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アナトールさんの少女神域∽少女天獄 -The Garden of Fifth Zoa-の長文感想

ユーザー
アナトール
ゲーム
少女神域∽少女天獄 -The Garden of Fifth Zoa-
ブランド
Lass
得点
91
参照数
1683

一言コメント

考察の余地あり…っていうかありすぎだろ。忙しいあなたには確実に向かない作品だけど(複周回プレイ推奨)、いろいろ考えてみたい人にはお勧めかも。最後まで明かされていない部分があって、そこは自己補完すべきなのか。専門知識ないと苦しいです。全然わかんなかった。物語全体として構成バランスがおかしかったり、絵のばらつきが許容しがたいレベルであったり(おまけに立絵の表情の書き方がギャグ仕様)、主人公がやたらとやられ役だったり、肝心要の祭りの描写がほとんどなかったり、致命的な欠点もいくつかあるものの、読み物としては十分に面白いし、雰囲気作りもよくできていると思います。でもエロの感じから言ってアニメ化前提なんすかね?あと女性視点強すぎるのもどうなのか。(※長文はネタバレしまくっています。)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

<登場人物>
澳城(オクシロ)家…広常(ヒロノブ…迪希の祖父、岩坂とか刀禰様とかとも呼ばれているのはこの人)、小町(コマチ…迪希の母)、迪希(ユキ)、楫取(カトリ…侍者、広常とは旧知の仲)、真壁(マカベ…侍者)

道陵(ミチオカ)家…得子(トクコ…愛莉の母)、義澄(ヨシズミ…愛莉の父、故人)、義明(ヨシアキ…得子の弟、愛莉の叔父、恂の主治医)、愛莉(アイリ)、三淵(ミブチ…侍者)、枚岡(ヒラオカ…侍者)

壟峯(ツカミネ)家…時子(トキコ…碧織の祖母、刀自さまと呼ばれているのはこの人)、胤正(カズマサ…碧織の父)、碧織(ミオリ)、武部(タケベ…使者)、苅屋(カリヤ…侍者)

稜祇(タカギ)家…元(ゲン、恂の祖父、故人)、和泉(イズミ、恂の祖母、故人)、衡(コウ、恂の父、故人)、栄花(エイカ、恂の母、菩乃花の親友、故人)、恂(シュン)、祥那(サナ、恂の妹)

水原(ミズハラ)家…融

<呪いに対する各人の考え方…あってるか自信ない>

(澳城サイド)広常…主人公の祖父であたる元が亡くなる際の星鴻祭を直に経験している。この呪いを断ち切り、佳城に呪いなき未来をもたらすことを自らの使命と感じている。彼は、自らの友であり、怪物になる前に自死を選択した元のためにも、自らも彼の苦しみを背負って生きていき、彼のような「怪物」となって恨まれながらも、命と引き換えにこの忌まわしき運命の軛を断ち切ることを望んでいる。(つまり、恂とともに刺し違えて己の命を差し出すことで元に償いたいと考えている。それこそが彼の言う「私の夢」であろう。)それとともに、呪いなき未来には、石壁を解放し、都市開発を進めていこうとも考えている。また、呪いの根源をなす壟峯家は排除したほうがいいという方針である。

(道陵サイド)得子…前回の星鴻祭で彼女は夫を亡くしている。連れ添ったのはわずか2年。しかし、それでも彼女は自らの娘の幸せを願って、正しいと思える道、夫が望んでいると信じる道を進む。つまりそれは、澳城の家と組んで、この伝説から解放されること。恂を最後の生贄にして、佳城に憂いなき未来をもたらすことである。

(壟峯サイド)胤正…壟峯家はもともと佳城に根付いた一族であり、石の呪いから解放されるときまで、呪いの継承者を屠ることを自らの使命と受け止めている。そのしきたりどおりに恂の父親である衡を彼自身が殺している。だから彼らは今回の星鴻祭においても、恂が石の呪いを受け継ぐかどうかを最後の最後まで見守り、もしも呪いの影響から怪物になってしまったのならばその時はやむなく彼を斬ろうという考え方を持っている。それはまた恂は先祖のようになってほしくないと願っている、ならないものだと期待してる、とも解釈できる。それゆえ、祭りそれ自体をなくそうと考えている澳城とは対立関係にある。

