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まつさんのこころリスタ!の長文感想

ユーザー
まつ
ゲーム
こころリスタ!
ブランド
Q-X
得点
84
参照数
3214

一言コメント

キャラクターの作りこみの巧さは健在。なかでも、アルファには良くほだされました。ちなみに、『こころナビ』をプレイしていると本作における見通しがだいぶ良くなるのは確かですが、キャラを堪能する限りにおいては別に必須じゃないです……です!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 実感のこもったテキストと純朴な雰囲気が魅力的な作品。まぁいつも通りのQ-Xと言ってしまえばそれまでですが、やはり丁寧に主人公の内面を噛み砕いていく持ち前のテキストメイクから生み出された空気感は他所の作品では味わえないような肌触りでございました。ただ漫然とテキストを追っていくのではなく、その作業の中に我が身として咀嚼できるものがあるのが嬉しいです。「うんうん、わかるわかる」と一人頷いていると、いつの間にやらユーザーと作品世界とが近しくなってゆくような馴染みの深さがあるのですよね。また、過度な説明無しにキャラクターの関係性を悟らせるようなテキスト表現はやっぱり唯一無二だと思っております。
 
 お話の仕組みとしては結構斬新、というか古めかしいつくりで、「主人公=俺」図式が推奨されるような語り口。というのも、主人公の内心の好意が明確にされないままに、ユーザーの意思を選択肢としてヒロインへの「好意」に変換していく仕組みになっていて、昨今のエロゲとしては珍しいタイプなんじゃないかなと思います。
 とにかく、各ヒロインに対する好意の度合いをシナリオは教えてくれません。言明しないことにより、ユーザーの想像力へと委ねていく、つまり想像による補完を促していくシナリオメイクは、いかに主人公の心情と擦り合わせられるかによって物語への入れ込みが大幅に左右されちゃうところがありそうです。シナリオの大部分を共通シナリオが占めるという思い切った構成も、ユーザー共々ヒロインへの好意をゆっくりと育み、蓄積していくという意図が隠れているように思えます。弊害として、受動的な読みに慣れ親しんでるような人なんかは戸惑いを覚えちゃいそうですが、作品とユーザーの間で相互作用を生んでいくというお話づくりはやはり感心させられるものがありました。ゆえに、当たればデカいです。
 
 その一方で、大仰すぎる舞台設定を与えておきながら、こじんまりとした人間交流を描くまでに留めちゃってる潔さは人によっては、というか大半の人にとってはインパクトに欠けるものでもあるでしょう。なにせ作品の大部分を共通シナリオが占めるという、日常の積み重ねが念頭にあるようなシナリオですから。それも「ヒロインとの交流やコミュニケーション」という標榜を崩さず、確固とした重心があるからこそなんですが、どう言い繕っても地味は地味。まぁでも「10人中7人くらいは凡庸な作品と答える一方で、残りの3人くらいには大当たりしてしまう」特別な情味を纏ってるのがこのブランドの味であると勝手に思ってますので、変わらない路線にほっとしました。なんつうか、この批評空間にて過去作品群をとってみても、75点(この感想を投稿した現時点で)に届くか届かないかくらいの微妙なラインをキープしてるところにあらわれてるのかも。作品の寸評としてシナリオやキャラクターの良さなどは表立って語られやすいんですが、こういうテキストが醸す良さみたいなミクロな視点は度外視されがちですからねぇ…。何かしら感じ入ることの出来た人にとっては必然的に評価が高くなりそうです。

 ところで、亜方氏の描くキャラクタービジュアルは、女の子の特徴をよく捉えていながら適度に崩しておくという塩梅がめちゃくちゃ好みなんですが、どうにもエロゲらしからぬと思ってしまう人も多そうで……。う~ん、そうかなぁ。あと、おっぱいの描き方が最高です。極端に誇張や主張などはせず、人体のバランスにおいて均整が取れている。くわえて、理想的なお椀型。美乳は正義。
 立ち絵もパターンの種類が豊富で、差分についても裸、水着、下着、制服、私服…そこにマフラーやコートといったアイテム類が装着されてくるのでだいぶ多い。場面場面で最適な立ち絵や表情、ポーズはやっぱり楽しいです。

 


