コミュニティに主眼を置き、テンポの良い掛け合いでぐいぐいと引っ張っていく共通部は掛け値なしに面白いものだった。ところが、個別ではあれもこれもと詰め込みすぎて精彩を欠いてしまったような。
というわけで、良い部分と悪い部分が分かりやすい作品でありました。
既に熱意溢れる感想があがっており、概ね私の言いたいことを言ってくれているので、ここでは問題点に重きをおきながら書いてみます。
ただ、誤解しないで欲しいのは、色々足りなかった部分はあれど点数分くらいには満足のいった作品であったということです。
さて、私が思うに本作の問題点は3つあります。
まず1つは、主人公について。
といっても、主人公がウザいだの気持ち悪いだの不快だのということではなく、像を形成するに足る描写が不足しているということです。
今作の特徴とも呼べるのですが、このシナリオって主人公の単一視点的な物語ではないんですよね。
所謂マルチザッピングという形で進行していく訳ですが、それが悪い方に作用し、仲間との横の繋がりを優先するあまり、主人公自身の掘り下げが疎かになってしまったということです。
例えば、共通シナリオ部分では抜群の観察眼や切れ味を駆使して、人心を掌握するかのように暗躍していた主人公を見て取れました。
燐音の尿意を察知し紳士的な立ち回りを見せていたし、彼女を仲間に引き込む際にも、絶妙に心の機微を汲み取ることが出来たからこその仕業でしょう。
そう、この時点では察しの良い主人公をイメージしていたわけです。
だから、どうにも“鈍感な”主人公と結び付かず、戸惑いを覚えてしまった。
別に私は鈍感な主人公を否定しているわけではないんですが、あまりにも自分が抱いていた主人公像とのズレに共感や理解が得られませんでした。
個別シナリオでは、主人公とヒロインの関係に焦点が当てられ、彼女たちの側からアプローチを図ってきますが、彼女たちがそうした行動に出た理由について深く思慮を巡らせようともせず(描写が足りず)、主人公を通した心境がまるで見えてこないんですね。
刺のある言い方をしてしまいますが、体のよい「恋が分からない」という逃げ文句を都合よく持ち出している風に映ってしまいました。
2つ目は、場面の繋ぎに難があったということ。
個々のエピソードには十分見所があったはずなのに、それがぶつ切りになっていると言えばいいのか、繋ぎの部分にお粗末なものを感じてしまったということです。
起伏のないような日常を延々と描写するならともかく、揺れ幅のあるシナリオを展開させるにあたって、あまりに場面場面で区切られてしまうと、読み手はそれに付いていけず、物語の一連の流れとして楽しめない。
今作における最たる例が、咲耶√のクリスマス仮デートでの最後の別れの場面でしょうか。
咲耶は別れ際、主人公にネックレスをプレゼントし、「ごめんね…」という謝罪の言葉と共にキスを不意打ちしますが、この後、主人公の悶々とした内情を描いてくれるのかと思いきや、場面は一気に年を跨いで新学期まで飛んでしまいます。
率直な意見として、もっと余韻を味わいたかったし、あのキスの意味するところを主人公のセンチなモノローグを通して、彼と一体となって思索に耽りたかった。
唐突に感情の行き先を見失ってしまい、結果として物語に入り込めないんですよね。
ここから見えて来そうなのは、「モノローグが描けないから場面の繋ぎも上手くいかなかったのだ」という単純明快な問題点。
もう一つ例を出してみると、燐音√での咲耶と燐音の対峙はこのシナリオにおける大きな山場であり、互いが互いに思うところを直情的にぶち撒け合う様は激しく心揺さぶられるものがありました。
しかし、ここで問題なのは、あまりにも急に場面が和解へと転換し、場を保たせることを放棄してしまったこと。
言いたいことを言い合った後、言葉には出さずともその間様々な思いが駆け巡っていたはずです。
そういう気持ちを整理し、決着をつけた上で、晴れてわだかまりの解消、そして和解という結果に至ったはずです。
だから、ここでモノローグを挿入するなりして一拍置いて欲しかったんですよ。
そうすることで、読み手もこの場面について落ち着いて咀嚼できただろうし、受け取り方がまた違ってきたんじゃないかなと。
それと、少し野暮にはなりますが、言葉のぶつけ合いに終始しているだけでは視点の切り替えの利を活かしきっていたとは言い難いところがあります。
せっかく咲耶視点でこれを描くのであれば、彼女の心境をきめ細やかに表現し、もっと読み手を彼女に引きつけて欲しかった。
それでこそ彼女を振るという主人公の決断に重みが出てくるというもの。
マルチザッピングの醍醐味ってこういうことじゃないのでしょうか。
そして、最後3つ目として、一言感想の方でも述べたように、個別シナリオの失速感。
とは言え、それこそ共通シナリオと個別シナリオでは扱うテーマそのものの違いもあって、明確に失速というのは語弊があるのですが、要は、詰め込みすぎて精彩を欠いてしまったということです。
思えば、今作の共通シナリオは熱量を伴った牽引力あるものに仕上がっていました。
