出しゃ張ったまねしてると思います。でも一つの奇跡ではないかと思ったので。(長文感想はクリアした人向けです。すみません、間違って登録情報を消してしまいましたので再度アップしました。ホントに申し訳ないです。)
発売当初の状況を考えると、このゲームは見事なまでにクレバスにはまってしまいましたね。ぱっと見からして、重い感じのゲームなのかなということで、シナリオを重視する方からの厳しい評価を受ける。一方、ライトなゲームを好むユーザーからは手を出しづらいと敬遠される。その結果、このゲームの売りである演出やゲーム性、ドラマ性を評価する人間はいなくなってしまい、あまり高い点数にはならなかった。
自分はこのゲームの主題歌である恋獄があまりにも印象的でついゲームまで買ってしまった人なんだけど、後悔するどころか、今でも自分の宝物になっています。あんまりこんなこと言っちゃまずいんだろうけど、今後恋獄と同程度の歌(というか曲)はいつ出てくるのやら…。
さて、このゲーム。一見するとサスペンス。推理が重要になってきますよ、ってな感じなのかもしれないが、個人的な意見としては素直に雰囲気を楽しんだほうがいいと思う。序盤からなんとなく「こいつ怪しくない?」という人が出てきて、物語を進めていくうちに「ほぉ」ってな感じになって、最後に「ああ、こいつだったんだ」という感じで終わる。話の内容からして誰が犯人でもおかしくないように構成されていたとは思うけど、裏を返せばあまり伏線らしいものってなかったんじゃないのかな。(ごめん、サスペンスって苦手で、伏線とか良くわからないんだけどね。)だから、別に誰が犯人でもおかしくない。実際にマルチエンディングの形を取っていたから、伏線を張ることは出来なかったという事情もあるかもしれないけど。それにしても、このマルチエンディングはなかなか立派だと思いませんかね。どの終わり方で終わってもおかしくない。この予定調和のないゲーム性がリアリティを引き出し、プレイする側としても緊張感を持って出来ました。ほんとにこれが真実だったの?ってな感じで、どこまでも疑わせてしまう。そしてトゥルーエンドが納得のいく終わり方。(あれ、どこかツッコむようなところあったっけ、この作品。)これはドラマでも小説でも出来ない演出で、ゲームならではの特色をよく生かしたなと感心します。このような手法を試みることはほかのメーカーでもやっているかもしれませんが、きわめて自然な感じで作られていたことを高く評価したいと思います。
もうネタバレにチェック入れちゃったからどんどん言っちゃうけど、最後の有島さんの独白の部分では涙ボロボロでした。有島さんも歪んだ社会に飲み込まれた被害者なんだな、と。有島の知り合いである上月の家の娘と秋五がデキていたって言うのが有島の唯一の誤算で、もしもそれを知っていて秋五に上月の件を依頼しなければ有島の計画は完璧だったのです。しかし、この偶然が有島の目論見を反故にしてしまった。それで計画が破綻するきっかけとなったのが、かつての部下で若かりしころの自分を投影しながら見ていた秋五であったというめぐり合わせ。この偶然が、あまりにも運命的で、なんと言ったらいいか言葉が見つからない。ただ、最後に捕らえられたときの相手が秋五であったということで、有島さんもいくぶんか救われたんじゃないでしょうか。彼は初めから、自分の行為が見つかって逮捕されるようなことがあるならば、自決を覚悟していたでしょう。だから最後に自分を慕ってくれる秋五にすべてを白状して死ねるのならば、自分でも理解することの出来ないほどにねじれ曲がったその感情の一部でも語ることが出来るので。唯一自分が信じられる相手だから、語ることに意味がある。(「同情されるほど、私は安くないぞ。」というのは強がりではないのかなと思う。秋五の同情を受け入れようとする自分が許せなかったのではないだろうか。)おそらく、最後の八木沼が来る瞬間まで有島さんは逡巡していたように思われます。彼にとって高城秋五という存在は自らの良心を支える最後のよりどころだったかもしれません。その彼を手にかけるというのはいわば自分のすべてを否定することに等しかったのではと、そう感じました。
有島さんは、本心から社会で暗躍していたわけではないでしょう。それは自分が今まで信じてきた社会や家族の裏切りに対する復讐心がそうさせたもので、そういった憎しみはどれだけ復讐を重ねてもちっとも消えてくれない。そこに決着をつけたのが、変貌する前の自分を思わせる秋五だったというのは…。有島さんにしてはこれが最高の果て方だったのかもしれません。彼としては、こうして死ぬのと、たとえ謀略が成功して自分の気持ちを誰にも打ち明けることなく暮らすのではどちらが良かったのか。彼にとって、復讐の終わったその後の人生というのは意味を成さないものだったと思います。(なんか、ここまで書いてて、思いっきし解釈が的外れだったらどうしようと少し心配になってきた(汗)。)
このドラマ性に胸を打たれつつも、一方で不満が残るのは由良に対する描写。彼女は不思議な容貌をしているということで、家族からも煙たがられてた存在だったので、偶然にも優しくしてくれた秋五に対し恋心を抱いてしまう。そのおぞましいほどの執着心というのはよく伝わってきたんだけれど、いまひとつ彼女を理解することは出来なかったというか。彼女の視点から捉えた心理描写というのはやや不足していたかな。もうすこし由良の独白のシーンを多くしても良かったかもしれません。
確かにここまでの評価を読んでいただいても、「でも、別にこの作品でなくたって…」という方も多いでしょうが、このような描写を心を惹きこませるタッチで描くというのはなかなか難しいのでは。特に場面変換に対するテンポのよさはお見事。一小節が長すぎず短すぎず絶妙の配分。地味にすごいと思います。まあ、このシナリオだけじゃ珠玉の作品とはなりませんよね。ほかにも、とにかく塗りのよさと、あとは演出ですよね。この作品の場合、動的な演出というよりは静的なものを必要なだけ入れているのでいやらしい感じもしませんでした。そしてBGM。ゲーム同様、この作品のサントラも自分の宝物です。Little Wingの起用はまさにドンピシャ。無駄にアニメっぽくならなくて良かったと思う。どの曲が素晴らしいのか、というのはあまり音楽に明るくないんでわからないんだけど、どの曲もお気に入りですよ。
この作品は、今でもまったく色褪せてないと思います。だから、この点数をつけさせてください。