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アナトールさんのラブらブライドの長文感想

ユーザー
アナトール
ゲーム
ラブらブライド
ブランド
Chuablesoft
得点
91
参照数
650

一言コメント

主人公と一緒にいるのが楽しいんだろうなあと思うヒロインの気持ちが伝わってくる。かけがえのない日々を存分に謳歌している。なんでもないことがとても楽しいっていうのはやっぱり恋してるからなんだろうね。これはいちゃラブじゃなくピュアラブ。純情すぎて重い。純情すぎてお尻の穴を使うんだけどね。悪い点としてはヒロイン間での話の出来の差が著しい。おそらくは美咲と仁美のツートップ本命構想だろうね。奈緒やハル姉はワンパなリアクションは減点材料。それと個別が長ければ…各キャラもう1イベントはさめれば…それは残念。それでも声聴いてたら結構かかったけどね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 がらじゃないって思うけど、暮れなずむ夕日に自分の心を重ねていた。
 桜の木の下でかわした約束は、いまでも私の宝物。そこに夢を乗せてしまう。わかってる、夢は夢でしかない。叶えることなんてできっこない。それでもなかったことにはしたくない。こぼれるため息が穏やかな春風の中に消えていく。
 この木の上から見える光景があの日のことを思い出させてくれる。止まらない時間と止まったままの思い出。物語でも現実でも同じこと。12時は必ずやってくる。魔法はいつかは溶けてしまう。あの人は今どうしているんだろう、彼のことが気になる。
 在りし日をしのびながらぼんやりしていると、足元で声がするのに気が付いた。ふと目を向けるとそこにいたのは…
 …え、うそ、そんな、どうして?
 間が悪く吹きつけた風がスカートをめくり上げ、あわてた私は、そのまま地面に落ちてしまい…
 ………
 ……
 …そんなわけで、いわゆる、 拉 致 監 禁 ってヤツですか?そして賢治君はわけのわからぬままに同棲生活を始めるのであった。同棲の理由としては、貞淑を奪われたから結婚相手として考えなければならない。そういうしきたりが桜乃森家にはある。結婚を意識するからには同棲もしなくてはならない。一応それらしく振舞うから適当にやり過ごしてくれ、だとか何だとか、一応何とかそれっぽい理由付けがなされているけど、無理やりですがな。そもそもお嬢様が結婚前に一人暮らしを始めるとか親が黙ってないでしょうに。それこそやばい筋に関わったら強請りの材料にされたりして総務部が出動するような事態になりかねない。お金持ちって大変だ。なんだか話がずれたけど、いざ同棲生活を始めようとしたら、私もお嫁さん候補になるという人間がちらほら出てきて、美咲さんはそれなら彼女たちも招き入れて一緒に生活しましょうと言い出して、なりゆきで5人の嫁候補と賢治君の6人で共同生活を始めることになりましたとさ。TVチャンピオンかよ。MC中村はどこにいるんだ?
 そこから先は、あまり説明する必要はないですよね。萌えゲーなんだから見たまま感じたままに。ただ共同生活者+翔、樹のグループイベントが目立つ。その割に個別に入ってからの話が短い。キャラクターとの相性で得点は変わっていくでしょう。ヒロインの相性も肝心だけど、主人公もちょっと変わってる…というより空気系かな。口調がおかしいよね。堅苦しいのか、他人行儀なのか、そっけないっていうのか。会話してる相手との距離感がつかめない。にしてもヒロイン女子力高いね。なによりピュアさというか、生真面目さが目立っていて、いちゃラブなんてかわいらしいものじゃないよ、これ。かなりのピュアラブでしょう。量より質の典型で、もっと見たかったなと思わせるところがあった。結局一つの山を越えてエンディングってだけだからねえ。ただ共通ルート中にも「お昼は誰と食べる?」「今日は誰と帰る?」「寝る前に誰と会話する?」というような個別イベント分岐の選択肢もあるので(17箇所は五択+1か所は三択、ただし一部はイベント割愛も。それなりに多いほうだと思う)、ボリュームとしてはそこそこあるはず。