▼現実に即したようなシナリオ

 まず登場するヒロインの「個性」が光ります。髪色や髪型なども含めて、二次元的なテンプレから外れているという意味で、至って現実味のあるキャラ造形。
 
 メルチェなんかは凄く突飛なキャラクターではあるものの、その独特の言い回しがかえってリアリティの構築に貢献しているんじゃないかと錯覚しちゃいます。“異国”を意識させてくれる分、交流やコミュニケーションという側面に実感が出てくるのですよね。また、こころナビのアイノのような立ち位置を踏襲しながらもオリジナリティをしっかりと魅せていくところに、作り手に大事にされたキャラクターを感じ取ることができます。 
 マリポ先輩にしても、長身貧乳というコンプレックスやネガティブ思考などは卑近なものを感じてしまいますし、二次元へと傾倒している重度のオタク具合に親しみを持ててしまう。とりわけ真理歩ルートが優れていたと思うのは、そういう彼女の人柄を表すように、決して浮ついたりしない地に足の着いたお話づくりだったところで。探り探りの鯱張った初デートからの偽乳の告白という流れは、本人の肩肘張った態度と相まってズレた行動として映ってしまう微笑ましさがあります。そして、そのスマートにいかないからこその不器用さが、コミュ障っぷりをことさらに引き立てておいてくれるので、そこに同族意識からの安堵感をも感じ取れちゃうくらいの肌触りが得られてしまう。ところが、初えっちのときにアソコがつるつるであることを指摘されると、お固いお姉さん像から一気にお茶目なお姉さんへと皮が剥がれて(ついでに偽乳も剥がれて)ゆき、ますます愛嬌が際立ってくる周到性。相手を知れば知るほど愛おしくなってゆく、「恋愛」を通したコミュニケーションの真髄がここにありました。また、親と衝突してグッズ類を全て処分されてしまったくだりなんかは同情を禁じ得ないものがあり、そっと合掌。主人公が救出しておいた事を知ると我が身以上に喜ばれてしまって複雑な気分に襲われるのはご愛嬌です。

 主人公は、卑下するように自身を「コミュ障」と称しますが、自分に対する保険とでもいうように予防線を無意識のうちに張ってしまっているフシがやっぱり共感出来てしまいます。だから、アルファに尻を叩かれながらもしっかりと行動に移せるのは素晴らしいことだし、そういう「変われる」というポジティブな意識が物事をより良い方向へと導いていくという精神論もあながち捨てたもんじゃないと思わせてくれるところが憎いです。こころナビの勇太郎クンに比べると、世間に対して斜に構えた態度などは今風かなとも思いましたが、何だかんだで根は実直な主人公でした。
 「現実など、2.5次元へ帰るための通行料を稼ぐべくやっているバイトのごとく」をモットーに生きる彼ですが、こころリスタを使うためのナビ銭稼ぎという動機が加わると、高尚のように思えたコミュニケーションが途端に俗っぽい何かに成り下がってしまって。ゲームの好感度稼ぎにも似て、女性と触れ合うことによる結果の数値化はインセンティブとして機能しますし、そしてそれは「そんなもんでいいんだ」という自信にも繋がるあたり、よく出来たシステムだなあと思ってしまうわけです。そういうふうにして、即物的な下心という性質まで飲み込めるようになるとますますコミュニケーションが弾んでゆき、建設的な自己改革へと繋がっていく流れは巧みに思えました。

 ところで、意思を持って自律的に行動するラウンダー達とかアカイイトウイルスとか、そこら辺の話は結局どうなったのよというように、引っ張るだけ引っ張っといて未解消の部分も目立ちます。もっと膨らませられるような土壌は出来ていたように思いますし。ライターにとって重要視していない箇所はばっさりと省いていくスタンスの弊害でもあるんですが、割を食ってしまった彼女達がやっぱり惜しい。現実味のあるヒロイン達とは対照的に、二次元的な記号で固められ、きらびやかな意匠を凝らされたラウンダーたちの魅力もホンモノでしたから。しかし、バーチャル空間でのお遊びを充実させようとすればするほど、それは現実を蔑ろにしてゆくのと同義であって、本作の主目的が「真実の恋」である以上、それは規定路線なのですね……。ですが、ラウンダーの中に「心」や「意志」を発見することで、ネット空間もまたリアルと同等の重みとして価値観の変容を促し、それは現実におけるコミュニケーションの橋渡しとなるというような観点で語るならば、なかなかに上手い舞台設定であったと言わざるを得ません。
 それから、「こころリスタ」という端末の万能性に見られる魔法のごとく何でもありみたいな設定は、今作でも顕著でした。書き手の頭の中には取説がしっかりと入っているのかもしれませんが、こちらから見れば後出しの連続で。そうしたシナリオは見方によればすんごく安っぽくなってしまうのが玉に瑕。



