薄い設定をライターの技量だけでひっぱり続けきってしまった良作。
名作と扱われるタイトルには、主に「感動した!」と興奮気味に言わせるものと
「特にどことは言えないがよかった」とにこやかに言わせるものがあるが、
今作品は確実にこの後者にあたる。
「特にどことは言えない」のは、目に見える演出や設定の壮大さ・美麗なCGとは
異なるところに賞賛すべき箇所があるからで、私的にシナリオライターの「巧さ」
こそがそれだと考える。
立絵パターンの豊富さにも助けられているが、モノローグや状況描写の過多が目立つ
ライトノベル的なノリにならず、あくまでゲームシナリオに徹したという意味での
完成度も比較的高い。
大風呂敷という言葉があるが、このライターは逆に全く風呂敷を広げることなく、
作中の登場人物全てをバランス良く掛け合わせてシナリオを書き切ってしまった。
藤原氏を原画に据えたのは、牧歌的な舞台に良く映え、且つヒロインゆのはの
「毒」を抑える意図によるものだろうが、なかなか良い配慮だと思う。
ただし椿シナリオだけ、最近の量産型エロゲにありがちな、動きの少ない一対一
構造的なクオリティの低さを感じた。また、今となっては珍しくもなくなった
エフェクトを多用した遊び心もほとんど存在しない。
また何よりも牧歌的過ぎて、眼前で悲劇→主人公が吼える のがお好きな方だとか、
数百年~世紀に渡る設定の壮大さに浸るのが好き という方にはまずお勧めし得ない。