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めんつゆさんの冥契のルペルカリアの長文感想

ユーザー
めんつゆ
ゲーム
冥契のルペルカリア
ブランド
ウグイスカグラ
得点
91
参照数
747

一言コメント

どんでん返しや話のギミックよりもテーマやメッセージ性に拘った作品(ルクルさん談) 演劇や役者の考えは理解出来ない人も多いかもしれない。でも大事なのはそこじゃない、テーマとメッセージに気が付けるかどうか。劇的な展開や感動のラスト等、シナリオだけを見る人にはあまりオススメしない。あと舞台照明は確かに熱い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

どんでん返しや話のギミックよりもテーマやメッセージ性に拘った。とルクルさんが仰っていたので、劇的な展開や感動のラストに期待をしていた訳では無く、どんな物をシナリオに落とし込んで作り上げたのかを楽しみにしていた作品。
先ほど読み終わったので、感想と言うよりは後から自分がその時何を思ったのかを思い返せるように書き殴っておきます。色々と散らかってますので核心、一番重要だと思った事は一番下に書きます。


自分は舞台で演劇をした事があるので、キャラのセリフや心理描写に逐一共感出来ましたが、そうでない人には中々理解できない部分も多かったのではないでしょうか。まあ私も壮絶な人生を歩むキャラの全てに共感出来た訳ではありませんが。
物語を読み進む上で、ある程度の共感、興味が持てないとつまらないと感じてしまう。当然の事かもしれません。
だが演劇や役者を理解する必要性は無い、あんな物簡単には分からない。実際にやっても分からなかった奴だっている。
でも悲劇や不条理はフィクションじゃない。胸糞悪いだけなどと、最後まで読めなかった人は物語の本質に辿り着く以前に、この当たり前の事にも気が付けなかったみたいですが...

来々の台詞。役者はイタい奴らの集まり。イタい事を全力で突き通している。
まさにそうですね。
この台詞を見た時にルクルさんに興味が湧きました。普段は創作者本人に興味を持つ事は無いのですが。
何をしてきたのか、演劇をした事があるのか、した事がないならどうやってこの物語を描けたのか。そしてどんな人生を歩んだら、これまでの過去作にあったような不条理を体現出来たのか。ルクルさんに訊いてみたいです。

どのキャラも主人公足り得る魅力を持っている、という物語は数多くあります。
しかしこの作品では誰がメインの話か、それが推測出来なかった。
一応形式上は主人公は瀬和環、そうではなくどういった世界観で誰を物語の真ん中に置いているのか。
途中で匂宮めぐりがその人物に当たると考えたのですが、他のキャラでもその役を担えるだけの重みがあった為、そこに視点を当てて考えながら読み進めていくのが、過去作に無い部分で面白かったです。
もちろん、ここは人それぞれで折原氷狐が物語を動かしているからメイン、などと考える人もいると思いますし、テーマの面で見るとまた誰か別のキャラになると思います。

テンポが悪いというコメントを良く見かけますが、これは表現の為でしょう。
逐一心理描写を挟むのでそういう風に感じる方もいると思いますが、表現に妥協が無い、読み解き、じっくりと理解をしていく、ルクルさんの文章の魅力だと思います。苦手な人は苦手でしょうね。