まあ確かにこのぐらいの作品ならば昔からありそうだから…ありそうなんだけど、なかなか出会えない気も。一応本命は美咲っぽいように見えるけど、ストーリー上の共通項の多さから実際は仁美も本命のツートップ体制だと感じました。攻略順に関しては、特にどのようにやっても問題ないと思います。自分は美咲→ハル姉→サーシャさん→奈緒→仁美でクリアして、まあたぶん正解だったと思うんだけど、注意したいのは美咲と仁美のどっちを先にやるか、かな。というのも樹(ゴシップ少女)の立ち回りの問題があるからなんだけれども。この二人の話では樹が少し関わってくる。それとこれは深読みだろうけど、美咲ルート中に仁美が「私だって結構すごいんだから」「賢ちゃんが私をお嫁さんにしてくれたら教えてあげる」と書いてあるんで仁美のほうが後なのが正攻法なのかなと。キャラの人気はどうなるんだろうね、サーシャさんがやっぱり人気になりそうだよねえ。お話もサーシャさんが一番よかったかなあ。短かったのが残念なんだけどね。美咲の話は展開が粗いけど時間がなかったのかな。珍しいよね。ラストにかけて絵が崩れるってのはよくあるけど、今回は逆だもんね。

 で、ここから先は好き放題書いてるだけなんで、お時間のある方だけ読んでいただければと思います。

 美咲の話から始めるとして、まず気になったのはお嬢様ということを改めて印象付けるためなのか、古めかしい言葉遣いが目立つ。「抱く」「つながる」「結ばれる」。そもそも呼び方が賢治さんって完全に昼メロじゃん、ってツッコんでたら本当に昼メロ展開だったね。いや予想通りすぎてなんだかなあって思ったけど、ベタでいいや。政略結婚という現実に対して10年間抱き続けて来た恋。その狭間で揺れ動く心。賢治さんに嫌われるように、などと理由をこじつけて、なぜか機会を見つけては賢治にきつくあたる。けど嫌いだったらそもそも相手にしなければいいわけで、積極的にかかわろうとするのはなんだかんだで彼のことが気になってるから。彼女はとりわけ賢治にむかって「鈍感」という言葉を使っていたが、これこそが本心だったんだよね。彼女は桜の木の下でけじめをつけるために3か月間の同棲生活を画策したんだけど、やっぱり自分の気持ちに逆らえずに一線を越えてしまう。本当は自分はこんなことをしてはいけないのはわかってるけど、デートを重ねるうちに強くなる賢治の押しにとうとう自分を偽りきれなくなった。彼との関係が深くなるにつれ、幸福と絶望があざなえる縄のように深く強く絡まっていく。けれどもそんな美しい純愛とは裏腹に、無駄にスケベな展開が待ち受けていた。デレモードの美咲のあまりの変わりように賢治は樹に相談するのだが、それをデートと勘違いした美咲はすっかりご乱心。ヤケ酒の酔いに任せて縛りプレイで3発出させ、最後に賢治が復讐のアナルジャックで4発目を肛内発射。桜の季節に菊が満開!桜の季節に菊が満開!いやいろいろ間違ってるだろ。どうしてこうなったんだ。まあみさきちは見た感じドMだよな。普段から気を張って生活してるからその反動が出て、強く命令されたいんだよね。たまには誰かに自分を委ねてみたくなったりするんだろうね。そんなにまで好きあった仲なのに、家の決まりには逆らうことはできない。最後にもう一度、別れの思い出のしるしとして睦みあうんだけど、そのあと周りの助けを借りて、愛しの花嫁を無事奪還。賢治君マジ王子様。
 でも、ラストの話は分からんなあ。時々聞くんだけれど「死んだ人の分まで生きて幸せになる」なんてどんだけ都合のいい発想だよって思うよな。死んだ人の分まで生きるというのなら死んだ人のために生きるということにならないのか。死んでしまった人が生前果たそうとした夢や責任をそのまま承継することにならないのだろうか。そんなことを実践してたのは“あるぺじお”のりっくんだけだよ。自分を殺してでも死んだ人になりきらなきゃならないよね。まあね、もしもたまたま死んだ人間と生き残った人間の利害が一致しているのならば、自分の思いのままに生きることで死んだ人もあの世で喜んでくれてると思えるからいいんだけど、全く自分と関係ない人間の死を「死んだ人の分まで生きる」とかかっこつけて自己陶酔してる人間見てると反吐が出る。だいたい人の死を自分のドラマの材料にするとか失礼だよね。お前は俺のために死んでくれたんだ、ってか。わざわざいうことではないのかもしれないけど、もしも自分だったら「あなたが死んだところで誰も得しないんだから、すなわち死んだ人間にとってもプラスにならないんだから、あなたは死んだ人の悲しみ苦しみを忘れないで生きなさい」と言うだろうな。幸せって言葉はここでこだわる必要がない。まあ物語の構成上こじつけなければならないという事情が大いにあったんだろうけれども。
