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はちみつボーイさんの遥かに仰ぎ、麗しのの長文感想

ユーザー
はちみつボーイ
ゲーム
遥かに仰ぎ、麗しの
ブランド
PULLTOP
得点
85
参照数
2583

一言コメント

よくできた2次元イメクラ。

長文感想

よく考えてるなと感心した。

シナリオを二分化するのに併せて、ヒロインすら二分化する。
片方が貧弱体型ならもう一方は大人の女性に。片方が自由奔放を望むなら、
片方は過剰なまでに責任感の強い娘に。片方が堅いお嬢様ならもう一方は
親しみやすい親友タイプの娘を配置と。そのうえで、双方のシナリオの流れ
を基本的に同じものにすることで、結果としてそれぞれが互いの個性を
引き立たせると共に、両極端故に必ずどちらかはユーザーの嗜好に適う
可能性が極めて高くなる。うまくいけば両方気に入ってもらえる。

また主人公だって、スタンスが変わる。彼女らに対し、頼りがいのある兄
を演じたい(包容力のある自分に酔いたい)だけなのか、対等に隣を歩く
パートナーとなりたい(欲望的要素が勝る)のか。故に片方は都合が良い
ほどにシナリオ上に痛みを感じる部分が乏しく、片方は悲しいほどに無力な
序盤と激的な逆転勝ちがセットになるのだろう。

一見、権力にトラウマを持つ正義感溢れる男性が、状況に流されるか弱い娘達
を救い結ばれるという構図は、ひっくり返せば、彼が彼女達に尽くされ癒される
構造を呈する。愛とか恋とかに浸っていれば、感動に満足できるだろうし、
ふと周囲を見渡せば、イメクラ凰華女学院は今日も色とりどりのお嬢様を揃えつつ、
愛とか恋に飢えたお客様をお待ちしておりますよ、言われていることに気付くのだ。
エピローグなぞはその最たる象徴で、苦笑を抑えられなかった。

PULLTOPというメーカーは毎回のように、前作で得られなかった何かに対し、
次回作で前進を得る、良い意味で賢しいメーカーだ。「ゆのはな」はシナリオこそ
優れていたが、牧歌的過ぎてインパクトに乏しく、そもそもプレイするという
段階に導くまでが課題となった。そこで「PRINCESS WALTZ」ではその設定方面の
インパクトで、発売前から爆発的な知名度を得ることに成功するも、結果中身が
伴わないが故に急速に話題性を失った。だから、今回はユーザーの印象に残る
ことを命題としたらしい。企画に沿うために機械的に構成されたシナリオの話題性
こそ薄れたが、未だにヒロイン人気は強烈に根付いたままであり、イメクラとして
の本懐は100%以上の成功を得たと思える。

得点基準は、作品自体はいたって予定調和の塊であり、シナリオは添え物に過ぎない
ことから、私的良作基準のボーダー60点に、忠実に命題を追求したことを評価
(当たり前を演じることは至難の技術であり、決してライターを卑下する意図は無い)
して+15点。「ゆのはな」以降企画面において2度の前進を得ていることから、
期待点として5点。インターフェースの軽さと使い勝手を評価して更に5点。

作品の評価とは別の意味でも、次回作が楽しみなメーカーは貴重な存在と思う。
回を追う毎にプレッシャーは増えるだろうから、砂上の楼閣に等しいものだけど、
今後の奮闘を期待している。