確かにマイナス要素は非常に多いけれど、自分にとっては至高のノスタルジア。個人的には神作っす。(長文は後半にネタバレしてます。怒りの投書のようになってしまい、かつ感想ぐだぐだになってしまいすいません。)
攻略対象は実質ちさとと更紗の二人。(確かに五人ともHシーン、エンディングは用意されてますが。)予想に反する鬱展開。展開の一部では倫理破綻。体験版のウェートが非常に大きく、製品版と大して変わらない。っとこのあたりがマイナス要素でしょうか。それでも自分が満足できたのはあのCGと音楽とSEとテキストが調和して一つの作品世界がしっかり出来上がっていたことと、あとは物語の創り方。この作品では、平凡なイベントとシナリオ展開に対し、いかに意味を持たせようかという点にこだわっていて、実際この試みは成功したといっていい。プレイヤーがうまくこの世界に打ち解けることができれば、きっとこの作品での一つ一つの出来事に心動かされると思いますよ。ただ、その分不満も増幅されるかもだが。
あと、注意しておきたいのが、この作品では大人と子供の対比がしばしば出されているが、成長を取り扱ったという印象は弱かったことかな。また、パッケージと物語の内容が著しく異なること、および攻略順序が厳しく指定されていることにも注意が必要かもしれない。
<追記>
以前書いた感想だけではどうも書き足りていない感じがしたので書き足させていただきます。一応ほとんどネタばれではないですが、プレイした人にしかわからないかもです…。
上に何気ないイベントに意味を持たせると書いたけれど、つまり思春期というのがそういう時期だということなのだろうね。さまざまな義務などに押し流されずに自分の感性に沿って自由に行動のできる子供の頃っていうのは、一つ一つの物事の価値が自らによって規定できる。その一方で大人は、誰かに言われたから、仕事だから、義務だからそれをやらなければならないということのほうが多い。すなわち、自らの行動を社会の要請によって決定づけられる部分が大きい。
と、上では意味という言葉を用いたけれど、実際は価値という言葉を用いたほうがいいのだろう。この作品から感じ取れるのは意味ばかりを追わずに価値についても考えてみなさいということ。意味というのは「その行為、現象の持つ意図や目的それ自体」ということであるが、価値というのは「その現象の持つ意味がどれだけ大切であるか」ということ。もちろん意味と価値というのは互いに区別しきれない概念だと思う。ただ、どうだろう、近年の作品には意味ばかりを追わせていく作品が多い感じがする。つまり、感情移入の余地が少なく、物語の展開ばかりが重視されてしまう。まあ、このところ、そういういわゆるなぞなぞっぽいミステリ系の作品が流行っているというから仕方のないことなのかもしれないが、個人的には嫌なんだよな。なぞなぞって結局机に向かって問題解いてるのと気分変わんなくて、もうそういう日常から解放されたくてゲームやってるってのに、もう勘弁してほしい。それよっか、こう、自由に想いを巡らせてくれる作品の方が好きなんだよ。そういう人は今じゃ異端派か。
この作品において大切になるのは主人公の心情であろうが、感情について直截な描写は非常に少ない。感情というのはストレートに表現することでは全く価値がないのである。確かにそこに意味はある。「うれしい」「かなしい」そう言われれば、相手の感情を認識することはできるかもしれないがそれは誰しもが共通な理解を示すことのできる、非常に曖昧なものでしかない。感情というのは究極的に主観的な存在であるから「うれしい」「かなしい」と言っただけでは、どのような心の状態を表現しているのか、ほとんど共感することはできない。われわれは感情というものに対してはどうしても感情を表す言葉以外の部分から推測する必要性があるし、そういったつかみようのないちれぢれの感情をなんとかして第三者に表そうとするところから文学というのは始まっていくようにすら思える。
にもかかわらず、巷において傑作と評される多くの作品においては、なぜかこのような心情描写がストレートな作品に限って好まれるような感じがする。「人が死ぬ」などの強烈なインパクトがあって画一的に解釈されてしまうような意味を持たせた、いわゆる「あざとい」作品が好まれやすい。しかし、この作品はそのような作品では味わえない繊細さが含まれていたのではないだろうか、そのような繊細さこそが個性という概念の正体であり、ひいては芸術という分野の存在意義にもつながりはしないだろうか。
確かに、一般的な恋愛に比べ、二人の美少女に好意をもたれながらも、うじうじした(裏を返せば余裕こいてるとも解釈されかねない)態度をとる陸に何か許せないものを感じるというのは普通だと思うが、しかしこの作品では、おそらく「美しい」恋愛について描きたかったのだからそれもまたよしだと思う。個人的には展開そのものよりも、物語の描写に対する巧みさを評価している。感情移入させる、思いを理解させるというのはやっぱりそれはそれで難しいことだし、それを表すのに小説のようにただ文章で表現するのではない、絵も声も使い、メロディーまで与え、それを一つの作品として統一させるのはなかなかできないことだと思う。
