得点は甘め。舞白の話はそこそこ丁寧に、依吹、あやめの話はやや少なめ。佳奈香はおまけのおまけ。先生は攻略不可でそもそも要らん子すぎる。低予算臭プンプンでミドルプライスでもどうかというクオリティだが、BGMも良く、素朴で落ち着いた雰囲気を楽しみたい人ならばプレイしてもいいのかな。主人公はクセが強い。シナリオはぶつ切り、魔法や科学というよりは夢に向かって悩み続ける少年少女の物語。ただ予想以上に哲学めいててちぃとばかし難解。テキストも冗長なのがネックだが、下ネタで笑わすことなく、嫌味な感じなくうんちくを織り交ぜてて、文章力も感じられる。しかしグダグダ感半端ない。初回版サントラ付。画像はフルスクリーンで粗くなるうえ、これハイカラー?いろいろと懐かしい感じのゲームだ。対象年齢高めってことですかね。
まず思ったのだけれど、ふーりんゲーみたいな書き込みを見かけたのですが、声に関しては、依吹役の香山さんのほうがむしろ良いぐらいなんじゃないかな。この方は別名義で有名な人なのですかね?プレイしてて「なんじゃこりゃあっ!」ってびっくりするぐらいでしたけどね。もちろんいい意味で。ただエロボイスが微妙か。それにほかの方が指摘されている通り、テキスト抜かしてアドリブで進めちゃってる部分がある。この辺りは課題になりそう。全体を見ると、ふーりんボイスはさすがに一日の長があるという感じだけれども、その他の人の声は全体的にキャラ作りはできても声量調整とかがまだ十分でない印象。収録環境とかよく知らないから何とも言えませんが。ただ、康太役の人は序盤ガタガタだったのを中盤までに完全にペースをつかんできて良く立て直してきた。これはこれでビックリだった。
BGMはピアノ系主体。薄味なゲームの雰囲気に優しい旋律がよく馴染んでて和みます。透明感のあるメロディが秋のさわやかな感じを演出しています。舞台は夏らしいが、夏っぽさはまるでないもので秋だと脳内確定してしまっている。あと走り出す効果音がなつい。久しぶりに聞いた感じ。
さて、お話なのですが、デモから言葉を引用してきましょうか。
叶えないといけない―ではなく、いつか叶う―でもない。夢っていうのは、そういう物だと思うから。
おそらくこれがメインテーマなのでしょうかね。この言葉をどう受け止めればいいのか、物語を読み終えた今も、悩み続けています。「夢っていうのは『そういう物』」…そういう物ってどういう物?叶えようとしても必ずしもうまくいくものではない、叶うとしたら偶然の産物であるとかそういうことだろうか?この言葉の答えを見つけながら物語を進めていくのが面白いのだろうけど、エンディングが中途半端で、わからないですねえ。そこでパッケージの裏を見たり、主題歌「あさがお」を聞いてみると、どうも、夢というのは必ず叶う物じゃないし、抱いている夢の内容自体が本当に自分が望んでいるものとは違っているのかもしれないけれど、夢に向かって努力すること自体に意味があるんだよ、というようにも解される。あさがお…ね、夢に向かって頑張りながら悩みぬく成長物語だったということか。
物語のあらすじは、魔法部と科学部という廃部危機にある二つの部活がありました。主人公は、科学部に所属する幼馴染の依吹の力になるために科学部に入りました。しかも同じ時期に同じ学園に通う舞白が魔法を使っているところを見ちゃいました。そんなら舞白も抱き込んじゃおうぜー。そして部活を通じて、魔法と向き合ってみようぜー、といった感じか。じつは主人公・司のお母さんも魔法使いであって、司自身も魔法に関心を抱いている。だからある意味で、今回の魔法部と科学部の合併の折に科学部に入部するのは司にとっても渡りに船というわけだったりする。部活動の内容もヒロインとの交流もそれなりのものですが、味付けがうすいなあ。魔法という変わった要素を含む中での等身大の少年少女の交流を楽しむという意味ではこれでいいのかもしれない。舞白の話は主人公のお母さんの話ともかかわってくるみたいだけど、実際のところどうだったんだっけ?ぽつぽつ伏線があるように思われるので、興味のある方は確かめてくださいまし。(※パッケージの裏を見る限り、魔法部と科学部が対決して負けたほうは廃部になるという設定みたいだけど、ゲーム中にこんなシーンあったかなあ?)