これは、非公式生徒会の活動というはっきりした主軸があり、それを起点としてキャラクター同士の輪を描いていたからなのでしょう。
テンポの良いテキストを武器に繰り広げられる掛け合いは本当に特筆すべき魅力がありました。
しかし、個別シナリオで恋愛という要素が絡んできた時、一気にぼろが出てきてしまいました。
当座の目標を見失い、宙ぶらりんになってしまったんです。
主人公とヒロインの恋仲を描かなくてはいけない。
同時に、他キャラがフェードアウトすることがないように横の繋がりにも気を配らなければならない。
更に、ヒロインの成長劇もその中で見せていかなければいけないわけです。
結果、どうなったか。
盛り込み過ぎたため急ぎ足になり、主人公が活かしきれず、場面の繋ぎも雑になってしまった。
言ってしまえば、なんて事はない。先に述べた2つの問題点って実は個別シナリオに帰着するようなものなんですね。
そんな皺寄せを受けてしまったがため、どうにも座りが悪くなってしまったのでしょう。
それでも、荒削りながら書きたいことは書けていたように思えますし、少なくとも私の求めていた“仲間との友情”は概ね達成できていました。
と、批判的な内容はここまで。
それなりに高得点を付けているからには、本作の魅力にもちゃんと触れておきます。
まず、ひときわ目を惹きつけるのが、集団の中で各キャラクターの個性が生きてくるという“コミュニティ”を最重視した作りになっているという点。
集団内に埋没するのではなく、誰もが主役としてスポットが当てられているのが印象的です。
また、上記ではマルチザッピングのマイナス点にばかり触れてしまいましたが、各々の立場、心理や意図、他キャラへの働きかけや集団で担う役割を動的に書き出す上では、実に良い選択であったと思います。
読み疲れさせないテンポの良い会話も中々お目にかかれるものではないでしょう。
個別ルートに突入してからも、他キャラの見せ場がいくらでも転がっているという点も見方を変えれば嬉しいものです。
不満点として個別シナリオがどうこう書きましたけど、こうした仲間との繋がりを放棄してしまわなかったのは、今作を貫徹する大きな美点となっています。
だって、それが彼らの掲げる“青春事情”であると思うから。
このように、絡み重視のため各キャラに愛着を持ちやすく、欠けてはならないパズルのピースのように、みんなで作っていく青春劇に足る雰囲気作りは大変評価したいところです。
それから、声優陣の熱演にも目を見張ります。
中でも、最も功労者であるだろう上原あおいさん。
低い呻き声、ドスの利いた低音声、自棄気味の声、声にならない悲鳴、金切り声、絶叫、棒…等など、実に多彩な声色を披露してくださいました。
それでいて、どれもが燐音というキャラクターを崩壊させることなく演じきっているのだから驚愕する他なく、演技の幅の広さと確かな力量を感じました。
最後に、1番好きなヒロインは咲耶です。
軽口を叩き合え、ノリもよく友達感覚で付き合えるような子で、一緒にいても気疲れしないような空気感が魅力的。
加えて、女子力も高く本当にいい女だと思いますし、少々頭が足りていないところも愛嬌があって堪りません。
嫁にするという意味で一番イメージしやすいヒロインで、一途に尽くしてくれそうなひたむきな愛を感じられます。
また、明確な目標があれば頑張れる子というのも好感度が高く、そんな努力がとても眩しい。
ダメ出しといえば、あまり巨乳は好みではないので、その豊満なバストを少しくらい燐音ちゃんにでも分け与えてやれば…おっと、これ以上は。
また、1番好きなシナリオは棗先輩ルートです(咲耶√は前述したように致命的な欠陥がありましたので)。
お互いに、友情の「好き」と恋愛の「好き」の違いが分からないと弁明した上で、一緒になって結論を探っていくという在り方が、何とも“恋人との共同作業”らしさを醸し出しており、初々しい味がありました。
本人達は自覚してないのですが、傍から見れば立派な恋人同士。
“恋”という感情が分からないからといって、互いに互いを拒絶しなかったのも宜しい。
主人公から先輩の方へ与える一方だった関係から、しかし甘えているばかりではいけないと一念発起して見事に自己変革を果たす変わり様も、彼女の愛情や母性が垣間見えてきて微笑ましかったです。
上述したような問題点の影響を比較的受けなかったシナリオでもあって、安心して話を楽しみ、先輩に萌えることが出来ました。
◆総括
主人公が話を切り出し、男衆が同調し、咲耶が乗っかり、ちまちが茶化し、燐音がツッコミを入れつつ、棗先輩が的外れなことを言って、最後に皆で「あははー」と笑う。
「一緒にいたいから、一緒にいる」
残念な彼らの、だけどどこまでも輝かしい青春事情。
細かいことは良いんです。
ただただ楽しくありたい、そんな真っ直ぐな思いが今作の絶対的な魅力です。
個人的には、残念ながら発売前の期待値(ちなみに点数化すると84点くらい)には届かなかったものの、プレイして素直に楽しいと思えた作品でした。