前作では朝日は守られる側でしたが、今作では朝日は守る側の人間となります。前作と比べると若干趣向が異なるように感じられました
月に寄りそう乙女の作法をプレイし、非常に良くできていると感じられたので続編である本作を購入しました。
前回の終わりから、主人公はそのままで物語のキーヒロインがりそなに移って、パリへ留学するのが物語の出だしとなっています。
前作とは途中から分岐するifストーリーかと思っていましたが、衣遠ルートの続きのようでした。
衣遠ルートは途中で話が終わっていたように感じられたので、違和感がここで解消されました。
前作が売れたら衣遠ルートからパリ留学編を作ろう(または最初から続編を作る予定だった)と考えていたのかもしれませんね。
私は今作も前作と同じノリでプレイしていました。
きっと朝日がチヤホヤされて才能を認められ楽しく服飾生ライフを過ごすのだろう、と。
しかし、圧倒的な環境の違いによりその希望は一瞬の刹那に打ち砕かれました。
同じアパート出身のメリルや主人のブリュエットなど心優しい同級生がいるものの、それが何だというぐらい大多数の人間から差別的な眼差しと悪意が突き刺さります。
そして一度朝日とりそなは心が砕けかけます。
朝日をもってしても防ぐことができない明確な悪意に晒され、朝日は妹を守護するため自らの性格を変えてでも立ち向かうことを決めます。
引き千切られたマフラーと黒板に書かれた中傷のメッセージを見せつけられるシーンは、見ていてとても心苦しいものでした。
それだけに朝日の決意は固く、私はここで本作と前作では趣向が全く異なる作品に仕上がっていることに気付きました。
前作では朝日はルナに守られている側の人間でした。
今作では朝日がりそなを守っている側の人間となっているのです。
つまり前作のルナポジションが朝日。
ルナは朝日が学院長から徹底的に精神を追い詰められ、揺さぶられ、甘い蜜を与えられ破滅の道に誘われた時に、朝日を手放すことを一瞬でも諦めることなく叱咤激励しました。
それを今回朝日がりそなにしなくてはならないと感じました。
どれだけ過酷でも決して諦めることのない精神が朝日には必要とされたのです。
それに対しりそなは対象的な立ち位置で学校を休学している程の豆腐メンタル。
あの事件以来、表面的には笑顔の絶えない朝日も内心、気が休まる時は無かったことでしょう。
しかしいくつもの修羅場を朝日と共に乗り越えたりそなは芯の意味で精神が完成されます。
掛け替えのない親友に囲まれ、過去の臆病な性格すらも利用して自らの存在を周囲に認めさせようとしました。
リリアーヌがメリルの衣装をズタボロに引き裂いた時は、罠にはめ、親友を貶めたことを非難しました。
妹を守ろうと躍起になっていた朝日を驚かせる程の強さを見せつけたのです。
最後に、もう守られるだけの存在ではないことをりそなが朝日に示し、一足先に成長を済ませていた朝日がりそなに微笑みエンディングとなります。
二人の成長の契機が過酷な環境だったため、今作では見ていて心ぐるしくなるシーンが多く用意されています。
ですが、朝日という完璧(可愛さも含めて)な従者がいたこと、りそなという自分の弱さと向き合い勇気と強さを得た主人がいたことを、私は忘れはしないでしょう。
ヨーロッパでたった二人の兄妹が立ち向かい、信頼できる仲間を得て、最後には自らの運命すらも塗り替えてしまう。
何人もの夢ある若者が散っては輝きを魅せるパリは素晴らしい舞台となって、二人の青春劇を照らし出したように思えます。