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ひのきさんのなごりさんは六堂和里になりきれない -恋愛偏差値0の心理学-の長文感想

ユーザー
ひのき
ゲーム
なごりさんは六堂和里になりきれない -恋愛偏差値0の心理学-
ブランド
INTERHEART glossy
得点
50
参照数
47

一言コメント

ヒロインの設定と性格に致命的な問題を抱えてしまい、期待の斜め下を行く出来になってしまった作品。自身を「高嶺の花」扱いして保身的・打算的な考えでしか恋愛できないヒロインを好きになるのは難しく、せっかくの処女の年上ヒロインとの同棲生活という設定も台無しにしてしまっている。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【シナリオ】

心理学の大学講師にして、女性向けセミナーも開く恋愛のプロと名高い「六堂 和里」は、ある日新入生の「春野 風弥」から告白される。
高値の花に見られながらも実は男性との交際経験など一切なかった和里は、自身の研究と執筆中の本の完成のために
彼の告白を受け入れ、同棲を始めるが…というお話。
テキストは地の文を含めて全て和里視点で描かれます。

憧れの年上ヒロインが実は処女で、高嶺の花を演じようとするもののボロが出てしまい…という王道的なラブコメを期待するところですが
肝心のヒロインが魅力的でないどころかマイナス面ばかりが目立ってしまい、純愛モノとして素直に楽しむのが難しくなっています。
というのもこの和里というヒロイン、やたらとプライドが高く自身の「高嶺の花」という体裁を気にしてばかりな上に
常に相手を見下すような考え方で接してくるので、ギャップ萌えとか言う以前に見ていて不快感を覚えてしまうのです。

風弥くんにアプローチする時も「あの六堂 和里がここまでしてるんだから~」みたいな考えばかりが出てきますし、
それが上手くいかなければ「私がここまでしてるのに何でよ~!」と相手のせいにし、上手くいったらいったで
「ほら、男なんてこうやればイチコロなんだから」と得意気になるので、どう転んでも面白みが全くありません。
こうした浅慮が裏目に出て破局寸前になる終盤のイベントも、「身から出た錆だし残当、ざまぁww」という感想しか出てきませんでした。

ラブコメ部分においても重要なポイントがことごとく雑な描写になっているのもマイナスポイント。
交際開始当日から同棲開始というオイシイ展開に持っていったにも関わらず、お約束イベントも脱衣所で裸を見られた程度。
1つしかないベッドに初日から同衾するところもイベント1つ出来そうなのに、数行のテキストで片付けてしまいます。
エロシーンも処女のはずのヒロインが半ば襲うように彼氏を無理やりひん剥き、初めて見る男性器にドギマギもせず普通に射精させて終了。
なんのための同棲展開で、なんのための年上処女ヒロインなのか。ライターの感性を疑います。

こんな有り様なので和里が風弥くんに惹かれて変わっていく様子も上手く描けていません。
最初から相手を手球に取る事ばかり考えていて、そのために色々な過程をすっ飛ばしていきなり性行為に至ろうとするので
上手く描けるはずもありません。
恋愛初心者同士の初々しいイチャラブを期待していると肩透かしを喰らうでしょう。

「最初の頃は愛はなかった」というのは、後々本当に愛するようになればこそ活きる設定でして。
体の相性が良かったのと、こんな自分を受け入れ愛してくれるから…これでは「自分に都合のいい存在だったから」としか映りません。
たまたま本の執筆に行き詰まっていたところに、自分に好意を持った手頃な異性が現れただけにしか見えないので
タイミング以外でそれまで和里に言い寄ってきていた男達との違いがよく分からないんですよね。
風弥くんでなければいけない理由も、愛せるようになった理由も希薄。
だから終盤まで自分から彼に「好き」と言えなかったんじゃないですか?

結局最後まで和里は「高嶺の花」である自分に酔い、そんな自分を愛してくれる存在が欲しかっただけの、
どこまでも保身的かつ打算的な人間にしか見えませんでした。
せめてテキストが風弥くん視点であれば、こうした醜い部分も少しは包み隠せたかもしれないのに…。


【キャラクター】

●六堂 和里

 プライドの高さと打算的な考え方が鼻につく本作のヒロイン。
 しきりに「六堂 和里が~」って言っていますけど、そんなに高名で素敵な人物なのかプレイヤーには疑問です。
 ちょっとルックスがいい大学講師ってだけで、この性格と年齢では結婚できずに売れ残っていたでしょう。