(稜祇サイド)菩乃花…主人公の母親の栄花は菩乃花の無二の親友であり、二人でつるんで各所へ探検しに走り回った。彼女の結婚を機にコンビは解消されたものの、いつまでも彼女の味方でいようと誓った。栄花亡き今、自分が彼女の代わりとして、恂が怪物となってしまう星鴻祭までになんとか主人公の呪いを解く方法を見つけ出そうと必死に伝説を調べていた。

(独自サイド)義明(主治医)や融(親友)は何とかして時間を引き延ばして、恂の生きる道を見つけてやりたいと思っている(はず…自信がない)。彼らは恂や祥那を海から脱出させようと試みていた。恂が佳城からいなくなってしまえば、佳城に災厄がもたらされる(あるいは佳城は滅びてしまう?)かもしれないが、それはそれで仕方がないことだと思っている。

ヒロインたち…祥那以外のヒロインはどうやら星鴻祭で何が行われるか知っているようだ。碧織の態度からして、今回の星鴻祭の前後で事実を知ったように思われる。もちろん恂が死ななければならないということに快い気持ちは持っておらず、各人なりの思惑はあるようだ。使命を使命を受け止めあきらめる人、運命に何とか抗ってみようと試みるもの。人それぞれ。

<回顧、感想>
 やたらともったいぶった言い回しをするので、一週目では伝説全体を把握するのに骨が折れそう。慣れてる人や賢い人なら問題ないのでしょうが、難解というか複雑な構成です。背景設定が深く、難しい漢字も多用されているのですが、本質的な部分の設定が最後まで説明がなされていない感じで消化不良。祭りや呪い、専門知識がないと理解ができないんじゃないのかなあ、個々の要素が何のたとえなのか全くわからんよ。このままでは作品が首のない生き物のような薄気味悪さ。
 ただ、作中でも菩乃花さんが歴史の一つを諸教混淆と言い、恂も「佳城の伝説も同じだ。整備されて、まとまったように見える伝説や祭事の中にも記されていない様々なものがあった。しかし、そうと説明されないうちにどうしても矛盾したものや異質なものが、見え隠れしていた。」このあたりの記述から考えると、作者もすべてを説明しないで「記されていないもの」を穿ってみながら物語を読み進めてほしい、そう願っているのかもしれません。(もっとも、この文章は文脈から見て、歴史を大義名分として恣意的に利用している人間がいることをほのめかしているのでしょうが。)
 それ以外にも、石の呪いの話とか、薬の話とか、再開発の話とか、石壁の持つ能力とか、古玉ってなんなの?菩乃花さんが記していた夢の話は何の意図があるの?とか受け継いできた「火」ってなんなの?広常はこの代で終わりにするとか言ってたけど、呪いを解く方法ってなんだったの?(恂が子供を作らないで血を絶やせば、呪いも封印される?)などなど、はてなマークが次々出てきて疲れるだわさ。よくわからない部分は自らで保管していくのもユーザーの役目かもしれませんね。読み落としもあるのだろうけどね、んー、どうなんでしょ。
 どうも広常じいちゃんは前回の祭りの時も呪いを鎮めようと試みて失敗しているようですね。恂の夢の中で、栄花が恂を背負って逃げるシーンがあるけど、あそこで衡も恂も殺してしまえばいいじゃんと考えていたみたい。そうすれば呪いはすべて封印されるのかな?よくわからないですが。
 前回の祭りで無念にも失敗した広常は今回も同じく、恂を童貞のまま殺すことで、呪いを断ち切ろうとしたのかな。そのための駒として、葵を用いたんだよね。彼女に薬を与えて恂に飲ませていた。恂は葵との会話で「薬膳料理でも作ってるの?」と見当はずれな会話をしているが、これに対して葵は「体調の悪い妹がいて…」とかわけわからん嘘をつく。(これ、ほんとの話なのかな?妹がいること自体は本当らしいが。)もちろんこの辺りは道陵の義明先生は感づいていて、「そのぐらいの量なら問題ない」って判断を下していたようだけれど。
 葵は結局使命を果たそうとして死んじゃうんだよね。真壁さんは彼女の使命は「壟峯」に殺されることだ、って言ってるけど、要は壟峯を追いやる理由がほしかったってことなんでしょうね。この辺りは力尽きてよく読み切れてない。それで、澳城は壟峯に難癖をつけて、祭事の場所から外して、呪いの連鎖を断ち切ろうとした。(繰り返してごめんなさい、頭の中で整理できてない。)前回のドンパチを見ると、ちょっと解釈を飛躍させると、壟峯はなんとかして、呪いを残そうとしているのですかね、やっぱり。稜祇家は災厄を持っている一族であるが、それでもその一族を潰えさせることが非人道的だっていう考え方なんでしょうか。そのポリシーの部分がうまく納得できないですよね。
