儚く儚く重ねあっては消えてゆくのは銀弾でした。
Silver Bullet(以下、銀弾)5周年記念として発表された作品です。
処女作「雪影」はプレイしていませんので関連の有無含めてここでは触れません。
さて、本作は主人公・葛が年賀状を元に、宝来町に住む義姉である夏雪の元を訪ねるところから始まります。
浜辺で女の子と触れ合い、どこか安心感を覚えた葛。
しかし肝心の叔父夫妻はどこか疎むような態度で葛と接します。
帰り際にちょっとしたいざこざがあり、晴れて例の女の子=夏雪と対面することが出来ました。
それから葛は毎年のように宝来町を訪れることとなりますが、夏雪の友達・純葉や葛をいじめていた女の子・那有多、いじめられいた時代から気にかけてくれた勇も巻き込んで話が進みます。
共通ルートがそうした小さな事象の積み重ねを丁寧に描いていて、まだ小さな子供だったあの頃から成長し高校生となるまでの期間の重みを感じられるようになっております。
この作品の舞台は基本的に宝来町と葛の住む大きな市の2つですが、本作では前者に重きが置かれていまして、葛が夏に宝来町に旅する際は事細かに描写されている反面葛の都会暮らしはおざなり気味です。
しかしこの作品においては葛や那有多、勇が言うように宝来町が第二の故郷のようなものですからこれで正しかったのかなとも思いますね。
作品の尺自体長くない中で多分全体の4割くらいがこの共通部かと思われますが、ヒロインと主人公が親交を温め恋心を抱くという点に置いては強烈な説得力を持たせていると思います。
小、中学生ならではのイベントも散見されますのでそういった箇所も要チェックでしょうか。
また共通だけで長い時間が経過していますのでヒロインとの関係性や容姿も変化します。
特に一番顕著なのが那有多で、いじめっ子が奥さんの理想像のような女性に変身していますね。
いじめの描写はそれなりに来るものがあっただけにライターの力量は感じられました。
宝来町に誘った葛本人もですがサブキャラの美津が良い人でしたほんと。
那有多本人も作品が出た後に人気が上がったようですが、プレイし終えた今ならそれが解る気がします。
個別は2回目の肝試し時に存在する唯一の選択肢で分岐します。
面白いな、と思ったのは那有多、純葉両ルートでも夏雪の存在が念頭にあった点。
夏雪という葛とヒロインそれぞれ憧れる存在がありながら、そのヒロインと付き合っていくというストーリーはエロゲではあまり見かけないので新鮮味がありましたし、個人的には大いに有りでしたね。
純葉は付き合った後に夏雪に倣って口調や態度を変えたりしています。結局元に戻していましたが。
本筋は子供の頃約束した将来の夢を追うというものですね、後述する伝奇要素は全くありません。
そういえば他のルートで夏雪の存続に関わることになる神樹を再開発で切り倒すという旨は、再開発のさの字も出てきませんね。
那有多のほうは夏雪ルートで出現する伝奇要素を含んだルートとなっております。
でもメインはそちらではなくて夏雪が消失した後に、残されたノートや写真などをどう扱うか、といったものでしょうか。
それよりこのルートだけ告白が遅くてもじもじしました。
付き合うのでしたら純葉も若干遅いですがそれでも那有多よりは早いかな。
夏雪の個別は最後に回してプレイしましたが、今考えると別にその順番に拘らなくても良かったかなとも思えます。
こちらは肝試し後すぐに結ばれ、他ルートでは叶わなかった夏雪の葛宅来訪も叶って進学先を宝来町の学校に選びます。
と、この辺までは良いのですが、中盤から過去の昔話の登場人物が葛や夏雪の身体を夜の間乗っ取ったりするようなイベントが現れます。
このあたりから伝奇要素が全面に押し出されますが、既にこの時点で個別ルート内でも中盤で中途半端に終わってしまったきらいがありますね。
結局神樹は那有多と同じくこのルートでも再開発で切り倒されますが、昔の因縁にまつわる話が駆け足で分かりづらいです。
この伝奇にまつわる話は一応共通ルートからたまにその片鱗を見せておりますが、それを踏まえても展開したい話に見合ったテキスト量ではないですし、この類の話はある程度使い古されていると思うのでもう一味欲しいですね。
それなら義姉だと思ってたら実は実姉だったとか、小さい頃に引き離された上存在を隠され、最初の葛来訪時にも叔父夫妻から疎まれたかなどを個別で描いたほうが良かったのではないでしょうか。
結局これらは作中では夏雪の個別で明かされますが、さらっと流されてしまうんですよね。勿体無い。
昔話に関連して夏雪が地元を離れられないという設定も本作を少し押し下げているように思えました。
また、本作はサブキャラがそれぞれ立っている点も魅力の一つでしょうか。
はじめに葛を出迎えてくれる叔父夫妻をはじめ勇や美津、また叔父夫妻が亡くなった後夏雪を育ててくれたおトキさん、とその数は多くはないですがそれぞれ個人個人の役割が存在するのは宜しいことですね。
メインヒロインも含めて声も合っています。というかメインの3人とも可愛いので選べないです(
音楽はBGM17曲に主題歌1曲です。
主題歌「夏の日のリフレイン」は西沢はぐみさんの代表曲の一つだと思いますし説明は必要無いとも思いますが。
はぐみさんといえばかつてはほぼ銀弾系列しか歌唱していなかった印象がありますが、最近は活動の幅が広がってきて嬉しいところです。
何故か「銀弾ボーカルコンプリーツ Vol.1」では歌詞が一番しか掲載されていないのはここでは置いておきます。
BGMも主題歌と同じく松本慎一郎さん率いるマッツミュージックスタジオによるもの。
ノスタルジーを想起させる良質なBGMが多いです。
その中でも特に「青空の匂い」「長い一日」「涙を見せずに」「めぐる夏、きみとの夏」ED曲である「そして二人の夏へ」を推します。
主題歌こそ幾度も再録を重ねておりますが、サントラが出ていないのは惜しいです。
銀弾が倒産してしまったようなので望み薄でしょうが、こういった作品を制作出来るということは地力はあると思いますのでいつか再起を望みます。
ちなみに本作の音楽鑑賞モードですが、右クリックでタイトルに戻っても再生されたままな点は嬉しいもののボタンが「演奏停止」しかないのがちょっと寂しいです。
システムは一部で悪いと言われているようですが、不自由しない程度には揃っていますので問題無いと思います。その辺は体験版で確認して下さい。
一つ挙げるならボイスカットが切れないのはちょっと痛手だったかな。
CGは81枚、シーン回想は17枠です。
旧作なのでキャラクター別に分類はしませんが、回想枠にはエンディングも登録されているとだけ付け加えます。
Hシーンは二人が4つなのに対し夏雪は6ですね、CGも1シーンに何枚も割いたり贅沢な使い方はしているかなと思います。
CGの枚数がやや少な目ですが、作品自体が10時間かからないようなものですので特に足りないとは感じませんでした。
5周年記念作品と銘打っている割には随所から小粒感が伝わりますが、本作はあまり引き伸ばしてもどうだったかな、という感想を抱いたのも確かなのでこれで良いのかもしれません。
最後にタイトル思いつかなかったんやー!と叫んで筆を置こうと思います。