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アナトールさんのはるかかなたの長文感想

ユーザー
アナトール
ゲーム
はるかかなた
ブランド
SORAHANE
得点
66
参照数
1418

一言コメント

すげえ泣けた。別の意味で。これは何年前のゲームですか?12話ぐらいで終わって"くれる"かと思ってたら19話とかいらねえよ(涙)。後半プレイの心音&はるかグランドで加点。それ以外3つは大変にひどく大減点。SD絵もヤバすぎ。あの伝説のいろセカを超えた破壊力では?それでもキャラに萌えられれば悪くないのかもしれないが、どうしてもキャラを書いている背景の書き手を意識してしまうほどに作為的でヒステリックな展開でキャラ描写も薄い。選択肢はルート選択のほぼ1か所とみなしてよい。4ルートクリア後はるかグランド解放あるんで注意。あとどういうシステム設計なのか知らないが異常に重い。絵がうまいだけに悲しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 とりあえずさ、死にたいって思ったことのある人、あるいは身近な人の死を引きずってる人じゃないと死を扱った作品は書いてはいけないよね。この作品作った人たちがどうなのかは知らないけど、軽薄にしか映らない。他人の死を己のカタルシスの材料にするなんてあまりにも自己本位で吐き気がする。だいたい「死」なんてテーマが重いんだから、シナリオ一本化しろっての。ルート別にするとか危険すぎる。しかもシナリオはプロットの説明から脱皮しきれていない。時間、スタミナ、その他もろもろ不足してたのは容易に想像できるが。書き手と物語の関係が著しく書き手寄りで、見てる側からすると独りよがりな泣き話に自分で勝手に盛り上がっちゃってるようにしか見えない。いや、これはあくまで個人的な意見で、自分の方が感覚がずれてるだけかもしれないけどね。
 時として人は「死」を選択することもあるが、人間本来的に死にたくて死ぬ人間はいない。まあ自殺遺伝子があるんじゃないかなんていう話もあることにはあるが、それは「死」に対する抵抗感の個体差の問題なんでしょうなあ。この世から消えることにそれほど抵抗感のない人間はふとした拍子で死を選択するし、どうしても死にたくない人間は何としても生きようとするんだけど、そのように死に対する拒絶感が強い人間だって、生きるよりも死ぬ方が楽だと判断した時、裏を返せば死を選択した方が楽だと思うぐらいに生きている環境が厳しいときに死を選択する。それで、ニュースの報道などでは自殺する人の大半は前者のケースだと考えているように見えるが、実際はどうなんでしょう。後者のような厳しい環境におかれた人間の気持ちを考えるっていう方が物語上は深みが出ると思うのですがね。
 あるいはこの物語は、かなたと似たような経験を持つものであれば、物語に感情移入できるのかもしれないんで、あまり作品を悪く言うのもどうかと思ってもいるんだよね。自分は親しい人に先立たれたとかこういう経験ないんでわからんっちゅう部分も絶対あるとは思う。ただどうなんでしょうね?親しい人の死はその人の死であることにアイデンティティがあるわけで、それを何か別の物語で追体験するっていうのは、まるで悲しい思い出を楽しんでいるかのようにも思えるし、あまりやりたがる行為じゃないようにも思えるなあ。
 確かに物語の世界で「死」がもてはやされた時期もあったと思う。でもそれは、これはTHPだったかで書いたけど、感情と思考の逆転現象が原因になっているんじゃないかと考えている。集団ヒステリーというか、全体主義というか、90年代後半(90年代後半"まで"と言うべきなのか、そのあたりはわからないですが)、マスメディア全盛の時はとにかくわかりやすい最大公約数的な物語こそが「正しい」ものであり、それ以外は「間違った」存在とみなされていた。彼らの思考スキームに感情はなく、楽しい物語に楽しいという感情を抱き、悲しい物語に悲しいという感情を持つことが「正しい」反応であった。そのような環境下において「死」はわかりやすい悲しい感情を抱くにふさわしい現象であり、その感情を共有することで己の正当性を確認して安堵する。まず己の感情ありきでなく、相手の目を気にして仲間外れにされないための感情を計算し己に宿して、それを自分の感想と認めたうえで表現する。このような環境下においては「死」はあくまで感情の共有のための手段であり、個人的には甚だ不謹慎極まりない行為に思えていたが、口に出すのもはばかられるぐらいに感情強要の絶対性は強固なものだった時代があった、よね。堅苦しく言って申し訳ないが、簡単に言うと「なんでこんな悲劇的な物語見せられて悲しく思わないの?お前頭おかしいよ!」といわれる時代があったってこと。あまりこういう言い方すると敵を増やすことになるのはわかっているけど言わせてもらった。