▼妹シナリオとして

 まず何ていうのか、地味めなビジュアルもあって、はっきり言ってファーストインプレッションとしては相当弱い。しかも片方は眼鏡っ子だし。もう片方も合成音声で喋らせてあるので、こっちはこっちで尖りすぎたキャラクターになってるとこが痛いです。ピーキーというか挑戦的なことやってんなぁと体験版やりながら思ってました。ええ、この時点では。とりわけ“可愛らしく”描ききらないところに実の妹として妙におさまってしまう巧みなバランス感覚を感じますし、あまりにも妹として居心地が良すぎてくると、今度は性的な目で見られなくなってくるという。

【星歌】「そう、一番ダメージがあるのは股間。ちょーどノズルをクリさん辺りで押しつぶしてさー、女なのにピューとか発射しちゃって、今思い出すと笑うんだけどー」

 あけすけな物言いが兄妹あるいは家族としての関係性を裏付けつつ、その醸成された気安さが実の妹として並々ならぬ実態を与えていて。
 特に雪音に対しては、エロゲでありながらリアル妹と同じような目線でもって接することが出来てしまったのには感服してしまいました。だからこそというか、彼女が幼い時分より兄に対する恋慕を抱えていたという事実が私の中で上手く処理出来なかったのは無念という他ありません。皮肉にも実妹としての完成度が高すぎてしまったがゆえに、シナリオを通したときのエロゲっぽい展開に少々肩透かしを食らっちゃったような感じです。互いに兄妹としてフラット(=無自覚)な感情を持ちながら、どういうふうに好き合ってゆくのかが関心事でしたので。
 まぁそういう個人的な事情を抜きにしても、なんだか惜しい感じ、というかもっと頑張れたような気がしてくるのはQ-Xさんだからでしょうか。いままで多種多様な妹シナリオに触れてきた自負はありますが、それを踏まえても本作では独自性のある材料は揃ってたんで、より突っ込んで描くことができれば妹シナリオの傑作に成り得る可能性すら秘めていたように思うんですよね。《妹→兄》という諸々の感情を、「妹」としての情愛と「女」としての情欲というふうに緻密に要素分解してしまおうというのは面白い試みであると思えますし、その2つを併せ呑みながら、ときに拮抗させるかのように表現する上で、キャラクターの分身とも言えるラウンダーへ仮託してしまうのは実に好都合なわけでして。それだけに、Q-Xお得意の万能魔法で糊塗されてしまった結末は煮え切らぬものを感じてしまいます。妹のケモノ化はいったい誰得なんだ……。でもまぁ、肉体的にも精神的にもミューティと一緒くたになったあの姿こそ、落としどころとしては妥当なのかもしれませんね。
 さておき、性欲から先走ってしまった主人公に対して、あくまで冷静にストッパーとして振る舞うことの出来た彼女の態度に、長年抑え込んでいた想いがしっかりと担保されていたように思えたのは好ましかったです。彼女はそういう自覚的な恋心と照らし合わせるようにして、近親恋愛にまつわる問題を誰よりも承知していたと思いますし、その自制心は伊達じゃありませんでした。

【雪音】「絶対、どこかで後悔するわ。誰か好きな人ができて、言い出せなくて不満ばかりになって、浮気したりして」
【悠斗】「普通に誰かと付き合ったとして…中身を知っていくうちに幻滅したり、されたりして…別れたりしてさ」
【悠斗】「それがウチの場合、至近距離で見てきた妹だぞ?そうでなくとも一生顔突き合わせる…飽きるとか言ってられない存在だぞ?」
そう…妹だから、安心なんだ。妹だから…ずっと好きでいられるんだ。

 血縁を武器に、恋人以上の絆でつながった妹という掛け替えのない存在。まさに妹シナリオにおける醍醐味ですよね。こうした結論にふたりして到達出来たのも、ある意味いちばん近い“他人”だからこそなんですが、そこに過去エピソードが付随してくると、猫が破いてしまったワンピースという一連の事件の重大性が想起され、彼女にとっての特別感がより意識されてきます。いっぽうで主人公の方は、その彼女に送ったワンピースについてはすっかり忘却していましたが、彼にとってはそれが大した出来事ではなかったことの証明になります。なぜなら、彼女が妹であったから。当時の彼にしてみれば、妹の面倒を見るというただ一点に集約されるでしょう。