 同じように、禁断の恋の道を歩み始めようとしたのは奈緒ですね。恋は障害が多いほど燃えるというけど、障害が多ければ多いほど、二人の絆が強いものだと感じられるから、より「高級な」恋に思えてくるんだろうね。奈緒は兄妹だから結婚できないという考え方に納得がいかなかった。それならば、もしも私たちが兄妹という関係じゃなかったならば私のことを受け入れてくれたのか、ということになる。惹かれあった二人がたまたま兄妹であったというだけならば、この恋をあきらめるわけにはいかない。奈緒の話は展開させにくいから、芹香というキャラを登場させて事態の収拾を図った感がします。とはいえ、恋愛観を形式的な側面から見る賢治と、感覚的な面からとらえる女性陣の対照は見どころと言える。賢治からしてみれば、恋愛なんて男と女が出会い始めて、少しずつ仲良くなって…というようないわゆるテンプレートを基準に恋愛を考えるから奈緒の気持ちを受け止めるのに成功していない。奈緒との関係においても「だって兄妹だよ」、奈緒と芹香の関係においても「だって女同士だよ」って、いわゆる社会一般に通じている恋愛の規約に違反しているだけで「だから恋愛はできないよね」って結論付けてしまうんだけど、奈緒はじめ、女のほうはみんな「気持ちの問題でしょ!」と喝を入れている。恋愛において、気持ち以外の要素はまったく無価値なんですよ、と。気持ち以外のこと、たとえば社会の目とかそういうのを付き合えない根拠にしてほしくない、奈緒はきっとそう言いたかったんだろう。でも、きっと奈緒自身、恋愛は気持ち次第だって気づいたのは最近の話だったんじゃないかと思う。それまではやはり奈緒の中でも兄妹だからっていう一般観念にとらわれていた部分があったけど、ひたむきに自分の気持ちのままに進む芹香を見てるうちに、自分も何とかなるかもしれないって思うようになったんだろうな。それとこの話、うじうじして一歩先に進まない賢治に対する美咲の説教が泣ける。「そんなに自分を押し殺してでも―」これってまさに美咲のことなんだよね。美咲は十分自覚をしているだろうけど、それでも彼が幸せになる道を歩み始めようとしているのが少しだけほっとしているような感じでしょうか。
 賢治は奈緒と歩んでいく選択をしたのだけれど、それでも最後の一線を超えることをためらって、アナルセックスや素股によって性交渉を済ませていた。この描写がやけに生々しいと思うけど、でもほかの作品でも同じ描写があったから、最近のトレンドなのかもね。純潔をささげるというのはそれだけ大事なことなのか。賢治は何に対して抵抗を持っているのかな。妊娠することなのか、奈緒がキズモノになってしまうことなのか。おそらくは後者だと思うけど、つまり奈緒の純潔を奪う責任を取りきれないと思って怖じ気ついたということか。でもそうすると今度は「じゃあ奈緒以外なら責任とれるのか、あるいはキズモノにした責任とらなくておいいのか」っていうツッコミがすかさず入るよなあ。本番がラストの2ラウンドだけっていうのはいかがなものか。
 自分の気持ちに正直になることが何よりもの障害になった二人に対して、自分の気持ちを前面に押し出して夢へ向かって邁進するのが先輩。婚約者候補という概念が最も欠落している御仁である。というか、この人だけ結婚観がかなり異なっているのでしょうね。そもそも恋愛観という概念自体が頭の中の辞書に存在するのかどうか。結城君の婚約者候補になったのは、あくまで住まい確保が目当て。賢治に対する気持ちは「ライク以上ラブ未満」というやつよりもライク以上なのかどうかすら怪しいもので、単にそこそこ親しいというレベルだろう。その面を端的に表してるのが「結婚を拒否したいほど嫌いじゃない」という先輩の発言だと思う。立ってるものは親でも使い、目的のためには手段も選ばずというような積極的な彼女は、そもそも他人に対して好意を抱くということ自体があり得るのかどうか。他人よりも自己実現のほうに関心が集中していて、典型的な自立型の人間ですよね。うらやましいなあ。先輩は読書家でどんなジャンルの本でも読みこなすセンスがある。そこもうらやましいなあ、小説なんか何が楽しいのかさっぱりわからんからなあ。