 この物語は抒情性の観点から「死」を扱おうとしているように見えた。その仮定を前提に話をさせていただく。「死」は認識の違いとして「自分の死」と「他人の死」の二極がある。これを一元化させる、つまり自分の死と他人の死を一直線上に対置させる概念として「死者との関係」がある。己の死は誰にとっても痛いものであり、己にとって全く無関係の対象の死には何の感慨も抱かず、己にとって利得となるものの死―たとえば食肉用の動物の死―はかえって喜ばしい。いずれにせよ、重要なのは「死」という現象はそれ自体に関心が集まるものではなく、「死を迎えた人間」の物語の一コマであるにすぎない。だから、本来なら物語のワンシーンとして「死」というものは存在するべきなんだ。死ぬことそれ自体が目的化、主題化されてはならない。つまり「死」ありきで話を構成するのはよろしくない。だってそれじゃ作り手がキャラの「死」を望んでいることになる。この点ははるかの話に対する否定のつもりで言ってるんだけど、本来なら「あれ、実は奇跡が起きて何とかなるんじゃないの?」と思わせる展開を用意するのが定石だよね。そうすることで、作り手だってキャラの死を望んでいるわけではないよというイクスキューズができるんですよ。どっちに転ぶかわからないようなハラハラさせる展開は、読み手に対して先を読ませないようにするとかミスリードを誘うとか、そういう作為から生まれるものではなくて、作り手だってキャラに死を宣告することにためらっているという懊悩から生じなければならない。そう個人的には考えている。キャラに愛着があったら出来ないよ、そんな簡単に死んでよっていうようなことはね。だからこういう話は安直に思えてくるから嫌いなんですよね。
 物語において「死」を扱いにくい理由は、短い時間の間にキャラクターへの十分な関係を築くのは困難なことだろう。これはアニメの場合とゲームの場合でも若干変わってくるのかな、とも思う。ドラマやアニメなら3か月の猶予があるが、ゲームをそんな長い時間かけてやる人ってあまりいないと思う。作り手はそりゃ時間かかってるかもしれないが、読み手は作り手の事情を共有しているわけではない。だからキャラクターへの関心を持たせて感情移入させる方法をもって死を扱うのは困難な道を選択していることになる。
 あるいは「死」を抒情性から切り離してとらえることもできる。「死」というのは、まず間違いなくネガティブな概念である。物語は本来楽しむものであるから、ネガティヴな要素というのはそれ自体必然性がない。でも自分なんかはネガティブな物語が好きなんですよね。そこにヒューマニズムを感じるからだけど。人間っていうのは生き物である以上当然欲得の塊で、でもそのような欲望に無抵抗であると、それは人間の人間的な意思を持たずに行動していることと同義になるため、そこには自分が生きてきた意味を見出すことができない。だからこそ欲望にあらがおうとすることからヒューマニズムが生じる。基本的に物語というのはそのようなヒューマニズム=禁欲と欲求のジレンマによっておこる。ある意味では物語の本質というのは「悩む」ことではないか。そしてそのような禁欲性を極めたところにある究極の純粋性に美徳を見出すから、ネガティブな物語は美徳の追求としての意味を求める点で存在意義があるといえる。もしこのような考え方にのっとって「死」を扱った場合、それは「誰々の死」という個人に焦点を当てた物語ではなく、より一般化された「死ぬ運命からは逃れられない」生き物の理不尽な宿命を描きつつ、その普遍性を皮肉ることになるのだろう。もちろん死の一般性と個別の死の悲哀とは不可分な概念なので、いずれの物語も両方の性質を持つことはなるのだろうけど。