全体のシナリオは、粗さを感じる部分もありました。でもそれはこの舞台を作り上げる上で意図的に作り出した物を私がそう感じ取ってしまっただけなのかもしれませんが。
この物語においては、予定調和がなく救いや奇跡が安易に描かれていない点は良かったです。
いくつか比較しているコメントがあるように紙の上の魔法使いの方が上でシナリオとしては面白いと思います。ですが同列にして比較するのは少し違うと思います。あちらはADVとしてのギミックを使ってエンターテイメントとして物語を描いています。
こちらはテーマやメッセージを根幹とし、読み手にそれを受け取ってもらう為の物語です。それは同じライターさんが書いたからと言って比較対象にはなりません。同じ物ではないのですから。比較出来るのは優劣では無く個人の好みまでです。
実際劇的なシナリオにする気ならあの世界だからこそ出来るギミックをもっと盛り込んでいたと思いますし、来々達が死んでいる事実をあんなにもあっさりと描写するなんてまずしません。
好みの比較で言うと私は、めぐりと王海の関係性、めぐりが王海に対して想いを巡らせていった最後のシーンが心に響いた為、私はシナリオの面でもこちらの作品の方が好みです。ジジイに弱いんです。最後にフィリアが王海の遺作だったと判明した所で、来々達のどうしても成功させたかったという想いを考えてしまって涙が出ました。他でもないあの王海がフィリア(親愛)という作品を書いた事、あの作品さえ完成させられていればめぐりと王海がもっと早く分かり合えた事、今後のランビリスも良い方向に向かっていった事を考えると残念でなりません。
あとフィリアは、演劇用の脚本として最初から最後まで書いた物が実際にあるらしく、やったらかなり面白そう。正直観る側はそんなに好きじゃないけどやってたら見に行きたい。出来る事なら演じたい、フェンリルを。まあそこは台本見たら変わるかもしれませんが。

瀬和環の事は最後まで好きになれませんでした。感情移入した方が楽しめると思いますが、このキャラについてはあまり理解したいと思えませんでしたね。ルクルさんも環は歴代で一番キモイ主人公と仰っていました。
個別ルートは、Trueに関わってくる物以外は他のゲームでも重要視していないので省きます。来々や悠苑がまた見れた所は良かったです。

特に魅力を感じたキャラは来々、朧、双葉、王海と最後の方のめぐりですね。
来々は一番一緒に演劇をやりたいと思ったキャラ。
朧はかっこよかった。大きな見せ場はあったけど、もっともっと活躍を見たかった、もし演じられるとしたらこのキャラ。
双葉は名脇役!とは思いません。脇役の魅せ方ではない輝きが多かった素敵なキャラでした。
めぐりは上に書いた通りです。王海に直接伝えられたら良かったのになぁ...この題材でそんな不条理は起こるはずないけど

追記
※琥珀というキャラには疑問が残っていますが、ルクルさん曰く、説明はしていないが、テキストの中に真意は盛り込んでいるそうです。私は読み取れませんでした。
※朧について語っている部分が少ないのは、椎名朧を深堀りしていくと主題から逸れてしまう為との事。他の作品でもそうだが、冥契のルぺルカリアはあの時のあの部分を切り取って見せてくれた物語。彼の物語が無いわけじゃない。
あの世界に朧が居る(居たかった)理由は読んで数日経った後に気が付きました。これは確かにちゃんと読めば理解出来ますね。他のキャラクターにも関わる結構大きな見落としでした。何故あの世界に来ることが出来たのかという点はまだふわっとした想像程度の事しか分かりませんが。


一番重要なのはルクルさんがこの作品で何を表現したのか『どういったテーマやメッセージだったのか』
細かくは一つではないかもしれない。
私が読み取り感じ取れた中でも最も大きな物、そのテーマは
『不条理への向き合い方』
人生はままならない、どうままならないのか。どう向き合うべきか(不条理に向き合うとは)
それの答えこそ作品に込められたメッセージ(カリギュラは不条理との対立を選び、打破を試み、破滅した)
この答えに絶対的な正解という物は無いと思います。ですが作品を読んだ方ならルクルさんの出した答えは分かるはずです。私はルクルさんの答えに賛同すると共に、こうありたいと考えました。
このテーマに辿り付き、答えを見つけられるか(答えを出せるか)で評価が大きく変わる作品だと思います。(ルクルさんの答えは、あるキャラが何度も口にしているので読んだ方は分かる筈)
カリギュラがそうであるようにこのテーマを扱った作品は他にもあるかもしれません。ですが、こんな難しいテーマをここまで納得できる形に落とし込み、体現した作品は他には無いと言えるでしょう。
ライターの熱量が込められた素晴らしい作品でした。
この確固たる答えが出た今、過去3作を思い返すとこの考えで行動しているキャラが数多く居て(真っ先に思い浮かんだのは妃と遼)、更なる魅力も見つけられるだろうと感じました。

不条理への向き合い方。この物語、冥契のルぺルカリアに出会えた事は、きっと、これからの私の人生の財産になると思います。


あ、今回は誤字が無くて良かったです。