 で、肝心の二人の関係はどう進展していくの、っていう話なんだけど、まあ先輩は自分がラブらブライドに参加していることを忘れているのか、自分が恋していることにはサーシャさんに指摘されてやっと気づく始末。なんだか矛盾してますよね、賢治さんに好意を持っていることがこの争奪戦の参加条件のはずなのに。結局、夕暮れの生徒会室で告白されるときまで、自分の気持ちに整理をつけていない状態。いや、ある意味人間として正しい姿なんですけどね。色恋沙汰にうつつを抜かしているよりも、自己実現に向かって努力していくというのは範とすべきものなのでしょうね。せっかく告白されたんだけど彼女はそれを容易に受け入れない。彼を好きでいることは間違いないけれど、それよりも夢を優先したい。だから彼の気持ちにこたえることはできないものだと考えたんですよね。それにどうして自分を好きになるのか、自分は彼を利用していただけなのに、と罪の意識さえ見せ始める。
 けどまあ、先輩は本当にそこまで自分を責める必要はないんですけどね。人間は利用しあって生きているんだし、それはお互い様ってことで、そのことに自覚的になれるかどうかが問題なのであって、「私はあなたを利用している」って言えるんなら問題ないんじゃないですかね。この場合賢治だって織り込み済みでしょ。逆に先輩の人の使い方に感心してるぐらいで悪い印象は全く持っていない。確かに生徒会の仕事を手伝ってもらうことが、先輩自身の評価アップにつながるから打算的な行動だとは言えるんだけど、だからと言ってそれがそこまで自己本位な行動には見えないですよね。わざわざ骨折って生徒会長になるのがさして合理的な行動には見えない。たとえば「アンパン買ってこいや」というのとは類が違う。先輩の場合は自分自身を律している姿が尊敬に値するから、使われる方も利用されることにさしていやだと感じないんでしょうね。(もちろんそれは人によるけれども。)
 夢に向かって一直線だった先輩だけど、恋人ができると途端に恋の楽しさ、愛してくれる人のいるうれしさを知ってしまい、人間が変わってしまうんですよね。けれど上手に甘えることもできないし、今まで自分のほうが上位に立ってきたから賢治は賢治でリードされるのを待つ展開になって、いわゆるお見合い状態になっている。そこはそこでカップルらしい形が出来上がっていくんだけど、恋人ができたことで先輩は夢をかなえることができなくなりかけていた。それでいったん離れるも、最後は無事にゴールイン。まあこの辺りは端折ってるから話としては微妙なんだけどね。
 美咲や先輩のようなタイプっていうのは、どうしても男からするととっつきにくい印象を与える。というのも、自分のことを受け入れてもらえるという自信がないことの裏返しがそうさせているんだよね。あまり人に対してソフトな姿勢を取ることができないタイプなんだよね。まさにツンデレの典型で、決して悪い人間でないどころか、かなりできた人間なんだよね。美咲に関しては特に相手のことを気遣う姿勢を見せる場面がそこかしこに見え隠れしていて、いわゆる素直じゃないやつなんですよね。なにより一番ありがたく感じるのは、はっきりした性格ではあるけれど、コミュニケーションを取ろうという姿勢があることだよね。「もしも反論があるなら言いなさい」というスタンスは取っている。これでは言い負かされるほうが悪い。そんな美咲や先輩に対して、対照的に仁美やサーシャさんはいかにも女性的な態度が自然にふるまえる人間で、そういう意味ではやっぱり恋愛や結婚が自然に映えてくる。だから別にそれは異性との関係に限らず、同性間においてもそれは同じなんだけれどもね。この二人の話はヒロインの葛藤よりも恋する女の子の日常を叙情性を交えてつづられているように感じられる。