 執筆中の本の内容も、心理学講師が書いたというより勘違いした女性有名人のエッセイみたいでお察し。
 大半が性欲絡みな同棲生活を参考に書いた本など、下品な週刊誌のコラムと大差ないんじゃないでしょうか。

 彼女自身の振る舞いにも心理学要素はほとんど出てこないので、有能なキャリアウーマンという印象はあまりありません。
 よって先述した性格の悪さがより際立って見えてしまい、魅力的なヒロインとはかけ離れてしまっています。
 完璧超人に見えて実は男性経験皆無なポンコツヒロインって、本当はすごく魅力的なはずなんですけどねぇ…。

 風弥くんに片思いしている同級生の東出さんにわざわざ自分から恋人マウントを取りに行くのも大人げなさすぎてドン引きでした。
 見ていて共感性羞恥を覚えるレベルです。年下の教え子相手に何をしているんだか。
 自身の気持ちより彼の幸せを優先して和里の背中を押す彼女の方がよっぽど大人で魅力的ですよ。

 異性からの性欲が苦手な割には、自分自身は性欲丸出しで風弥くんに襲いかかるダブルスタンダードさもねぇ…。
 自身が嫌っていたヤリモクの男達とやってる事が同じなのはいいんでしょうか。
 それも当初は好きでも何でもなかったいち生徒に処女を捧げる訳なので、貞操観念も高いのか低いのか分かりません。

 風弥くんもよくこんな彼女に幻滅せずに添い遂げ続けられるな、とむしろ感心すらしてしまいます。
 どう考えてもこんな女はさっさと見限って、同級生の東出さんと恋人になっていた方が幸せになれたでしょうに。
 彼も全然キャラの掘り下げがなく何を考えているのか分からないので、余計にこのカップルが歪に見えてしまうんですよね。
 まさに割れ鍋に綴じ蓋。こんな二人なので、お互い本当に好き合って結ばれる姿を見ても特に何も感じませんでした。

 声は賛否両論ありそうな感じです。全く合っていないとは言いませんが、イメージと違うと感じる方もいるでしょう。
 本編が全て彼女の視点で描かれ、心情もボイス付きなので苦手な方は余計にプレイがしんどく感じるかもしれません。

【ビジュアル・演出】

CGはこの作品唯一の長所。
好みはあれど年上ヒロインとしては和里のキャラデザは悪くありません。
彼女以外のキャラが立ち絵すらないので、主要キャラはビジュアルくらいは用意しても良かったと思います。

演出はテンポを損ねるところが多く微妙。
背景や立ち絵がやたらと左右にスライドするのが作品のチープさを強調しているようで…。
というかスライドする背景っておかしいですよね。紙芝居みたいな切り替わりになっていますけど、これ本当に令和のエロゲーですか?

場面転換ごとに出てくるアイキャッチも頻度が多すぎる上に飛ばせずテンポを損ねていました。
十数クリックでも場面が切り替わるたびに出てくるのは流石にちょっと目障りです。


【エロ】

シーン回想は11枠。BGV、射精カウントダウン機能あり。
中出しか外出しかの選択肢がいくつかありますが、シナリオは分岐せずCG回収率のみ影響します。
テキストは卑語はそこそこあるもののエロさはあまり感じませんでした。CGに助けられている感が強いです。

プレイ内容もオーソドックスなものばかりで、コスプレやアナルなどマニアックなものは一切なし。
回数が多い割にどれもほとんど似たりよったりな内容なのは非常にもったいないと思いました。
本編プレイ中もこれが最後のエロシーンかな、と思ったらまた似たようなエロシーンが始まって飽き飽きしていました。
心理学的に男性の嗜好を探るためとか、色々なプレイを試す理由なんていくらでもありそうなのに…。
ヒロイン自身の内面的な魅力がないので、キャラに入れ込んで抜くというのも厳しいと思います。


【総評】

ヒロインの設定と性格に致命的な問題を抱えてしまい、期待の斜め下を行く出来になってしまった作品。
自身を「高嶺の花」扱いして保身的・打算的な考えでしか恋愛できないヒロインを好きになるのは難しく、
せっかくの処女の年上ヒロインとの同棲生活という設定も台無しにしてしまっています。

シナリオ・テキストが悪いのか、企画時点から既に間違っていたのか…。
3~4時間もあればプレイできるのでそこまで痛手ではないですが、良質なロープラ作品は他にいくらでもあるので
よほど気になる方でもなければ別の作品に手を出した方が賢明だと思います。
自分はエロゲープレイ時はいつもお気に入りのシーンのためにセーブデータを作ったり画面をキャプって保存したりするのですが、
このゲームではそうした記録を一切残すことはなかった…という事から察していただければ。