 雫とはるかに関しては上の文章をもって感想として、その他の感想。結衣の話は、善悪をくっきりつけすぎ。そりゃ悪い奴はいくらでもいるけど、悪い奴の信念を語るでもなし、主人公の悩みを独白しているだけじゃ、自己陶酔の域を出ない。それと医者になるっていう選択肢は「恋人を救いたい」からするものなのだろうか?どちらかっていうと自営業でくいっぱぐれがないから「心配な人間のそばにいられる」意味合いが強いと思うんだけどな。それにしてもかなた君は成績トップだから医学部志望になったんだろうけど、日本は自民党が利権作っちゃったから無駄に医者の権威が上がっちゃったんだよね。別に医者ってそんなに頭必要とされない職業なのに、無駄に「医者=頭いいしお金持ち」の構図を作ったせいで、どんだけ優秀な人材がほかの分野に行きそびれて国益の損失につながったかわからんぞ。もしかしたら優秀なエンジニアになれたかもしれない素質の持ち主が、頭はいいのに手先が不器用だし世渡りも下手くそだからうだつがあがらん、なんてケースもざらにあるだろ。手先が使えなきゃどうにもならない、というかまったくやりがいのない仕事だろうからな。そういった意味では職人の世界だよ。内科的診療って患者の方が一生懸命研究してることも多い。そもそもなんで医者って理系なんだろうな?まあ学問的に一番医学に近いのは工学なんだろうから当たり前っちゃ当たり前だけど、工学が未知への挑戦なのに対して医学っていうのは既知の理論の実行が中心。機械なんかに関してたとえると工学が開発で医学は修理。医学にも生命の未知の神秘への挑戦があるっていうかもしれないが、そうなると生命科学になってくるし、たぶん分子生物学とかの方が近そう。まあなんにせよ、ただでさえ理系って貴重な戦力なのに、それを使うことなく腐らせてしまうもったいなさと言ったらないよ…まあどうでもいいことだけどさ。
 それと心音の話に関して。一輝さん、あんたそんなにビッグな案件やってるならリベートをトンネル会社に預けとけっての。かなりのチキンだったみたいだな。どうせクサレ銀行のクソ案件を無理やり押し付けられて、アブダビあたりに飛ばされて、やれそんなの聞いてない、契約書に書いてない、言ってもないのに「あれ、当然OKしてるもんだと思ってました」と開き直られ、本部に連絡してもたらいまわしにされて、ヘマしたら「こいつがやりました」って無辜の罪を着せられてるような仕事だろ。商社マンなんて独立精神の塊みたいなもの。修羅の連続、バイタリティがないとロクなことにならん。ネットワーク作りとかも大変そうだし。まあ世の中ネットワークを作らないですむ人間が勝ち組なんですけどね。なんでもかんでもやってみたい人には向いてるんだろうね。事実上の個人営業だから、やりがいは絶対あるだろうけどな。で、彼はそんなスーパー商社マンから脱サラして外食産業…どうなんでしょうねえ。つかラストなにこれ?サプライズと言っておいてもう5回以上は見たこの展開。お前ら業界と手組んでんのか?いつも思うがサイズわかるのか?17号とかでいいのかな?しかしなぜアクアマリン?気のまわらないというより、気の遣い方がおかしいだろ?と思っていたらなるほどね。上手くオチがついた。個人的に一番レベル高いと言えた話だったかな。それでも「死」がなければなおのこと良かったんだけどね。あと、お菓子のホームラン王って…あそこ会長が自殺してなかったか?
 それで物語の方はこのぐらいで、ある程度声目的で買った部分もあるんだが、あまりちゃんと聞いてない。でもまあ、このゲーム声で楽しむぐらいしかないよ。藤森ゆき奈、秋野花、上田朱音…ソラハネライン?八咫烏ライン?いやいやとらすぱ?…そこまで戻ったら何が何だかわからんが、まあどんな感じに仕上がってるのか見るのは楽しみだよね。なんだかんだでMVPはポム君なのか。夏村伊介、評価7.0、守備での貢献は大きかった、と。声が二枚目すぎてむかつくけどな(笑)。ポム君雰囲気作ってくれたのでこれは物語的にだいぶフォローウインドになったが(ただテキストがよかったという部分もある)、ヒロイン側はねえ。うん、中の人は何の問題もないと思うんだけど、ヒロインの精神年齢的に見せ場を作るのはやや難易度高い。テキストあっての声だからなあ。その中でも藤森ゆき奈はさすがにフォローできてるな。実力の割にさりげなさすぎる演技のせいで目立たない人だね。もうなんか背番号0つけてセンターに抜けるライナーをダイビングキャッチしたり、一死ランナー二塁でサード前に絶妙なバント決めたりしてるイメージ。いぶし銀すぎるぜ。永遠の二番バッターってやつですね。今回はややお姉さん風ですか。品行方正でいながら、健気であって近づきがたい気難しい雰囲気はちっともない。