 さて、この物語である意味一番結ばれてはいけないはずのサーシャさん。「美咲様が幸せになることが私の幸せですから」「僕が好きなのはサーシャさんなんだ!」「ファッ!?」いや、そうなるでしょ。しかし困ったことに魅力たっぷりなのもまた事実。順当に一番人気になりそうだ。美人で、優しくて、何でもできて、非の打ちどころなさすぎ。暗器使いのニオイもぷんぷん。そりゃまあこれだけスペック高けりゃねえ。思わず甘え倒したくなる。母性の強いタイプに弱いもんで。話に関しても、何のかかわりもないところから結ばれる二人ということで、比較的フツーの流れ。特徴として、お酒に詳しいらしい。本醸造、純米…なにがなんだか。日本酒って、とりあえず、のものもと天とまるさえわかってればいいんじゃないの。鬼殺しとかゴールドはちょっとなあ。今日の~仕事はつらかった~あ~とは~焼酎を、あおるだけ~…っつか日本酒飲んでて太らないのか?酒が入るとついつい本音というか隠し事をばらしてしまう。「賢治様、美咲様のことをよろしくお願いしますね。」…だから何を?ややエロハプが多く、そういう偶然の折り重なりが二人の距離を縮めていったということなのか。
 彼女の賢治への気持ちというのは、どのあたりで固まっていったのか。気にかかるのは、美咲が賢治とサーシャさんをくっつかせようとして訓練をさせる場面。サーシャは美咲の気持ちは当然わかっているはずだから、本来ならば「そんなことできません!」って言って拒否すべきなんだよね。でも、それをしなかった。これが少し不思議に映るんですよね。全く意識していなかったのか、すっとぼけて役得にあずかろうとしたのか。そしてあの夕立のシーンにつながるわけですよ。この作品の一番の見せ所でしょう。雨の中をぬれねずみになって歩き続ける賢治。それを見て同じく頭を冷やそうとしたサーシャさん。彼女の胸中はいかばかりか。どうしてだかわからないけれど、ほの温かい気持ちが心地よい。この雨が二人の境界を流し去ってくれればいい。このまま二人灰色の泥の海に埋もれて溶け合ってしまえばいい。控えめな彼女の見せたシグナルがなんとも切なく映る。
 彼女の弱点は極端なさびしがり屋であることだよね。彼女は「私は美咲様に依存していたんだと思う」って自己分析してるけど、ここが若干理解できないんですよね。やっぱり孤独に対して恐怖心があるというか、誰かのそばにいることで安心感を得ていたということかな。悪い表現しちゃえばかまってちゃんってことか。孤独から逃れるためについつい自分のことを意識から外してしまい、周りに流されやすい。ソフトな態度をとることには違和感がないが、自分を表現するのが苦手でどうも不満をため込みやすいんじゃないかと心配になる、それを象徴するのが遊園地でお弁当を作ってきたことを言い出せなかったエピソードですよね。二度目のエッチの時にもさびしがりやな面が表れていると思う。サーシャさんは「自分でもこんなにエッチだったなんて」と言っているけど、決して性欲が強いというわけではないと思うんだよね。エッチの目的は何なのさ?単に快楽を求めてるんなら犬でもナスでも構わないわけでしょ。でもそうじゃないでしょ、好きな人とじゃなきゃいやでしょ。それは多幸感や安らぎを求めてるわけであって、別に変態なわけではない。単にさびしがり屋なだけなんじゃないのって思うんだけどね。
 さあ、ラストはひっとんでしめくくるのがユーザーとして正しい姿だよね。いやわかんないけどさ、個人的にはこれが正解だった。この話終わった後に他の娘に乗り換える自信ないよ。幼馴染ってポジション的には圧倒的有利だっていうセールスポイントをしっかり生かしている。翔も言ってたけど、どうせなら小見川とくっついてほしいって、そりゃ第三者はみんなそう思うだろうよ。こんなにいいお嫁さん候補がいて何が不満なのさね。いやまあ、賢治君の「なんで俺?」っていう気持ちもよくわかるけど。