 祭の真の意味は融も葵もよくわかっていた。だから自分に対するはなむけとして葵は恂とのお茶を楽しみ、融は学園時代になじみであった食堂で思い出の日々をしのんだ。融は警察の子であるが、水原家は澳城サイドについているので、融も稜祇家をつぶす側につかなければならない。まあ警察ですからね、政治家などの権力者を支持しなければならないという構図は当然のことですよね。警察ってのも難儀な仕事だよねえ。でも、融個人の思いは別。やはり親友には生きてもらいたい。だから徹底的に自分なりの行動をとっていた。(それにしてもこれを言ったらきりがないんだけど、融は恂の親友なのに、澳城は平気で彼に仕事を与えてるんですよね。任務より人情を優先させて謀ったりすることは考えなかったんだろうか。)
 それで、広常の計画通り恂が目覚めちゃうんですよね。薬のせいかどうかはわからないけど、おそらく薬には、恂の覚醒を促す要素があるというように想定したのですが、主治医の義明先生の話だと、ただの毒薬かもしれない。毒殺するならば、呪いはどこかへ消えていくのか。これに対する具体的な記述が見つからない。そのような薬なのか、伝説とどのようなかかわりがあるのか、自分で補完しなさいってこと?その祭りの前からきゃっきゃうふふな展開が始まってるけど、まあ恋愛模様は無視しよう。
 で、祭の前に祥那がさらわれちゃうんですよね。祥那は「淡島さま」ということらしい。泡姫みたいで卑猥な響きだが、たぶんいやらしい意味はないはず。彼女をさらった理由がわからないが、融は祥那を殺せと命令されている。やはり呪いの一族だから殺すということなのだろうか。
 同時に、若宮様の荒魂をお返しするとか何とかで、殺されかけてしまう。ぎりぎりで菩乃花さんが来てくれて助かったんだけど、続いて町の中での全面戦争が始まってしまう。どさくさに紛れて融は祥那を救出し、剣と古玉を渡した。この行為の意味はなんなのか?
 菩乃花さん達は最後は石壁の向こうに逃げようとしたのだが、得子が石壁を発動したせいで、壁自体が燃え盛って逃げられないようになっていた。
 全体を回顧すると、呪いなんてものは存在しないと思っていた人も多いみたいなんですよね。でも、衡が化け物になっている姿を見ている人間だって多いわけだし、存在を認めていないとは考えにくい。元に道陵の氏子なんかも「石」の影響を知っていたみたい。
 石の影響というのは、どうも石壁の中にいる人々を化け物に変えてしまうことらしいですね。つまりみんな人の形をなくしてしまう。祥那エンドのラストで菩乃花さんは石について、唯一神に許された救うために反逆するものの歌を引用している。「形を崩し、音も光も投げ捨て、熱と光を失う―最後に残るのは、不安と流れと願望」「楽園を享受しないものへ、麦を啄ませしもの―石は命なり、命なり、命なり」。どういう意味なんだよ、わかんねえよ。石の力によってすべては形を崩して不安と流れと願望と、あやふやな形になってしまうということなのか。流れという言葉は、水を意味する?
 菩乃花さんのノートに、「水は己の流れに逆らうには、蒸気となるしかない。水は火に触れるしかない―浄化だ。」とあり、流れる水のようにしか生きられないよう運命づけられた佳城の人々にあらがう唯一の存在が、稜祇家が受け継いできた命の火なのだろう。あれ、稜祇家ってもともと寒河江家だったんだっけ?栄花と菩乃花が知り合ったのは東北のY県S市。これって寒河江でいいのか?なんかの伏線なのかなあ。よくわからん。
 石の力を倒すには古玉が必要みたいですね。宝剣と古玉っていう組み合わせが石を封印するための道具としてある。この剣に関しては、恂の見た夢の中で、言い伝えが語られていますよね。5つの経典を投げ捨てた男が化け物になり、その化け物を石にして封印した男の話が次に出てくる。その化け物を封印した男が持っていたのが、佳城の四家に代々伝わる宝剣だということであろう。もう一つの夢で、若者が宝剣をもって洞窟へ向かう場面が出て来る。このゲームのパッケージの裏に書いてあるあらすじの中に「この石を、命をかけて封印した若き侍がおり―」とあるので、この洞窟へ向かうところは、おそらくは命と引き換えに石の封印をしに行く場面なんでしょうね。
