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はちみつボーイさんのスズノネセブン!の長文感想

ユーザー
はちみつボーイ
ゲーム
スズノネセブン!
ブランド
Clochette
得点
84
参照数
952

一言コメント

製作陣が自分達のやっていることをしっかり理解しており、構成要素の多くが高い完成度を維持している秀作。惜しむらくは、優れているのは器の方であって、載せる素材自体は練り込みが足りないところ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず、プレイにおける使用頻度を軸にした、ボタン設計に感心。
類似したものはポツポツ見え始めてはいるが、ここまでプレイ
アビリティーを考慮した無駄の無いものはそう見受けられない。

ヒロイン達は、多くが一般的なオタク記号を複数組み合わせ、
見た目から受ける印象+アルファとなることを基本としており、
凹凸のバランスが際立っている。安易に不条理ギャグやパロディに
走らず、キャラの個性中心に掛け合っているので、日常シーンの
安定感は図抜けており、経年劣化の懸念すら無い。

残念なことに、このバランスが徹底し過ぎてしまっていることが、
シナリオ上際立つべき時でも、なおインパクト不足を招いてしまって
おり、これは…という強力な印象付けに至らずに、作品全体を
安っぽくみせてしまう。副作用として、非攻略キャラすら全体バランス
保持の一環であるため存在感が強調されており、要や静穂が攻略
できても良かったんじゃと思えてしまうのは皮肉。
敢えて、差別化を盛り込む意図があってもよかったように思える。

シナリオ上優秀な点はテキストそのものや構成以上に、演出を統括する
スクリプトに集約。キャラの台詞を文節単位で区切り、それをもって
時系列を管理するのは、拘りの職人芸レベルに達している。

ユーザーにとって1クリックの間隔が大いに変化するはずは無く、
単純にスクリプターの負担が2倍・3倍と増えていくだけであるため、
世の9割以上のメーカーはこれに踏み入ろうとしないし、
悲しいことに、所謂ユーザーの千本クリックはこの苦労を一切無効化
してしまうため割に合わないのだが、この徹底が掛け合いのタイミングを
完璧なものとし、細かい挙動の管理が、ユーザーにキャラの人となりや
心情の変化をより正確に伝えるのに大いに役立っているのも事実。

スタッフロールを見る限り、スクリプターに対しシナリオライター人数が
多いことから、一部の才能者の画策というよりも、企画上からこれを
意図的にやっている感が強く、完遂できたことも評価に値する。

結果として、こういった複数の目に見えない融通の良さが、
擬似サブリミナル的な積み重なりを産み出していくため、
普通に安っぽい作品印象に対し、プレイ後の読感はそう悪くはない
という不可思議な状態に繋がるのだと思う。

本作はそのものが優れているというよりは、キャラゲーとして、
素材の持つ魅力をより最大限且つ明確に見せるための優れた「ガワ」であり、
それ自体はほぼ完成していると思う。
足りないものがあるとすれば、作品を強烈に印象付けるための仕組み
であり、昨今高評価を受ける作品は寧ろその部分だけに特化した
雰囲気ゲーが多いため、なんとも歯がゆさを感じてしまう。

キャラの塗は明色が強めだが、これは背景CGの彩度との比肩や
夜間シーンが多いこと、明色が強い魔法エフェクトとの親和性からも
極自然な選択だったと考える。少なくとも理にかなってはいるし、
正直このメーカーはそこまで考えてやってるような気がする。


派手な仕掛けよりも地味な作り込みに徹する方を選択している、
最近では珍しいタイプの作り手集団だと思います、クロシェット。
次回はデフォ買いしても良いと思った。