきそうな悪役キャラです。
で、それだけならまだいいのですが、それ以上に問題なのがこの監督が悪役ではなく「いい人」として作中描写されている事です。
客観的に見た場合ただのろくでなしでしかない監督ですが、何故か宗介達は監督に対し一定以上の敬意を表し最後取って附けたように監督が宗介の事を案じていたことが提示されます。
何故そんな事をする必要があったのか正直理解しかねます。前述のように実際には監督はとても人格者といえるような人間ではないですし、最後までその事に対するフォローなどないのですから。監督の実像と作中での評価の大きな齟齬はこの作品をプレイする上で非常に大きなストレスとなりました。
別に悪役が悪いというのではありません。きちんと監督を悪役として配置していれば、例えば理香子ルートに於いて他校へ転校した宗介が監督を最後に倒して大団円という形にする事も出来たでしょうし。しかし、実際には監督を中途半端に良い人にしようとしたせいでカタルシスも何もあったものではありません。お約束でも何でも最後に一発ぶん殴らせろと。そんな王道を忌避した故に、「実は良い人でした」という展開にしたのかもしれませんが、ただただ陳腐な展開でしかありませんでした。ただでさえ、王道というのは多くの支持を得たからこその王道なのですから。
元々夏子と監督の二人はわざとプレイヤーに不快感を感じさせるように描写されていたと思われますが、夏子のずぼらさやネグレクトが宗介と理香子の関係を夏子が許容する伏線になっていたのに対し、監督のそれは全く必要のない不快感だったように思えてなりません。
「夏ノ雨」という作品の中に咲いた一輪の徒花。そう表現するにはかの人物は些か醜悪に過ぎるのでしょうが。
途中までは宗介の駄目っぷりに不快感を覚えずにはいられませんでしたが、宗介をさらにうわまわる屑人間の登場で宗介の駄目っぷりなど消し飛んでしまいました。
そういう意味では彼の存在にもそれなりの価値があったのかもしれませんが。