 ところで、この恂の見た「夢」なんですが、この正体は恂の中にあるもう一つの人格、あるいは恂が父から受け継いだ命の火が持っている記憶と考えるべきなんでしょうか。これを薬によって制御してきた?よくわからないですが、単なる夢じゃなさそうですよね。祥那エンドでも「お兄ちゃんの夢だけど、お兄ちゃんじゃない」って言ってるのはおそらくこのことですよね。
 それで、その洞窟ですよね、祥那エンドで、すなわちグランドエンドではここが終点となっていますよね。あのわけわからんグランドエンド。ほかのエンドと違って、このエンドでは(※追加部分 ほかのエンドと異なり、どちらのエンドを選んだにせよ、)みんな石の呪いにかかっちゃうんですよね。(ほかのエンドではバッドエンドを選んだ場合のみ佳城のみんなが石の呪いにかかる設定になっていて、グッドエンドを選べば、呪いは恂の代においてはかからない格好になる。)怪物を倒すのが間に合わなくて石の暴走を止められなかったということでしょうかね。でも、祥那だけは何ともなかった。これは、命の火を受け継いだからなのか、それとも洞窟に行ったからなのか。彼女は最後洞窟の中で、ずっとずっと助けを待っていたみたいですが、それにしても祥那ちゃんは死なないのです。これも命の火の影響なのか、彼女がすでにただの人間でなくなっているということですよね。あるいは生まれた時から普通でなかったのかもしれないですけど。最後は眠り続けて…どうなったんでしょうねえ。お母さんになる。お母さんになる?何のたとえなんだろうなあ。おそらくは、お母さんになる痛み、これもまた受け継いできた命の火の影響なのかなと思いますが、んーと、命の火ってなんなのかなあってより踏み込んで考える必要がありそうですね。
 エンディングテーマ聞けば、千年の時を超えて(はっさくかよ)、受け継がれてきた想い、それが最後にかなった、と解釈すればよろしいのでしょうかね。命の火っていうのは、初めて石を封印した皇子の願いであり、それは永遠に呪いを封印すること、かな。もっと伝説の由来を突き詰めていけば、このあたりの話は詳しくわかってくると思うけど、ごめん自分の頭じゃこれが限界。
 皇子は祥那に「いつかは現実を知らなければならない」と書いてあるが、現実って何のことよ?まさか、それこそはっさくのごとく世界が変わった系の話なのか?祥那は別の世界にジャンプしたとか。洞窟での会話の最後に「祥那の体は空から落ちていくような、それでいて、どんどん空へ飛びあがっていくような、よくわからない心地になった」って書いてあるから、そういう考え方がすっきりすると思うのですが。んで、最後にお兄ちゃんにあえてめでたしめでたし。んん、なんか間違ってるような。 
 物語の解釈の仕方はたくさんあるんでしょうねえ。ここまではひたすら伝説について考えてみました。ここからは伝説に対して各人物がどう思っていたのかを書き留めてみたいと思います。
 と、その前に、ちょっと注意しておきたいなあ、と個人的に感じたことなんですけど、そもそも物語ってどういう楽しみ方があるのってちょっと記しておきたい。この作品は、ある種基本的というか、勿体つけて謎を置いて、プレイヤーにその部分を想像させて前半を終え、すべてがわかってくるころには、今度はそこにあるわかりきった真実に向いて気持ちを高ぶらせ、カタルシスを得ようとさせている。別によくあるパターンって考えていいですよね。でもね、カタルシスって得られますかって聞かれたときに困ると思うんですよ。なんでかって言ったら、この作品、女性視点が非常に強いんですよね。迪希の「女の子は守られてばっかりじゃなくて」とか、時子の「男はどぎついもん見せられるとそうなるらしいねえ、女は違うけど」とか、なぜそう女性的視点から語るのさね。