要は、合わないというのなら分かるんだけど、ただの駄作と断じてしまうことに納得していないということです。
(以下、ネタバレ)
まず、一番の問題は倫理的なもの。ちさとルートのなるみ。あれでいいのでしょうか。三年間答えを出さないで、結局フォローもそこそこにあっさり破局。そして更紗ルートの海。自殺じゃないってわかればそれでいいのかよ。あれはエピローグで軽く触れる程度にして欲しかった。あれでは更紗は海が死んだことを悲しむことより、自分のせいで殺してしまったということに後悔していただけという印象を受ける。じゃあ、仮に海が自分に関わりないところで死んだのなら別に構わないとでも言うつもりなのでしょうか…。正直更紗ルートはあそこで興ざめでしたよ。すんごくいい終わり方だっただけにこの点が不満でならない。反対に千里ルートのあの終わり方は不満が残るな。結ばれた後は駆け足で終わらせてたからね。全体にかなり丁寧に作りこんでいた作品だからその分ちょっとでもおかしな点があると目立っちゃうね。特に後半はシナリオが難解なので、ちさとのあのラストには拍子抜け。あと一押しが欲しかった。
また、この点は自分はあんまり気にならなかったが、攻略ヒロインが実質2人。ハルとか絢とか、あの展開は、まあ、ないよな。何であんなにうじうじしていた陸がいきなり告白して外野のヒロインと結ばれるのかね。このあたりは製作者側もきっとわかっててやってるよね。いや、いいんだけどさ。製作期間の問題もあっただろうし、そのようなマイナス部分の補正よりかは書きたいことを表現してくれたほうが個人的にはありがたい。
それと、物語の性質上仕方のないことなのかもしれないが、情景描写が少なかった感じもする。これは絵で補えるから必要ないのかもしれないが、話を読んでいると夢の中にいるかのような閉塞的な感じがして少し気分が悪くなった。ほかの人は気にならんかったのかね。
あとはもうちょっと細かい点について触れてみたい。
はじめに、題目のperfect pure love story。これってちさとに向けた言葉だったんだね。陸の立場からすればよくわからなかったが、ちさとからすればまさに純愛。変わり果ててしまった初恋の相手である陸をどこまでも信じ続けて、自分の強い思いを貫き通すことでついには陸の本当の気持ちを彼自身に向かい合わせた。だからこの作品の一番の見所はちさとが陸に押さえつけられながらも「私が…はじめて好きになった人だから…。」とまっすぐな瞳で答えるあのシーンなのだろうと、個人的に解釈している。ただ、その前の陸がちさとを避けてる理由というのが捉えづらかった。彼はどうしてそこまで自分の過去にふたをしてしまわねばならなかったのだろうかということについて、作中では「ピアノが弾けなくなるのが怖かった」と述べていたが、それが本当に核となる理由だったのか。陸は海をもはや崇拝と言えるぐらいにまで尊敬し、自分にとっても自分が陸であることよりも海であることのほうが正しいと言う理屈に納得がいく。それゆえ朝風海という存在として振舞うことに責務を感じていた。そしてピアノを弾くということが自分が朝風海であることの何よりもの証左である。だからピアノが弾けなくなることが海の存在を否定することになり、それは許されないことだと思い自分で過去にふたをした。ただ、陸の心を占めていたのは義務感だけだったのか。むしろ海が死んだという事実を認めたくないからずっと海であるように生き続けてきたのではないか。それほどまでに陸にとって海が大事な存在であったのだろうと思う。そう考えると陸のあの葛藤が非常に切なく感じられる。
陸は自分は朝風陸か朝風海のどちらか一方にしかなれないという前提の下に自分の存在を定義していた点で引っかかっていたのだろう。ひとたび朝風陸として振舞うことを自分で認めてしまえば即座に朝風海は死ぬ。この固定観念が最後まで陸を苦しませ続けた。海を殺してでもちさとと寄り添うのは絶対に認められない過ちだと思い続けていたが、しかしちさとに朝風陸を引き戻されても陸は海の存在を自分の中に見ることが出来た。そう考えるとはじめから勘違いしていた陸がマヌケな気もするが、やっぱり彼の恐怖心というのが要らぬ心配をさせるほど強かったのだろう。きっと。
で、ちさとルートはあの終わらせ方。いきなりロビンがやってきてピアノ対決で勝ってお終い。陸は手が動かなくなるとやけっぱちで放浪したり、このあたりの物語のつくりが現実離れしてるし、ずいぶん粗い。おばあさん(理事長)に相談すると急に自分の中にあるものについてひらめきだしてロビンとの対決で決着がつく。ここの過程が妙にテンポが速いのは何だったのだろうか。ここではひらめきに必然性がない。いや、ひらめきは偶然だからひらめきなんだと言われるかもしれないが、ひらめきにだってきっかけはあるでしょう。それがおばあさんのアドバイスと言うのはちょっと納得できない。
