淡く溶けて消える儚いリフレイン
※この感想は『夏雪』に関してはプレーすることに支障が出るようなネタバレはありませんが一部『神樹の館』のネタバレをしておりますので気になる方は「シナリオ補足【伝記?】」まででバックしてください。
ネタバレによるプレーへの支障に関しては、注意して書いてはおりますが一応ネタバレ感想として投稿しておりますので責任を負いかねます。
【シナリオその他について殴り書き】
夏雪シナリオを読み終えて、久しぶりに余韻に浸れるほど良い作品に出会えたと感じました。まれびとが求めていたものが、ここにありました。夏雪(タイトルと同じ名前ですがこっちの読みは「なつき」)が可愛くて可愛くて。お姉ちゃんキャラですけど、まさかまれびとに姉属性があったとは思わなかった、と一瞬思いましたが、進化前の姿が一番好きなのでそこまでぶれてなかったことに気付きました。いや、ホントに。走っている一枚絵を見て、後ろから追いかけていって抱えて持ち去って行きたい衝動に駆(ry
この作品何がいちばん良いのかと言えば、リアリティだとか社会だとかそういった『現実的』なものを排除してくれているところです。いや、シナリオには残酷で理不尽な現実みたいな部分はあるんですけど、主人公とヒロインを阻害するものにそういうものが無いんです。あまり対比はしたくありませんが、ありとあらゆる意味で『CafeSourire』と対になる作品だなあ、と。
どういう事かと言うと、あの作品はヒロイン全員幼なじみであるにも関わらず過去描写が薄っぺらいが為に「なんでこんなに愛が重いの……」ってなったり、ヒロインと生きていこうとしますがそれを現実的な問題(生活どうするんだ、とか)を引っ提げて大人(要は本来味方側の人間)が登場します。ロマンチックにふわふわした感じで終わっておけば良いものを、それを作品に不釣り合いな現実さんが邪魔するんです。
一方で夏雪にはそれがありません。幼少期の夏から始まり、毎年の夏を田舎で夏雪たちと過ごす、ほのぼのとした成長譚。ヒロインとの積み重ねというものを肌で感じる事が出来るので思い入れは半端無いです。これでバハムートラグーンみたいな展開になったらプレイヤーに死人が出ます。また、敵と味方がはっきりしているので疑心暗鬼になる必要もなく、「えーこいつうざーい。雰囲気壊すなよー」ということがありません。夏雪おねえちゃんと一緒に成長しながらいちゃいちゃしている過程を何年間分もにやにやにやにやしながら見続ける事が出来る、そんなに作品です。
原画が桜沢いづみさんということで『ワンコとリリー』の透子さんを想起させますが、正直あんな感じ。トノイケダイスケ御大の新作を待ち続けている人はこれをやれば幸せになれるかもしれません。
わたしは夏雪→那由多→純葉とプレーしましたが、真逆のが良いですね。別に最初に夏雪シナリオをやっても特に問題はありませんが、夏雪おねーちゃんの存在のデカさだけが描かれる純葉、それに加えて夏雪おねーちゃんの抱えていた秘密が描かれる那由多。そしてそれを解決する夏雪。うん、やっぱり此の順番のが良い気がします。
シナリオはなんてことはない、「夏の日」に特化して描かれた幼なじみたちとの物語。突然年賀状をくれた親戚のおねーちゃんに会ってみたくなって夏休みに一人で田舎へと行く幼き日の主人公。そこからはじまる夏限定の交流。年々メンツが増えてきて、そして次第にみんな大人になって。嫌な事も良いことも忘れたい事も忘れたくない事も、みんな「想い出」となる。そんな、決してお金では買えない、時間があっても容易には得られない日々をひたすら堪能するこの作品。りありてぃ? ごつごーしゅぎ? そんなものはどうだっていい。そういったメタなものはこの作品には求められてはいない。ただひたすらに、和み、癒され、そして浸る。お菓子のような作品です。この作品に大人的視点は要らない。大人的な批評も要らない。「もしも子供の頃にこんな体験をしていたら。」そんな気分でプレーして見てください。
ここまで褒めちぎりましたが、微妙に不満点。「なんで複数ヒロインにしたし」ということ。いえ、ヒロイン全員嫌いじゃないんですけど、話の流れから言って(シナリオの伝奇的な要素も含めて)夏雪おねえちゃんと一緒にならなかったらおかしいって、これ。『キッキングホース★ラプソディ』も裸足で逃げ出すような極上のいちゃいちゃ感を醸したし、リアルで1万年と2千年前から愛してる状態であるにも関わらず他のヒロインとくっつく可能性があるってどういうこと! 確かに二人とも幼なじみだけど、レベルが違うんですよ! 海で出逢ったその瞬間からもう『夏雪』は夏雪ゲーなんですよ(紛らわしい)! 他のヒロインのシナリオに行くなんて『ToHeart2』このみシナリオの最後の選択肢で「2.このみは幼なじみ」を選択してしまうくらい有り得ない!