 もしもこの物語をカタルシスを得ようとしてみるのならば、大人視点で見たほうがしっくりくるんですよね。小町さんがすごく印象に残ったなあ。昔の自分を思い出しながら、迪希と恂の恋愛模様を眺めている。当然ながら、彼女は恂に昔の衡を重ねているんですよね。だから彼についついちょっかいをかけてしまう。自分は耐え忍んで、それでも後悔を忘れることなく、かといって迪希には自分と同じ道を進んでほしいと感じている。自分が進んできた道は間違っていたと考えているのに、娘にそれを進めてしまう。
 ここが人間の、とりわけ大人の悲しい性を象徴しているのかなと感じますね。人間というのはどうしても自分を肯定したい生き物で、娘の思うままにさせてしまえば、さらに娘が選んだ道で幸せをつかまれてしまったりしたら、そのまま自分が間違っていた事実を突きつけられて、みじめすぎる状況になる。自分が間違っていないと思いたいから、娘にも同じ道を選ばせようとする。どうしようもないあてつけのように感じるし、悪意ある解釈かもしれないけど、どうもそのように感じるんだよな。こういう考え方をするのが、彼女が人間だからなのか、女だからなのか、はたまた大人だからなのか、どのように判断したらいいのかちょっと難しいですよね。
 似たようなことが得子さんにも言えるのかな。彼女は昔から自分のやってきたことは正しいと思ってたし、成功を勝ち取ってきたんだけれど、夫を失うことでおそらくは初めての挫折を味わったのではないかと。だから現実を見ようとしなくなったんですよね、自分の妄想の世界、自分が勝手に作り上げた「夫との夢」を肯定するためだけに生きようとした。どうしても自分のことを否定したくないんでしょう。 愛莉のことを目にかける余裕もなくなってしまった。だからエンディングのほうで「私の知らない愛莉がいた」ってそこで初めて現実を認めた、自分の敗北を認めたということでしょう。
 対照的なのが義明さん。自分の過ちを認め、自らのすべてを失ってでも、子供たちに未来を託そうとしている。大切なのは過去ではなくて未来なんだと。今までやってきたことなんかどうだっていい、間違っていたなら未来で挽回すればいい。衡への贖罪として、自らの命を差し出しても、恂の未来を願った。
 そしてそのどちらでもないのが広常の爺さんだよね。どちらでもないというのか、どちらでもあるというのか、自分の考えは間違っているかもしれないけど、それでも自らの夢を肯定し続ける。融が残していましたよね、「誰も間違っていないから、悲しいことが起きるんだよな」。結局誰かが貧乏くじを引くのが世の理なんでしょうか。誰かを犠牲にする、誰もが嫌がるような選択は自分にしかできないと考えたのでしょうね、自分は怪物になってもいいから。だから時子に「お前はもう醜い怪物だ」って言われて哄笑していたけれど、それは褒め言葉として取ったのでしょう。やっと自分は怪物になれた、元の苦しみを一部でも共有することができた。かえって自分のやってきたことは間違ってなかったと確信した。
 胤正はどうなのか。彼はすべてをあきらめているようですね。立ち位置の問題もあるし、未来を考えるということは自らを否定することになるわけだから、この決断は止むかたないか。けど、胤正自身の思いとしては、一族を否定してでも、という気持ちもあったのかもしれないですね。時子は「案外、ぱっと変われるかもよ」なんて相手の気持ちを試すような言葉をかけているけど、自分を殺してしまう胤正をじれったく思ってたのでしょうね。
 個々の要素ですが、システム周りは非常に快適ですね。ダブルクリックでセーブ、ロードができるし、メニューバーから前の選択肢、次の選択肢へのジャンプもできる。まあ別にこの作品に限らんけど、ショートカットの充実ぶりはいいね。ワムの仕業か。ただ、序盤にいろいろな場所の説明が出ているから、市街のマップとか出せるシステム作っとけばよかったのになあ。そんなに難しいことでもないと思うけど。地図のCGとか背景設定を説明するのにいくつか絵を入れてほしかったですねえ。文字だけでイメージするのが苦手なゆとりにはつらかった。それと、システムとは関係ないところだけど、セーブ画面なんかでシナリオの部分にきちんとタイトルがあるのはいいですね。それ、場面切り替えの際にタイトルも出るようにしておけばもっと良かった気もしますけどね。