 いっぽう、星歌√は想定通りというか収まるべきところに収まってくれたような感じで、「可愛げのない妹」から「可愛い妹」への気持ちの変化も無理のないよう描かれてました。彼女も同じくコミュ障であるがゆえに、心を許せるただひとりの異性として兄に惹かれてしまう心理は納得できるものがあります。アルファの要らぬお節介によって、無理やり彼女へと劣情を向けさせる展開はスマートとは言いがたいのですが、そうやって自覚的な立場へと引き上げてやる手管は、近親恋愛へと発展させる上でのお膳立てとして巧妙でした。逆説的に言えば、アルファの超常的ともいえるような介入がなければ成立しえないハードルの高さをそこに見ることが出来ます。
 かくして、女としての「好き」を自覚しその場の衝動で押し倒してしまった後の、彼女の淡白さと変わらぬ態度は嬉しくて。「ああ…やっちゃったなぁ」という空気ごと、主人公の後悔をまるごと飲み込んでいく度量にはやられました。主人公もぐずぐずせずに、ここを起点として彼女と真摯に向き合い、関係を温めていくのが良いところだし、まさしく「こころリスタ」の成果でもあり。あ、タブレットを用いた擬似膣内断面図には笑いました。矢◯先生なみの発想の無駄づかいw

 ところで、両シナリオに共通するのが、社会通念上秘匿されるべき関係を貫く強固な意志であって、結婚、そして出産という世間一般的な「幸せ」は享受出来ないけれども、お互いを尊重しながら世間のモラリティに屈しなかった姿勢は「真実の恋」としてとても説得力あるものになっていました。そしてそれは、他ヒロインと対比させるように(さち、真理歩、メルチェはいずれも子供を授かってるんですよね)、エピローグでの一枚絵は何気ない日常のワンシーンとして切り取られていて。妹と結ばれる前後で劇的に何かが変わることはなく、「恋人関係」を敢えて強調しないところに、Q-Xの実妹にかける情熱と妙があるのかな、と思います。



▼アルファ

 本作においてアルファというキャラクターはかなり気に入りました。「当たればデカい」と前述したように、私にとってのそれがこのシナリオでした。やや大袈裟ですが、「二次元に恋をした」まさにそういう感覚に陥ってしまったとも言えます。二次元の女の子が実際に画面から飛び出てきたらこんな感じじゃないかっていう妙な奥行きがありまして、その表現力には脱帽、いや、パンツまで脱いでもいい。彼女にぐいっと顔近づけられる度に、こそばゆさに襲われてゆくこととなりました。

 さて、「真実の恋」を頑なに否定している彼女なわけですけど、その根底には、バーチャルとして生を受けた我が身に対する慰藉の要素を見出だせてしまうのがなんともはや共感できてしまいまして。おそらくその背景としては、かつてラウンダーたちが自由に恋愛をしていた時代に対する羨望や嫉妬といった感情の影響を受けているんじゃないかと思われますが、そういう必死さがかえって人間的なのです。あるいは、「真実の恋」を誰よりも否定したいと思っているのは他ならぬ我々プレイヤー自身だからこそ、そういう心理を彼女に対して投影すればするほど、その存在が身近になってくるのかもしれません。有り体に言ってしまえば、オタク特有の逃避とか負け惜しみと言った類の負の感情というやつですね(グサッ)。
 また、拾ってきた猫のようにそっと懐におさまってしまうような愛嬌と、ガラス細工のような危うさが、彼女をどうにもほっとけなくさせてるんですよね。やっぱ外見的にも「分かりやすい可愛らしさ」に惹かれてしまうのはエロゲーマーとして業なのでしょうか。バーチャルとリアルの両面を併せ持つ一方で、その垣根をよりいっそう意識させるものとなっていたシナリオは、どうにか共に歩む未来を思索しながら奔走する主人公の姿と重なった一体感を体験できた気がします。
 CV小鳥居夕花さんはとても嵌っていました。事務的な丁寧語を基調とし、文法的に崩した言い回しや口癖を発することでの“二次元”を強く意識させる気安さ。それから、彼女の声音が放つ温度感がまた絶妙でして、淡々とした口調に見え隠れする語気の柔らかさが実に良い塩梅です。耳をそばだてていると、決して突き放されることのない安心感に溺れながら、親しみが湧いてくること必至です。冷たいアンドロイドみたいな顔してるけど、しかしクレープを前にすると途端に相好を崩してしまうアルファさんがとても愛おしい。あるいはファミレスでも、両手にナイフとフォーク持って陶然としている彼女の表情を見てるだけで、いくらでも餌付けしたくなってきます。かわいい。
 
