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アナトールさんのユユカナ -under the Starlight-の長文感想

ユーザー
アナトール
ゲーム
ユユカナ -under the Starlight-
ブランド
NanaWind
得点
78
参照数
1051

一言コメント

あこさんのお札のような非現実要素がちょっと含まれる世界の物語。主人公モテモテ。テキストも短くまとめあげ、一枚絵も完成度が高く、丁寧に作り上げた力作だというのは分かるのだけれど、自己に忠実に力を入れた分個性が強くなってしまった感じで良作とはいえるかどうか。延期した分の成果は確実に出てると思うのですが。好きな人は好き、ハマれば良作、その言葉に尽きるでしょうね。ヒロインへ感情移入度がそのまま満足度につながる。でも、そもそも男性向けなの、これ?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 タイトルのユユカナは、遊々叶の儀の遊々叶。遊々叶神社で託した願いがこの作品のメインテーマ。それをもとに主人公のヒロインの運命づいた話が展開されるけど、話の内容はまあどこかで見たようなもの。絵と声のクオリティは非常に高い。音楽だってハイセンス。それでもこの空間ではいまいち評価が低い。しかも評価ばらけすぎ。一本道な後半のシリアス展開が分かれ目になったか。ヒロイン萌え全開な状態な人間だと「今助けに行ってやるからな」的に燃えるし、なんか物語の全体がわかっちゃって退屈してる人は「もうオチ分かってるから早く巻けよ」みたいな。だからまあ、何回書いたかわかんないけど、ポイントは感情移入、ですよね。
 そもそもこの作品って、どこがウリなんだ?なにを中心に描いているのかがよくわからなかった。いや中心になるのはヒロインと主人公の幼いころに結んだ約束が時を経て再び思い出されるという話の「美しさ」なのかなと思うけど、お約束イベントあり、ラブラブイベントあり、シリアスありといろいろ詰め込みすぎて全体がぼやけて見える。うまく交じり合ってない印象がある。肝心のひまわりの園での約束の話は後半でのみ語られて、前半はキャラとの掛け合いを楽しもう。キャラへの愛情度を深めようという目的があるのかなとも思うけど、でもそれって水増しにしか思えない。本題だけ語ってくれよって感じる。一般的につくられる作品はこういう構成だからそれに倣おうっていうのは安直ではないか。作品の構成がシンプルでいいのはギャグ系の作品でしょう。やり取りを楽しむ作品であれば物語全体を俯瞰することよりも2,3行先のギャグに期待するから構成を気にすることはあまりない。でもこの作品はギャグ系ではない。話それ自体に焦点を持ってきたい場合、話の構成それ自体もオリジナリティのあるデザインに仕上げたほうがいいのではないかなと思うのですがね。だいたいヒロインを4人も出して、それぞれに固有の物語を作り上げるとなると、それだけで膨大な物語になってしまう。そこに前半の掛け合いも入れるとなるとボリュームは半端なくなる。それで何とか書ききれるスケール内に収めようとすると小粒になってしまい、プレイヤーを楽しませるには至らないつまらないゲームになってしまう。4人ってのはきつい。ヒロインは平等に扱うべきという姿勢はもちろんとても重要だが、ストーリー重視である場合ならば、それを捨ててでもプレイヤーを魅了させる作品世界を構築することを優先させたほうがいいことだってある。
 また、話のテーマが頻出である場合は、プレイヤーに訴えるような個性が必要になってくる。そのために物語の創作者は読み手を楽しませる。どうもこの作品はどうも読み手に対して変に遠慮している印象がある。読み手にわかりやすく伝えようとしすぎているというか、誰にでも受け入れられるような作りになっているというか、相手(読み手)に受け入れてもらおうとする努力はとても感じられるんだけれどもそれはむしろ逆効果。作り手と読み手の関係は必ずしも友好的なものとは限らない。読み手の関心を引くためには時には相手を驚かせることだって大事である。そのためにミスリードや超展開を用意しておくわけである。そのいずれもなくあくまで正攻法を貫こうとするのであれば、徹底的にプレイヤーを圧倒させるようなカリスマチックな世界観や抒情性が必要になってくる。まあ、この作品はそこんとこ真面目すぎるんやね。ミスリードとか超展開とかはどちらかっていうと遊び心から生まれてくるものだからね。ここ、ちょっとこうしたほうが面白いんじゃない?というように遊びでデザインしていく姿勢があまり感じられなかった。それよりもっと優等生的で、人から文句をつけられないような設計にしようと心掛けているのかと思ってしまった。