最後の対決では、「朝風海でもない、かといってかつての朝風陸でもない」という表現がなされているが、そうだとするならば陸はかつての陸から三年間を経て何か得たものがあるはずだと推測される。にもかかわらずそれが何であるか説明がないのはちょっと描写不足なのではないか。また、せっかくのちさとルートなのにこの対決ではちさとに関する思いがそれほど伝わってこないのも不思議である。
できれば陸のスランプからロビンとの演奏会の間にもうワンクッションが欲しかった。それにはやはり陸が「自分が弾きたい」という気持ちになるきっかけを一つおいて話を語ってもらいたい。この場合、ちさとから手紙が来ていたなんていうエピローグのイベントを前倒ししてみてもよかったと思う。ちさとが陸に対して三年間どのような思いをもって過ごしてきたのかを手紙につづることで、陸はちさとへの思いを再確認することになるし、それならばピアノを弾きたいというきっかけにもなりえたと思う。そうすればこの三年間という時間が決して無意味ではなかったと言うことにもなるのではないか。
そしてもう一つの更紗ルート。これはいまだに理解できているのかどうか自信がない。陸が自分の中にある更紗の感情を見つけ出すのにもがいて誤解したりするという流れは面白かったけど、更紗をいつから一人の女性としてみてきたのかのがが判然としない。答えは「いつの間にか」ってやつなんでしょうな。陸は自分で勝手に更紗にとって一番近い存在は自分であると思い込んでいたのに、自分の知らない更紗を見てしまうことであらためて自分と更紗の間に距離があることに気づかされる。それがたまらなく不快に感じたのは、つまるところ陸が更紗をすべてを知りたいという独占欲に近い恋心が原因なんだろう。陸はいろいろあって最終的に自分の気持ちに気づき更紗に自分の気持ちをぶつけることにしたのだが、いまだにわからないのはここでなぜ更紗は受け入れたのかと言う点である。
更紗は「陸っくんのことは少し意識しているが、それが本当の気持ちかわからない」と言っている。これはおそらく陸っくんを好きになるということでかつての過ちを繰り返さないようにしようという打算が含まれているんじゃないのか、自分は陸を好きになることを過去への贖罪の手段としているだけじゃないのか、そういった気持ちが更紗の中にあったのだと思う。誰かを好きになることに理由があるならばそれは好意ではなく偽りの感情でしかない。その判断が更紗を縛っていたのだが、最終的にこの迷いに対する決着がついてなかった気がする。つまり、本当に更紗は陸を好きなのか。その気持ちは本当のものなのか。いまひとつしこりが残るまま終わっていた感じがするな。このルートでも更紗の気持ちがどうして本当のものだと言えるのかについて、話の中で説得力を持たせて欲しかった。とはいえ、これは非常に難しく感じる。というのも、自分には最後まで更紗の恋愛観がわからなかったからなのだが。何で最初に自殺した相手は拒み続けて、陸なら受け入れたのか。その根拠が「陸に好意を持った」ということならいったい彼のどこに惹かれたのか。そのあたりが謎のままなし崩し的に終わってしまったのは残念。
ただ、最近のゲームではあまり主人公のほうからヒロインに告白するなんていうこと自体が珍しいので、ちょっと新鮮だったかもしれない。
いろいろ突っ込んでしまったけど、ここまで一つの取り留めのない物語を丁寧に取り扱った作品と言うのはいろいろ感じさせるところが多く、非常に面白かった。ただ、一般的な評価としては観念的過ぎたのかな。SIESTAにはこの路線で頑張って欲しいのだが、採算ラインの問題もあるし、なんとも難しい。
<ネタばれ編・追記>
いまだに「ボクノセカイ」の歌詞の意味がわからない。「リアルな僕の世界」はリアルな「僕」と、リアルな「世界」を掛けているものだと推測されるが、「誰もここにいない」とはどういう意味なんだろう?ここに存在している「僕」は陸でも海でもない、中途半端な存在だから「どちらでもない、誰でもない」=「誰もいない」、ということなのだろうか。うーむ。
あと、おそらく製作者側の意図からしても確かに「成長物語」としての要素はあったのだろう。ただ、この意見には個人的に賛同したくない。この場合の成長とは、何を意味するものなのだろうか。陸が苦しい過去に目を向けて立ち向かって、新しい自分に生まれ変わったとか、そういうことか。でも、その点についての書かれ方は、すなわちエンディングの部分に当たると思うんだけど、あんまり好きじゃないんだよな。兄さんの幻影を追っかける所から一歩踏み出せたのはいいと思うが、兄さんの描写がこれでもまだ弱いな。なんか物足りない。具体的に言い表せないけど。