さて、物語となるカギの「魔法」。その存在を肯定し、皆を幸せにしようとする舞白。魔法を否定するために研究する科学部のあやめ。魔法という存在を中心に、キャラクターの物語は開かれていきます。で、個別について、ちょろちょろと書いときます。佳奈香については印象薄すぎて書けない。
舞白の話は舞白の気持ちを確かめるもの。魔法というのは人を幸せにするという議題に対し、そもそも人を幸せにするってどういうことか、幸せってなんだろうか、という話になってくる。優しい気持ちを持つ魔法使いの彼女は、人助けをしたいと思って便利屋仕事に精を出す。主人公と二人で部活動を進めていくうち、いろいろと悩みだして、魔法が使えなくなってしまうアクシデントに見舞われたりと苦労した末に結論を出す。結論というのは、うまく説明できないんだけど、魔法をもってしても他人を幸せにすることはできない。言い方を変えれば、人を幸せに「させる」ことはできない。舞白がいくら誰かを幸せにしようとしても、幸せに感じるかどうかはその人自身の気持ちの問題だから。魔法という観点を用いた解答を与えるならば、魔法は優しい気持ちがあって初めて唱えることができる。けれど、優しい気持ちがあるならば、人に幸せを押し付けるなんてことはできない。ゆえに人を幸せにさせる魔法なんて言うのは存在しない。二つの解答は明らかにニュアンスが違っていてどっちがより物語の趣旨に近いのかはわかりませんが。ただ、他人を幸せにするために、自分が幸せになってはいけないというのはよくわからなかった。なんで自分が幸せになってはいけないんだろうね?この感覚がわからんなあ。個人的な話だけど、舞白のキャラがめちゃくちゃ気に入ってしまった。アダルトな想像力が豊富なおバカさんかと思いきや、世間を見る目が厳しいというか、かなりのネガティブ志向で微妙に屈折してる感じが好きだわ。何かあったんかこの子は。話としても、イチャラブ要素とシリアス要素がいい塩梅で混ざっている。
依吹に関しては、オルゴールにまつわるちょっとしたハートフル物語。これは、物語をそのまま見ていっていただければ依吹の気持ちが伝わってええ話やなあ、と思えるので細かい説明は省略。まあたぶん、ねこねこ系だね。絵見りゃ当たり前だろ!って突っ込まれるだろうけど。
あやめの話は、科学にまつわる話。科学といっても、どうやら人工知能に関わるものらしい。チューリングテストとか、中国語の部屋とか、マルコフモデルとか、専門用語がちらりちらり。でもうんちくレベルにすぎず、科学談義としてはしょぼすぎるものだと思う。それに話の途中にトランプゲームをやって最適な戦略を説明したり、そのあたりはちょっと面白い。彼女の科学を研究する理由は過去のエピソードと関係があって、主人公はあやめの手助けをする立場となって関わりを深めていく。で、最後は使えなかった魔法が使えるようになるんだよね。きっと自分の気持ちに素直に向き合えるようになったからということだと思う。魔法なんかに頼りたくないって思ってたんだけど、キーホルダーが手から離れたとき、魔法を使ってでも失いたくない気持ちが先に立った。それが奇跡を起こしたのでしょう。それと余談だけど、あやめの人間不信なところは同志のにおいを感じたわ。他人との関係をどうしても悪い方向に考えるというか、まず人は自分を嫌っているという前提で物事を考えてしまうんですよね。そこからだんだん、人からは嫌われていたい、そっちのほうが気が楽だ、という考えに変わっていって、終いにゃ自分から人を避けるようになる。司も舞白に似たようなこと指摘されていたけど、これは本当にそう。人と関わると気が重くなるんですよね。表向きこうしてにこにこしながら向かい合ってるけど、本音は違うんだろ?嫌ってるんだろ?馬鹿にしてるんだろ?…そういうのって、本当に嫌われているかどうか悩むより、相手に嫌われているって決めつけちゃったほうが悩まないで済む分楽なんですよね。それで結局孤独になっていく。間違っているという自覚はあっても直せないんだよね。
物語全体を眺めて、話を象徴しているのは、あやめが語る「聞くは一時の恥というが、まさにその場凌ぎでの理解でしかない。重要なのは自分との齟齬を理解することだ。」「理解できる、その結果が同じだとしても、過程が異なればそれ以降の問題に対しても自然とスタンスが変わってくる」「どんな結果になろうと…たとえ同じ結果にたどりつたとしても、自ら進む道を選べるからこそ意味がある。進もうと努力する意思も同じくらい大切なんだ」という言葉かと。人から与えられた幸せと、自分でつかんだ幸せは違う。魔法という存在は人を幸せにするきっかけを作るだけのことしかできない。本当の幸せは、幸せになりたい本人にしかつかめない。ここで「幸せ」という言葉を「夢」に置き換えると、冒頭の記述とかぶってくるのでしょう。魔法というのは一見するとものすごいことなのかもしれないけど、人の心は魔法をも凌駕する大切なものなんだ。なんだか美しすぎるけどね。でもこういうことなのかなって思う。
昨今ポジティブな作品が多くみられる中で(ひょっとしたら個人的にプレイしているものだけがそうなのかもしれないが)、この作品のようにある種の「悩み」をテーマにした作品というのは珍しい。人が死ぬというような重い要素は極力抑えて、地味ながらも味わい深い仕上がり。一見すると凡百の作品に思えるけど、彼女たちの悩みに向き合って考えれば深みが出てくる。どうでもいいことで悩んでんじゃねえよ!って言われそうだけど、他愛のないことで悩んで考えてというセンチメンタルな青春物語としてこういうの好きです。低予算でも(勝手に決めつけて悪いが)それなりのものが作れるんだなっていうことを教えてくれる作品でした。得点は悩みました。フルプライスにしては、明らかに出来として不十分でしょうけどね。もしも安くて、佳奈香ルートはないものと割り切れれば、あと1、2ランクぐらい上げていい出来だと思います。あまり期待してなかったけど、終わってみればなかなかだなって思いました。ほんとうに序盤の共通のグダグダさえなければなあというのが本当に悔やまれる作品。クリアブルーコミュニケーション、そう名乗るんならもうちょっとクリアにしてくれよと突っ込んで批評を終わらせていただきます。