 と、あくまでストーリーが主体だと仮定した場合の話をしたけれども、この作品の焦点はキャラクターというかヒロインではないかという考え方もできる。というかおそらくこっちのほうが有力だろう。であれば、ここまで書いたことは簡単に否定されるのだけれど、もしもキャラゲーとしてみた場合はどうか。正義感の強いツンデレ幼馴染、世話焼き控えめお嬢様、元気印のおちゃっぴい、病気がちでも知的で健気なツインテール…誰にしたって魅力的。ただちょっとあこさんは設定的に池沼なのはきつかったけど。そんなヒロインに感情移入し、主人公と一体化して、あのときの約束に向かって走り続ける。もう一度、今度こそ、ずっと二人でいるために。うーん、美しい…のですが、男性向けなのかなあ?うーん、微妙、だねえ。でもこれってほとんどいろセカとおんなじって考えると、まあ、男性が受け入れる余地は十分にあるだろうなあ。ただ話のスケールで確実に負けてそれが得点に反映された。あと、これは感覚的なレベルの話で申し訳ないが、キャラに焦点を当てていても、中心になっているのはヒロインであり、主人公はヒロインを守るための脇役~な感じになっている。これはつまり、まずヒロインが行動を起こす→主人公がそれに合わせて行動する、というパターンが多かったからか。主人公よりは現司のほうが明らかに行動的だったよね。このあたりも得点に影響しているでしょうね。それとたとえキャラゲーであっても、ラストのほうでスピード感がなかったのが良くなかった。短くまとめているけど、それでもいくぶんか冗長に見えたのは、ラストで主人公の独白が多めに書かれてた分くどい印象を受けたからなのかな。どの話でも比較的ラストはスピード感を要求するんだけど、そこで心情描写に専念すると、先の展開を早く読みたいのに、主人公が動かないから待ちぼうけくらわされる形になってしまう。作り手としては、ここで主人公とプレイヤーが一体化してほしかったのかもしれないが、主人公の心境って男性プレイヤーは自分の脳内で補完するものであってあまり多くは必要ないんじゃないか。多めにすべきなのは状況描写のほうでは?
 恋愛ものとして考えてみると、今度は最初から主人公モテモテ。設定からしてそうだからね。となると、問題なのは主人公とヒロインの二人の関係の変化。友人から恋人へ。恋人になるまでのドキドキの過程。なんとしてでも愛する彼を射止めたい。って、だからこれは男性向けなのか?くどくなるけど主人公の空気感半端ねえんですよ。それと三角関係を描写するのは作品的にどうなのか。問題なのは、各個別ルート間で世界観を共有してないこと。これだとほのかルートでほのかとうまくいかなくて理沙が横恋慕しようとするシーンの説明が難しくなる。世界観の共有があるかないかで解釈が変わってしまうところだよね。理沙ルートでの世界とほのかルートでの世界を共有していたら、理沙のエピソードがあることになるから少しは分からなくもないけど、でも世界観の共有を認めると、いろんな女の子をひっかけたことになるから、多分それはないだろうと解釈している。それに理沙はなんで明斗のことが好きになったのかの説明が、理紗以外のルートでは説明がつかなくなるような気も。
 あと細かい部分になるけど現司っていじめられすぎじゃね?これだけ邪険にされててめげない彼はどんだけ打たれ強いんだ。女どももひどすぎる。まあまとわりついてるの振り払ってるだけだから、悪いことしてるわけではないんだけどね。あとはまあ、全キャラ美形だけど、まあこれはいいことだよね。まあそうするとサブキャラ攻略不可に不満の声が出てくるというでめりとはあるのだけれど。キモ山と呼ばれた木野山先輩だってイケメンだし。ニックもあれだけ歯の浮くようなセリフ並べたてまつっていてもそれがキマっているというか、そんなに違和感がない。悔しいけれどイケメンは正義だ。いやまあこういう風になりたかったとはちっとも思わんけどね。こうまでしてモテようと努力するニックとか尊敬するよ。肉食系になるぐらいなら、テレビ見ながらそれこそ肉食ってるだけでいいやって思うだろ?思うよな?(誰に言ってるんだ?)それで嫁のメシがまずいスレを見ながら既婚男性をあざ笑うのだ。いやまあスレタイ以外はマジで笑えないけどね、あの話の数々は。なんでそんな話を出したかっていうと、理沙の料理を見ながら明斗は「料理は愛情だ」なんて綺麗ごとほざきやがるからなんですけどね。おめえはあの板を読めって話だよ。そして世の中のお父さんたちに謝りなさい。
 とまあ、文句ばかり書いたけど、ハイクオリティなのは間違いないんですよね。テキストも読みやすいし、キレもある。絵だって若干おかしく感じるのが野点の時の顔がデカすぎねえかっぐらい。あと立ち絵の一部で手が大きすぎる気もしたが、様々な構図を見せつつ高い完成度で仕上がっている。萌え系だけど可愛いではなくきれい系。ロリっぽさを感じないのは、スタイルの良さと大人びた目つきや表情によるものでしょうか。絵といいテキストといい、シャープな感じで気高さを感じて、あまりの清潔感にこちらも居住まいを正してしまいたくなるような感じでした。そのぐらい真面目に、なんとかしていい作品を作ろうという気持ちは痛いほど伝わってくるから、それだけに見てるこっちも悔しいというかもどかしいというか、もったいないなと思う作品でした。