う~ん、職人芸。秋野花はアリアよか年齢イメージを落としている感じで、落ち着いた優等生雰囲気はそのままに、やや臆病そうな感じが強くなってる。ビジュアルイメージによく合わせてくる人で、そこから内面描写にアドリブを入れてくるイメージ。個人的な勝手な感覚ですが。でも、声優はビジュアルから内面描写を描くパターンと、内面的な特徴からイメージを作ってビジュアルに合わせてくるパターンと2種類あるよね、確実に。とっつきやすい方からイメージを形成していくんだろうけど。原則的に萌えゲだと前者が強く、シナリオゲーだと後者のアプローチが有効になってくるのかな。できる人ほど無自覚的にこのあたりのアプローチの使い分けが出来てる印象がある。って当たり前のこと言ってますねすいません。で、あり、上田の朱音ちんはサブだったんか。またまた貧乏キャラやってるけど、貧乏路線開拓か。馬鹿燃えも本来ならメインヒロイン張ってるはずが影が薄すぎてあれはなんだったのかという感じになってたが、今回は病死のオプションまでついてる。薄幸キャラになってしまった。ツクモノツキあたりの軽快な感じのキャラの方がいいと思うが。英みらいはんってのはよう知らん。誰かに似てる気はするが。今回物語の感じからすると浮きがちなハイテンションキャラで、基本的なところを見ると、語尾を伸ばしたり切ったりするときの力具合に気を使ってる感じで、慣れてくる頃にはしんみりしたさびしそうな感じを出せてるが、テンションの切り替えは…このぐらいでいいのかなあ?オーバーになっているかどうかは個々の判断が分かれるところか。似たような点でみんなでがやがややるシーンと先輩と二人きりのシーンでのムードの出し方の違いが目立ってる。これもどっちがいいのかわからん。テキスト次第ではすごく映えるが、空回りに見えるんだよね。え、何?北見立花?もう聞き飽きた、特にオナボとか…あ、いえ、ウソです、大変お世話になっております、毎度毎度いつもご馳走様です。そういうセクハラ発言はさておき、個性が強いのか、どこか正統的でないというか、いっつも微妙に外された感覚になる。まるでムービングファストボールというかね。でもその個性でキャラに奥行きが出るから、その個性こそがこの人の真価なんでしょうなあ。マシュマロのような声なのに演技自体は硬いところがある。硬いっていうのはバカっぽくないっていう意味でポジティブな評価をしているんだけどね。でもその硬さが裏目に出たか、泣く演技でオーバーになってるのは減点材料。グランドの方ではナチュラルになってたと思うけど。にしても「はるかかなた」なんだから主題歌は当然「Aliare」じゃないのか?思わずあっちのはるかかなた聞き返したぞ。関連性はいかに?朝陽役の椎那天さんも今回は参考記録だね。ヒロイン張らんとやはり力はわからない。
 堅実という意味では、声以上に目立った絵。崩れない。各キャラの手の使い方に感情がこもってるのが特徴的。これはほとんどどのCGでも見られる。教会での結衣が覗いていたシーン。アイスがかかった雫のシーン。海岸での滴のエロシーン。心音のウェディング姿でのエロシーン。立ち絵でも結衣が口元抑えたり、はるかが頬に手をやったりしているCGは印象的ですよね。もうちょっと一枚絵で雰囲気を出せる絵が描ければよかったんだけどね。さくら咲きましたよりは等身低いから魅力は十分に引き出せない。実質CG65~70(基本ダブりが4枚ほど確認)のSD絵15。ただSD絵はさすがに…小学生のコンクールでも落選必至だろう。顔は描けても体の線が、いや、これはまずい。
 なんだかんだで長くなってしまってごめんなさい。舞台わからんが、みんなのしゃべる「朝陽さん」の発音からしてトーホグのにおいがする。感想書きながら自分の考えが矛盾点がバンバン出てきて直しまくってるからどこかおかしいところがあるかも。いやねえ、素直にサキジェネやったほうが正解だったのかもしれないが、この作品、短ければ、重くなければ、悪くなかったかもしれないですね。雫→結衣という順番で入ったからテンションが終始低いままだった。はるかも第一ルートはひどく、自分が最後にやった心音とはるかグランドの2ルートが割とよかったのが何とも言えない。ソラハネさん、まだ息してるのかな。物語冒頭のソラとハネの魅せる神秘性は内容とどうかかわってきたのかわからなかったのも痛かった。それと個人的な話で悪いがなぜかstep×steady思い出した。プロット志向が似ていたのかな。