 今までは、どこか仁美も慢心している部分があったんだと思う。賢ちゃんは誰かに恋心を抱く様子がないから、このままいけばきっといつか思いは通じるはず。けれどもそこに待ったをかけたのが美咲さん。いきなり変わった状況に対する仁美の不安はよく伝わってくる。「今は本気じゃなくても、いつ本気になるかわからないじゃない」この部分に、彼女の気持ちの真剣さがうかがえる。これは後の話だけど、樹が「女の子っていうのは、子供だろうが大人だろうが恋に関しては本気だよ?」だから、ひっとんの恋はマジものなんだ。子供の時と比較するのはナンセンス。昔も今も変わっていないんだと。いやいや、本気っていうくくりで語れば誰だって本気だろうよ、問題はそれがどの程度の重さであるかであってだなあ。気移りしやすい人間か執着しやすい人間かによってそのあたりは変わってくるでしょうに。
 けど、おそらく彼女は軽い人間じゃない。仁美はずっと不安だったろうね。5人の嫁候補との同居生活。夏休みに入って海水浴に行って、覗き騒動の夜に海岸で出会う二人。仁美にとっても賢治にとってもこれは偶然で、同調した二人の行動に運命を感じてしまったり…というのはさすがに深読みしすぎか。けれど、怪我した自分をおぶってくれる賢ちゃんの優しさで改めて自分の気持ちを確認したのは間違いない。手を伸ばせば届きそうな恋に、より一層気持ちを焦がしていく。けど個人的に仁美の話は、賢治が自分の気持ちに気づく部分が不満。まあ奈緒の話で使っちゃってるから使えないのかもしれないけど、ここはやっぱり仁美が誰かに言い寄られてる系の話で賢治に不安をあおって気づかせるほうがよかったと思うんだけどな。「仁美を誰かにとられてもいいの?」そう言われて観念した賢治が「やっぱりお前と離れたくない!」そっちのほうが納得がいくというか、これじゃあ賢治があまりにも頭悪すぎだろ。賢治の立場からすれば実感がわかないということがあるだろうが。それと翔に指摘されてからの賢治の変わりぶりはおかしな上に、わからなかったのはそのあと「仁美のことを意識しないように」という態度をとるんだよね。それはどうして?自分の気持ちに整理をつけるためなのでしょうか。
 あと、2度目のエッチの流れがおかしすぎだよね。どうしてわざわざ隠しやすい話を隠さないのか。部屋が空いていたって、そりゃ奈緒の部屋から光が漏れてたとかいくらでも言い訳できるよな。なにも「お前のオナヌーを眺めていた」はねえだろう。それで、どうせなら見せ合いっこするんですね。いや、あのさ、おもっきしどっかであった展開だよなこれ。そんなに新奇性が認められるものではないからたまたまダブったってことも十二分に考えられるけど、うーん。しかしこのシーンはマジでエロい。画面の中のひっとんに向かってぶっかけるかのような主観エロ。そのあと制服に着替えて前と後ろに一発ずつ。幼馴染は初めてのお尻でイっちゃうド変態でした。そして賢治君はオナヌー中の仁美をオカズにした件は棺の中にまで持っていく覚悟なんですねわかります。それにしても、なぜひっとんはオナヌー中に実況口調なのか。女の子は皆そうなのか。
 きゃっきゃうふふな青春のさなか、仁美の側でトラブルが発生。これが彼女の話のラストにつながっていく。仁美の話はラストシーンが見せ所にしては微妙なような。「仁美がほしかったのはそんな現実的な言葉じゃなくて、」つまり最初の段階で、賢治が「僕だって絶対に離したくないけど…」という一言を言えば、それの時点で問題は解決されていたってことなのか。そう考えるとこの話は茶番に思えてくるなあ。樹は賢治に対して「かっこつけずに本心を伝えろ」と言ってたけど、別にこれはかっこつけてたわけではないと思うな。プライドの高さが「俺がお前を守ってやる」と言わせなかったって思ってるわけ?そんなこと言わせんな恥ずかしいってこと?そうじゃなくて、彼女のことを守る自信がないから空約束はできないと思って守ってやるとまで言えなかったんでしょ。けどまあ、引き留めてくれるはずの言葉がなかったひっとんの不安もわかるような気がする。結ばれてからの日々が夢のように楽しくて、でも楽しすぎるからこそ夢なんじゃないか、嘘なんじゃないかって疑心暗鬼になってしまう。嘘というのは賢治が役を演じただけじゃないかということ。賢治がそんなことして何の得になるのかとか、そういう理屈抜きで単純に「嘘」なんじゃないかって考えてしまうんでしょうね。嘘だって決めつけたほうが、本当か嘘かわからない状態よりも仁美にとっては楽になれる。簡単に言えば、仁美は賢ちゃんを信じきれなかった。信じきれるほど強くなかった。けれど最後は、賢ちゃんがあの約束した場所を思い出してくれてプロポーズ。めでたしめでたし。にしてもラストまたこのパターンかよ。何度目だよ。