 声もいいですよね、夏野こおり、金松由花といった最強クラスの人はじめ多士済済の顔ぶれといった感じか。でも男性陣のほうがよかったかな。萌え豚に男の声なぞ用無しじゃ…というなかれ。シリアスなゲームだとどうしても雰囲気づくりに欠かせない存在になってくるわけでね。難しいよね、主人公になるわけではないからあくまで物語の引き立て役にしかならないわけで、あまり主張しすぎてもいけない。かといって独特の味わいがなければ役に立たない。みんな、感情の方向性を上手に立てて演じてましたよね。悩ましげな部分を何とか見せないようにしている融、なんとか覚悟を決めて自分が正しいと逡巡する胤正、自らの贖罪を夢として、愁いを帯びながらも未来を信じて進む義明や広常。広常のじいちゃんなんか悪役に徹しようとする哀れな人間性がよく出てる。みんながね、自らが語る言葉のうちにある裏腹の思いを微妙に見え隠れさせているっていう感じがよかった。声っていうのは、ほんとに誰かひとり外しても影響が出てくるわけだから起用するほうも綱渡りだよね。
 ただ、声に関しての殊勲は雪都さんかねえ。この作品は大人の女性なんかはうまくかけていても、対照となる子供っぽい女の子の描写が結構あれって思うところが。テキスト読んだ感じのキャラのイメージだけからするともっと平面的で頭の弱いような演技になって不快になってもおかしくないんですけどね。この辺りを声でカバーした。一見すると直情的でお転婆そうなのに、人見知りで警戒しちゃうようなある種の聡しい印象もうまく取り込んで、かわいらしい感じの子になってるんだよね。いい意味でキャラに起伏が出てる。この人でなければどうなっていたかと思わせるよね。ぶっちゃけ気合入りまくりすぎでこええ。いやいいことなんですけどね。熱演だったし名演だった。ただ全員差はない。一番演技が難しかったのはおそらく碧織だろうが、そこはさすがのこおりボイス。でもちょっと崩れたところあったかな。素直になって主人公として、恂としてみる気持ちと、自分を殺して稜祇先輩と見る気持ちとの間の心がせめぎ合ってる部分で、微妙に声が調律しきれなかったところがあったかな。まあでも、この人普段が完璧すぎですから。
 絵は、うまく統一感が出ればよかったんだけど…でもデザイン力がありますね。全体のシルエットに合わせるようなディテールの部分が絶妙なバランスかな。胸元のひもとか大きすぎず、小さすぎず。あとはシルエットも美しくなるようにきつめの服装。背景もたくさんあって、こっちは文句のつけようがないんだけど、だけど、パケ裏の絵をなんで作中で使わんのよ。デモの最後にも出てくるけど、あれが素晴らしいのにね。あの絵を背景に、菩乃花さんが狂言回しとなって物語の全貌を語る作りにしてくれれば、物語の評価はガラッと変わったかもしれない。とにかく難しいのよ、この作品。すべてを語らないのも一つの方法なのかもしれないけどさあ。背景知識についてはより素人にわかりやすく説明してほしいですよね。
 あと、エロは面白かった。祥那の最初のバッドで「なんてはしたない妹だ」「そんな愚かな妹には―兄として、お仕置きが必要だ」みたいな三流エロビ展開とかね。そして碧織のあれはなんなんだよ、「あたしね、毎晩ね、恂を思ってオナニーしてるの」…かなりどうでもいいカミングアウトなんですけど…。これがなんか重大な伏線だったりしたら、泣くよ、泣いちゃうよ。
 いつものように長くなってしまってすいません。得点については高いかもしれませんが、これ以上に面白い作品がどれぐらいあるかと考えたときに、このぐらいでいいかなあと思いました。(BGMに関しての批評はごめんなさい、ちょっと知識不足っぽい)反抗してるようで申し訳ないですがこのぐらいつけさせてください。複雑な構成をここまで伝えられるだけでもすごいと思う。スタッフには頭が下がるし、この作品を作ったことを誇っていただきたい。こういう作品に出会えてよかったと思わせてくれました。全体把握してからもう一度プレイしてみようとするのにも、雰囲気作りができてるから楽しめるし程よい長さ。ただ、未完成かなと思われるところも多いので、すっきりしないのが困ったところですね。胤正とか、行動が合理的でないんですよね。でも、挑戦的で、目標を高く置きすぎて失敗した感じで、ある程度はしょうがないかな。それにタイトルの意味もよくわからないんですよね、過去作との関係とかもちょっとあるのかも。「少女」ってつけてくるあたり気合を入れてきているのはわかるのですが。