重いテーマの割に緊張感のない主人公と、しつこい幼馴染が不快な期待外れの「鬱ゲー」
巷ではこの作品を傑作として挙げる人が多い。
かの「家族計画」と同じシナリオライターの作品で、しかも「家族計画」と並んで「3部作」と呼ばれているともあって、プレイ前の期待はかなり大きなものでした。
購入前得点100点……プレイ後、おそらく同じ得点をつけるだろうと頭の中で想像していましたが、悪い意味で裏切られました。
テーマは重いです。軽々しく扱って良いものではないと思います。
そしてそのテーマに見合うくらい、哲学的な名言も多く見られ、移植医療の抱える問題点や、死生観とかも考えさせられるのですが、登場人物の設定とシナリオの展開がそのテーマについていけていません。
まず主人公。幼少時は嫉妬心から、つい妹に辛く当たってしまったが、蜂事件をきっかけに全力で守る対象へと変わった……その理由付けの展開は良いでしょう。
また、幼馴染の夕美に対して、誤解から敵意を抱いていたという設定も悪くはないと思います。
しかし、妹の病気が発覚後、色々精神的に打ちのめされていたはずの主人公が、平然と大学のコンパに出て、しかもなし崩し的に夕美と関係を持ってしまう。
その展開はいかがなものでしょう?
妹の加奈は明日とも知れない身です。同じく重い病で身内を亡くした経験を持つ自分としては、この主人公の意味不明な行動に全く共感できませんでした。
安心できないのです。本人がまだ生きているという証の、顔を見るまでは。
そんな状況に置かれているはずなのに、これはないだろうと思いましたし、主人公のその後の行動も、いちいち気に障ってなりませんでした。
また、幼馴染の夕美ですが、あまりにもしつこく登場し、はっきり言って邪魔以外の何でもありませんでした。
妹の加奈が明日とも知れない病にかかっており、それに献身的(?)に尽くす兄の主人公……その状況を病院長の娘である夕美は理解してもいいはずなのに、大変な状況の時に限っては現れ、加奈と天秤にかけようとする。
ルート展開により、主人公に対しては献身的に尽くした夕美かもしれませんが、加奈と主人公の時間を邪魔した悪魔にしか見えず、大変不愉快な存在でした。
幼少期の一件にしても、周囲が誤解していたとはいえ、自分も一緒に主人公をからかったのですから、同罪でしょう。これで被害者面はいただけないです。
また、両親についてもそうです。
主人公が自分の腎臓が適合しないか、もし適合するのであれば移植させてくれと願い出た時も、加奈は所詮義理の娘だから、実の息子の体を傷つけてまで救いたくないという趣旨のことを発言しました。
これも納得できません。
たとえ義理であっても、主人公同様、十年以上も家族として、娘として一緒に生きてきたはずです。
そこには血を超えた絆とか、情というものがあっても良いはずなのに、あまりにも冷淡過ぎて、感動できるものもできなくなりました。
ただただ怒りだけが湧き上がり、加奈がペンダントを渡した時期など、致命的な矛盾点も見つかったりして、100点なんか到底つけられる代物ではないと判断しました。
そして、この作品はとても、「家族計画」と並べられるようなものではありません。
家族計画は主人公をはじめ、一見すごく冷たいし、人間関係を否定しているかにも思えるのに、そこには真純の言葉にもあるように、血を超えた情・絆というものがあり、間違いなく「家族」と呼べるものがありました。
一方加奈はというと、一見すごく良い、感動的な話を見せているように見えて、実際には、いざという時には簡単に家族を切り捨てる親や、命が消えそうになっている妹と天秤にかけさせようとする冷酷な恋人、さらには成長しているように見えて実際自力では何も救えない主人公がいて、見ていて不愉快このうえありませんでした。
これは家族とか、兄妹とか、人間関係を描いた感動の物語ではありません。
単なる腎臓病に負けずなんとか生き延びようとする娘をとりまく、悪魔のような登場人物たちのえげつない話です。
ハッピーエンドのルートもある点は唯一の救いですが、こんな話で、唯一の良心ともいえるような加奈を殺して、それで感動を呼ぼうなんて、とても賛同できるようなものではありません。
腹が立ってなりませんでした。
「感動した」「泣いた」と言っている方々の気持ちまで否定するつもりはありませんが、加奈の不幸に泣いたのか、それとも「名作だよ、泣けるよこれ」といわれていたから泣いたのか、もう一度考えてみていただきたいと思います。
はっきり言って、自分の感覚では、「おすすめしません」