 あと本編とは全然関係ないエピソードだけど、「料理はただ食べてもらう人に喜んでもらうために…」のくだりはどういうことが言いたいのか。要は自己顕示でやってはいけないですよということですかね。食べる人間のことを考えながら作りなさい。それはさらに踏み込んでいえば、食べる人間の好みやその人の気分に合わせてメニューや味付けを考えなさいということだろうか。そこまでできるとしたら相当なプロだよな。年収300万から400万のお前らじゃ食わせてもらえないぞ、きっと。まあでも、レシピサイトのうざさはガチ。完全にエンジン荒らしだよな。自分で自分の作ったものをうまいとかよう言うわ。そういうやつが将来姑になって嫁をいびり散らしてノイローゼに追い込んだりするんだろうな。「誰だよこんなの作ったの?」「出て来い!」「旭化成(はぁと)」…それは微妙に違う。
 お話は各編短いものの示唆的な内容に富んでいて、あっさり読み過ごしているとあんまりおもしろく感じられない。見た目以上にコンパクトに詰まっていて濃い内容の作品かと思うけど、結局人の気持ちに関心が行くタイプじゃないと楽しくないだろうから、なんていうか、男性向けじゃなさそう。確かに、全部「だから何?」って言われたらそれまでなんですよね。それと全部ベタのオンパレードやんって言われたら何も言えないんだよなあ。訴求対象がだいぶ狭いだろうなあ。自分は得意分野だからなおさら鬱になる。さあ、5人の嫁候補との楽しい生活で誰にチャンピオンに輝くのか、って選べるかよこんなの。いやあえてここは翔を選ぶ選択肢を取りたいな。それは冗談にしても翔がいいやつ過ぎて泣けた。ここまで都合のいい友人でいいのかよ。なんだか見てて不安になってくるぞ。本当にただの厚意なのか、賢治に対して好意を抱いているんじゃないのか?単なる友達がここまでしてくれるものなのか?しかし翔はバイクが趣味なのね。偶然にも汚れた英雄のテーマを聞きながらこれ書いてたりする。微妙に古くてすんません。だってこの作品見てたらなんとなくそのあたりの時代背景にあってそうな気がしたんだもん。脱線して悪いですが、80年代っていうのは虚構の世界が一般化されていながらもまだ男性が主役の時代でしたよね。それが90年代になって一気に女性主義が強まった感じがする。まあ消費の主体が男性から女性に変遷していったことが反映されているのだろうでしょうけどね。
 絵もきれいだった。ああ、きれいだった。しかし一部のキャラデザ…まあ勘ぐりすぎか。まあ絵に関する評価っていうのはいつも書かなきゃいけないなあと思いつつ、言葉が見つからなくて困る。料理と絵は似たようなもので作るほうは時間かけるけど、消費するのは一瞬ですからね。ただ絵の場合は残るからできるだけ味わおうとすればできないこともないんだけど。とりあえず、SD絵がボンバーマンすぎる件はなんでなのかと小一時間問い詰めたい。あと、立ち絵や一枚絵だけれども、最後までよくできてたよね。完成度やあたら高い。美咲のラストの奪還の絵とか、ひっとんの部屋でのファーストキスの絵とかマジで萌えるなあ。名シーンを演出してるよね。トイレシーンのようなハプエロみたいな絵よりそういうラブラブ感を演出する絵を求めるのはあくまで異端派の意見か。あとは奈緒の絵かな。旅行先で一緒に寝てるシーンとかかわゆす。あまり詳しいわけではないからあれだけど、鷹乃&武藤のコンビって聞いて、合わせられるのか?という疑問があったんだけど、普通に合ってましたね。ただこの絵柄はあまりにもリアル寄り。こういう学園ものでは抜群に力を発揮するけど、ファンタジーものとかどうなるんだろうか?それはそれで見てみたい気もするけど。
 得点は、これでも一応抑えたつもりなんですよ。本当の評価はこの感想見て各自想像していただければと思います。よくやったサーカス、じゃなかったチュアブル。末筆ながら今後のご健康とご活躍を心よりお祈りしています。いや、機会があればやってみたいんだけどね。