のですが、一方で「それを引き立たせるために他のシナリオも必要なのかなー」って思う自分もいたり。ダブスタですね。でもなんかこう、前世からー、とか、永遠にー、とか、そういう物凄く重い愛を語っているシナリオは、複数ヒロインではない作品でお願いしたいなあ。なんだか、「あなた方の愛は絶対ではないんですよ?」って言われてるような感じがして。
シナリオ補足
【伝奇?】
この作品には若干(ほんとに若干)伝奇的な要素が含まれています。気持ち程度。
それを無かった方が良かったと見るのかあった方が良かったと見るのは人それぞれですが、わたしはなければならないものだと思います。そして、これくらいで丁度良かったんじゃないかなあ、とも。
鬼のように甘やかしてくれる系のヒロインは他にもいますが、この夏雪さんは『水月』の雪さんのような存在です。雪って名前につく人はこんななのでしょうかね。別にまよいがに行ってしまうとかそういうわけではないのですが、「主人公の事を自分のことよりも大事にしているクセに、でもその隣に自分がいようとは思わない(思っても諦めてしまう)人」なわけです。甘やかされたいし、「甘やかしたい」と思えるヒロインが夏雪だと思います。それを構成するのに「どこか不安定で、遠くへ行ってしまいそう。離したくない」という要素が必要で、それにはこういった伝奇的なものがいちばんしっくりきますね。あまり伝奇をプッシュされても趣旨とずれてしまうので、これくらいで丁度良かったのではないでしょうか。
【ヒロイン】
夏雪一強かと思いきや、その夏雪を超えるべく努力する那由多と純葉もなかなかに魅力的。しかし個人的に思うのは、先にも言った気がしますがここまで運命や繋がりをプッシュしておいてシナリオの扱いが同等(構成上は)というのはどうなんだろう、と。例えば『神樹の館』なんかは竜胆シナリオでこれまでのことをなかったことにしましたが、それくらいのことをやってもよかったんじゃないかなあと思えるくらいシナリオ的に夏雪推しでした。夏雪シナリオのみ、もしくはTrueとして夏雪シナリオを置くくらいのことはしても良かったんじゃないかと。
純葉シナリオが最後でどうにも雰囲気を崩してしまったかな、と思えますが他は概ね良好。ただ純葉だけ「好き」がどうにも軽いというか薄っぺらく感じたのはわたしだけでしょうかね。相対的に考えているからだと思いますが、まあ他が強すぎたんだ。
那由多シナリオが夏雪における、いわゆるNormalエンドだと個人的には思っています。そういった意味でこのヒロインの存在は必要不可欠。夏雪が甘えることができるヒロインだとするならば那由多は甘やかすヒロイン。その他田舎と都会、主人公との境遇などあらゆる意味で夏雪と対局の存在だと思います。このヒロインがいなければ夏雪の存在の大きさ、本来の……世界の摂理としての流れが見えなかったでしょう。故にこのシナリオは那由多シナリオと雖も全てにおいて夏雪ありきであり、『夏雪』という作品内に於いては本筋たり得ない。「本当のエンディングではない」という意味で、やはりNormalエンドなのだなあとわたしは思います。
さて夏雪の魅力については散々述べましたしこれ以上言う事もないのですが、姉ゲーであるにも関わらずロリ属性の人間の欲求まで満たしてしまうこのシナリオ構成はまさにWinWinの関係であり今後もっと普及して欲しいと思うのであります(ねこねことかで以前からありますがここまで丁寧な描写じゃない)。
おまけ
【幼なじみヒロインについて】
この作品は幼なじみというものがメインになってくるわけですが(文字通り幼い頃からの馴染み、という意味で夏雪も幼なじみの範疇とします)、わたしはこの作品が幼なじみヒロインを出す上でのお手本だなあと感じました。
世に幼なじみヒロインというものはそれこそ星の数ほど存在します。しかしその殆どがあくまで「属性として」幼なじみに過ぎないのであって、とても後付けな感が拭えないのです。
それはどういう違いなのかというと「過去回想の多さ」だと思います。或いは、「幼い頃の描写の多さ」。なぜどのようにしてこの人たちは幼なじみになったのか、が抜けている作品が多いということです。幼なじみというのはあくまで結果論であって本来だったらそこまで魅力を感じられる要素ではないはず。別に仲良くしてくれるだけっていうのならエロゲだったら他にも数多いるでしょう。ではなぜそれ(幼なじみ)に魅力を感じられるのかと言えば、やはり「主人公と積み重ねてきた時間の多さ」が魅力的なのでしょう。一緒にいる時間が長ければ長い程色々なエピソードがあり、そんな「二人だけしか知らないもの」を沢山共有し、お互い相手を自身よりも知っているような関係。それが幼なじみの強みだと思います。別に朝起こしに来るとかそんなことは他のヒロインだってできます。
そのエピソード、想い出をリアルタイムで見、それが想い出に変わるまでを描写しているこの「幼なじみの作り方」のような本作は、幼なじみヒロインの強みを十二分に表現できている作品だと思います。
先にも触れましたがこの作品が出た一ヶ月後に『CafeSourire』というヒロイン全員が幼なじみな作品が出ましたが、悉く過去描写が欠落しており「なんでこいつら主人公のことがこんなに好きなんだ」っていうのがまるでわからない薄っぺらい作品となっておりました。
「なんでこのヒロイン主人公のことこんなに好きなの?」という問いに「幼なじみだから」という答えは返してはいけません。あくまで「幼なじみ」というのは「想い出」の入れ物に過ぎず「幼なじみだからこそ持ち得たエピソード」が大事なのです。そしてそれを丁寧に描写した作品こそが、幼なじみの魅力が十分に出た作品なのでしょう。