透き通るような綺麗な文章で流れるように頭の中に入り込んできます。陸上に青春をかけたヒロインと一線を引いた主人公の物語です
【なぎさルート】
友達の瀬古が何故駅伝にかけているのか理由を知ってから秋人は夜中にランニングを行ったり、
試験前にも関わらず瀬古のトレーニングに付き合って全力で走り込みを行ったりと、
確実に「走りたい」と思う気持が表面に現れてきました。
これには引っ込み思案だったなぎさも影響を受け、負けるのを分かっていて知花先輩とタイムランで勝負し、
秋人がマネージャーとして今後サポートする必要が無くなったと思えるぐらいの成長ぶりを見せます。
そしてなぎさの成長は秋人の走りに対する欲望を刺激していきます。
秋人は恵を二度と一人にさせてはいけないというある種強迫観念のような物に囚われており、
周囲の人間や秋人自身が走りたいと思っても動き出せないでいる状態になっていました。
事実、瀬古が秋人を救えるのは妹しかいないと喋っているシーンがあります。
そしてラスト手前妹が秋人に対し、
秋人が走るのを辞めたのは自分が理由だったということに気付きながらも兄に甘えることがやめられず束縛し続けてきたこと、
これからは自分の本当にやりたいことを尊重して欲しいことを告げます。
人間は常に楽な方楽な方に流れる生き物でありますが、
自らを律し兄のために自立することを選んだ妹は本当に立派だと思いました。
人は成長するものだということを見せつけられましたね。
ラスト付近の演出が素晴らしく、自動音声でまるでアニメのように一枚絵が流れていき、主人公達のその後の話が描かれ、
なぎさ・秋人・莉菜のいつもの三人が微笑みながら帰宅するシーンからの新規タイトル画面には痺れました。
ラストがこの畳み掛けではイイハナシダナーという印象しか残らないのですが(褒め言葉)、主人公の駅伝の結果などが気になりますね。
自分がプレイした時は既にFDが発売されていたので、アフターはFDで見せてもらおうと思います。
それにしても綺麗なお話でした。悪役が一人も登場せず話が進むので終始平穏にプレイすることができました。
(それにしても瀬古ビッチだけ人生ハードすぎやしませんか?)
【莉奈ルート】
共通ルートの部分から、ゆっくりと秋人を好きになっていく莉奈の心情がとても丁寧に描かれていて、
これから幼馴染三人の関係がどのように変化していくのだろうと想像せずにはいられませんでした。
莉奈はなぎさの気持ちを知っていて相談にも乗っていることもあり、あくまでも一歩引いた立ち位置で秋人に接します。
まるで秋人を好きにならない努力でもしているかのように見えますね。
しかし莉奈の気持が固まるよりも前に秋人は既に自分の気持ちに整理がついていて、秋人は莉奈に告白します。
莉奈は気持の整理がついていない中でも秋人が好きという感情に嘘をつかず告白を受け入れます。
しかし唐突に付き合うことになったためなぎさの恋の相談役としての自分と、
秋人の恋人としての自分という矛盾した環境に身を置くことになってしまったのです。
(こんなことリアルで起こったら相当悩みますね)
なぎさが笑顔で秋人のことが好きだと莉奈に言うシーンは結構心に突き刺さるものがありました。
そして莉奈はなぎさの恋の相談役としての立場を変えることができずに時は流れ、
なぎさが莉奈と秋人が抱き合っている場面を目撃してしまいます。
そしてついに決心したなぎさは莉奈と秋人の前で告白します。
多分これはフられることが前提の告白だと思いました。
結果としてなぎさはフられますが莉奈に対して一つも文句を言わず、この結果を受け入れます。
なぎさが告白した時はドロドロした三角関係の話になるかと思いましたが、
この作品の登場人物達はどこまでも前向きに真っ直ぐなので、
そんな心配は杞憂だと感じられる程すぐに元の関係に戻ることができました。
その後、日常シーンを楽しんでいくと朗らかな雰囲気の中エンディングとなります。
なぎさルートと比べると最後があっさりとしている印象はありましたが、これはこれでありだと思いました。
【涼香ルート】
涼香は瀬古ビッチと同じ動機となる「親への復讐」を糧にマラソンを続けてきました。
当時アスリートであった母が父の記事で徹底的に酷評され、
陸上選手の引退を決断したことの原因は全て父にあると涼香は考えています。
涼香の決意は相当なものであり、過激なトレーニングによる無月経など彼女の身体面にも影響を及ぼしていました。
普段から女子陸上部でマネージャーをやっている秋人は女性のメンタルヘルスケアを行っており、
涼香の現状をなんとか打開できないか試案します。
その結果導き出した解決法が「父と和解させる」ことでした。
しかし、涼香の人生を大きく狂わせる程の確執がある父との関係を良好にさせることは容易には思えません。
ですが秋人は涼香から父の話を聞いた際に、
もしかしたら父が悪意を持って記事を書き、それが原因で母が引退したのは誤解なのではないかと考えていました。
すると秋人の予想が見事に的中し涼香は父と和解することができたのです。
涼香は心のわだかまりが消滅して月経も出るようになり、純粋に走りだけに専念することができるようになりました。
こんな感じで涼香は救われて無事ハッピーENDを迎えました。
秋人は涼香のペースメーカーであると同時に、走り以外の部分でもメンタルケアを行っていたのですね。
なぎさと涼香は同じ陸上選手ではありますが置かれた境遇が全く異なっており、
なぎさルートでは秋人が陸上選手として復帰しますが、
涼香ルートでは秋人はペースメーカーに専念します。
ヒロインによって自分の生き方を変えているのが秋人らしいなと思いました。
【まとめ】
元々このライターさんの書くシナリオが好きで、単独ライターだったこともあり即買いでした。
エロゲー引退宣言から3年間のブランク期間は空いているのですが、全く腕が衰えていなく驚きました。
透き通るような綺麗な文章で流れるように頭の中に入り込んできます。
ミドルプライスではありますが、
個別ルート入るとエロシーン連発でストーリーはそこそこにエンディング・・といったこともなく、
こうして長々と考察を述べられる程練り込まれたシナリオに満足しました。
本作品にはアフターが描かれたFDが発売されているため、次はそちらをプレイしようと思います。