 とりわけ面白可笑しかったのが、性行為に意気揚々と臨もうとするアルファさんとの一幕。純真無垢性がゆえに滾ってしまうものがあり……

【アルファ】「では、セックスしてみるのです」
【悠斗】  「こらっ!いいかげんにしなさい!」
【アルファ】「わ、怒られたのです」

 親に叱られた悪戯っ子のような反応が、CV小鳥居さんのやや高めのトーンと共に、その場の空気を弛緩させてるのが実にコミカルであり、こうした予測とは外れたリアクションと声の調子にギャップ萌え。かわいい。

 いざプールで頑張って手をつないでみると、「手を引いてもらわなくても、行き先は見えていますので大丈夫ですよ?」と純情な男心の機微を真顔で無視してくださるのです。ほっとけない。なにぶん真っ白な状態だからこそ、世間のしがらみなどをいっそ度外視して付き合える都合の良さがある感じでしょうか。それはやはり本作においてはアルファだけが持ちうるものであり、主人公のかねてよりの悲願(?)であった「ラウンダーと恋する」ことに際して、「二次元は裏切らない」っていうエロゲー文法的な信仰と見事に噛み合いながら、その本意が直に感じられるところであって。良いように手綱を握られてる感覚になんだか悔しいなぁと思いながらもアルファのかわいらしさには抗えないワタクシがおりました。恋は盲目と云います。

 猫(プラス)を肩に乗せて顔をほころばせてるアルファさんの温もりを見ていると、「こころリスタ!」もうひとつの側面として、彼女が人間的な触れ合いの中で「恋」を見つける、より正確に言うならば「心」を通わせること、そういう暗示的なものを感じます。まさしく、こころリスタート。恋愛というシステムが双方向的なコミュニケーションを前提として成立している以上、その回路となるのが「心」でした。また、恋愛の価値を担保する関係性とは、アルファの言うところ効率性とは反する「心」によってもたらされた作用であることは、他の√でも「真実の恋」として実証されていたように疑うべくもありません。ですから、気まぐれに猫を助けるに至った彼女の行動理由の源泉が、「心」という感情の発見にあたり大きく貢献していた事実は大変喜ばしいことでした。
 雪が舞い落ちる中で無邪気にはしゃぐ彼女の笑顔は、紛うこと無き血の通った少女のもの。それだけに、幸せすぎて怖い。次の瞬間には壊れてしまいそうな予感を抱いてしまうほど、刹那的な美しさから不安感をいっそう加速させてゆく工程は巧かったです。「こころナビ」をなぞるかのようにルファナの姿と重なって見せたこともあり、こころナビユーザーには込み上げてくるものがあったんじゃないでしょうか。

 ラストは結構あっさり気味。現実に生きるという意味を、他ならぬアルファと共に育んできたという自負が私自身にもありましたから、ここで主人公があっさりと現実を捨ててしまうというのは引っかかりを覚えたところでもあります。いちおうフォローしておくと、その葛藤に際して言及される箇所は文脈上に顕れているので、「あっさりと」というのは少し語弊があるのですが、なにせ2、3クリック程度に収まってしまっているあたりに、気持ちの変化に置いてけぼりをくらってしまったような駆け足感がありました。やっぱり、ところどころで作りこみの甘さを感じるんですよねぇ。
 それでも、ルファナの扱いがイマイチであった「こころナビ」の実情から一転して、アルファはキービジュアル通りの活躍を果たしてくれたのは嬉しいものでしたし、素直な賛辞を送りたい気分です。実妹キャラがフューチャーされているQ-Xではありますが、今作に限っては私はアルファに惹かれて購入した口ですので、その分喜びも倍増という。
 リアルとバーチャルが手をつなぐエピローグは、本作のテーマと関連して、ある種コミュニケーションの極北、二次と三次の分け隔てない未来が広がっているかのよう。恋なんてしなくても人は生きてゆけるけど、だからこそ「真実の恋」とは人生を彩るプラスアルファみたいなもので。例えそれがエロゲのヒロインであっても、真剣になれることはきっと良いことだって、手ずから教えてもらいました。



▼余談

 キラリちゃんにエッチシーンが無いのが心残りです。エロゲー的に言えば逸材だったし、股間に「とっかぁーーーん☆」なキャラボイスとビジュアルを持っていながらもったいない。